第109話《潜水艦と国家均衡》
夜明け前。
ヴィラの空はまだ薄暗く、海風だけが静かに流れていた。
セレスティアは王国からの緊急連絡を受け、
震える手で魔導通信端末を握りしめていた。
「……リリアーナが……黒炎牙に……誘拐された……?」
ブラッドが息を呑む。
「なん……だと……」
セレスティアは唇を噛みしめ、
端末から聞こえる国王の声に耳を傾けた。
『要求は――潜水艦一隻だ』
セレスティアは目を見開いた。
「潜水艦……?
あれは……主要港を守るための唯一の防衛兵器……
そんなものを渡したら……!」
ブラッドは拳を握りしめる。
「潜水艦が無ければ……
王国の北側の港は丸裸になります……!」
ルナが静かに演算結果を告げる。
『セレスティア。
潜水艦を渡した場合――
ウインザール王国とバルハザード帝国の軍事バランスは
一気に崩壊するわ』
セレスティアは震えた。
「そんな……
潜水艦は……王国の“盾”なのよ……
あれが無ければ……バルハザードの艦隊が
いつでも港を制圧できる……!」
ルナは淡々と続ける。
『黒炎牙はバルハザード帝国の兵隊。
潜水艦を要求したのは――
帝国が王国の防衛力を削ぐためよ』
マコトは眉をひそめた。
「つまり……リリアーナの誘拐は……
潜水艦を奪うための“口実”ってことですか?」
『その可能性が高いわ。
リリアーナは利用されたのよ』
カリナは舌打ちした。
「クソ野郎ども……
国を丸ごと揺さぶる気かよ……」
セレスティアは震える声で言った。
「……潜水艦を渡せば……
王国は滅ぶ……
でも……リリアーナを見捨てるわけには……」
ルシファーは静かに言う。
「姫……僕達…黒薔薇の翼がいるじゃないですか」
セレスティアは顔を上げた。
ルナが続ける。
『潜水艦を渡す必要はない。
黒炎牙の要求を“無効化”する方法があるわ』
マコトは頷く。
「リリアーナを救出して、
潜水艦を渡さずに済む方法……
それをやりましょう」
セレスティアの瞳に光が戻った。
「……お願いします……
みなさん……
どうか……妹を助けて……」
3人は互いに頷き合った。
国家の均衡を守るため。
そして――
王女の願いを叶えるため。新たな作戦が動き出す。
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