第108話《クリムゾン・マジェスティ拿捕》
夜の海は静かだった。
風も弱く、波も穏やかで、豪華客船 クリムゾン・マジェスティ号 は
まるで海に浮かぶ宮殿のように優雅に進んでいた。
甲板では、リリアーナがワインを片手にくつろいでいた。
船内の照明は暖かく、楽団の演奏が流れ、
まるで“勝利の余韻”を楽しむかのような空気が漂っていた。
「セレスティアの方は……どうなったのかしらね」
リリアーナはグラスを揺らしながら呟く。
黒炎牙に任せた以上、失敗はない――
そう信じていた。
その時、見張りの兵が声を上げた。
「船影! 二隻! 接近しています!」
リリアーナは眉をひそめる。
「こんな時間に? どこの船?」
「黒炎牙の紋章を確認!
味方です!」
その言葉に、船員たちは一斉に緊張を解いた。
黒炎牙はリリアーナの“私兵”だ。
彼らが来るということは、
セレスティアの件が片付いたのだろう――
誰もがそう思った。
しかし。
海賊船は左右からクリムゾン・マジェスティを挟み込むように接近し、
距離を詰めても一切通信を送ってこなかった。
リリアーナは少しだけ違和感を覚えた。
「……ずいぶん無礼ね。
挨拶もなしに近づくなんて」
だがその違和感は、
次の瞬間、恐怖へと変わる。
海賊船の甲板に並んだ黒炎牙の兵士たちが、
一斉に機関砲を構えた。
「……え?」
リリアーナが言葉を発するより早く――機関砲が火を噴いた。
轟音が夜の海を裂き、
クリムゾン・マジェスティ号の甲板が爆ぜた。
「きゃあああああ!!」
リリアーナは悲鳴を上げ、
船員たちは次々と倒れていく。
「撃ってきた!?
どういうことよ!!
あなたたち、私の私兵でしょう!!」
叫びは虚しく海に消えた。
黒炎牙の兵士たちは容赦がなかった。
逃げ惑う船員を次々と撃ち倒し、
甲板は瞬く間に血の海と化した。
リリアーナは震えながら後退する。
「やめなさい!!
私は第二王女リリアーナよ!!
王女にこんな――」
黒炎牙の兵士は無言で拘束具を取り出し、
リリアーナの腕を乱暴に掴んだ。
「確保。
ジャンコ様の命令だ」
「離しなさい!!
私は王女よ!!
王女にこんな――」
兵士は聞く耳を持たず、
リリアーナを海賊船へ引きずり込む。
豪華客船クリムゾン・マジェスティ号は、
炎と悲鳴に包まれながら沈黙した。
黒炎牙は――
リリアーナを“拿捕”した。
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