3・斑紋の赤ずきん④
コスモスの花が、船に蹴立てられる波のごとく激しく揺さぶられる。取り囲むようにまっすぐにこちらに向かって来るは、まるまると太ったオレンジ色の体に、短い手足を持つ者。
距離が縮まると、実体が見えてきた。突っ込んでくる者の正体、それはネズミだった。それも、川を越える前にハンスと赤ずきんが拾った、栗のいがさながらの長い針を背中に揃えている。
「『プリーチ』ですか」
言いながら、狩人は拳銃を持つ手に力を入れた。
「厄介な者に目を付けられたものです」
足下で勢いをつけて飛びかかって来るプリーチ。狩人の着ているコートや聖職服の裾、飛躍力の優れた者では、腕にまで張り付いてきた。
狩人は、腕に張り付く者だけを振り払うと、右手に所持した拳銃の引き金を引いた。バンッ! バンッ! 腕から落とされたプリーチは銃弾を受けると、ひっくり返った。一体、二体。目の前に飛び上がってきた者から一歩退き、地に落ちたところを撃つ。三体目。
着衣の裾にしがみつく者を蹴り上げる。重みから解放された左手の指が、引き金に触れた。下に構えて、左右同時に一発ずつ。その後すぐに次弾を撃とうとするも、おしくも片一方が弾切れ。「カチッ」という軽い音だけが、むなしく鳴っただけだった。
「この数に対して、銃撃はいかんせん不利ですね。──オオカミ! 赤ずきん! よろしく頼みますよ!」
コートの端に食らいつくプリーチを払い、左の拳銃で妨げを阻止しながら再装填を図る狩人。プリーチはその最中にも、続々とやってくる。オオカミはいささか面倒くさそうな顔つきをした。
「言われなくとも、分かってるっつうの!」
甲につけた、三本からなる鉤爪がギラリと光る。オオカミは鉤爪を地面に刺して、ほうきで掃くようにプリーチをなぎ払った。土や砂利が吹っ飛び、プリーチ三体が後方にいる同士の元へ落とされる。ボトッ!ボトボトッ!降ってきたプリーチが障害物となり、群の列を乱れさせた。
勢いよく飛び上がって来た二体を切り捨てる。そして、他のプリーチが到達する前に、地面を深くえぐりながら攻撃した。一体は血の飛沫を撒き散らして飛ぶ。しかし、もう一体は寸でのところで体を丸め、背中に生やした針で、鉤爪から己の身を守った。
「チッ! 往生際の悪いマネしやがる!」
オオカミは針の生えていない部分──胸や腹のあたりを狙って、爪を突き刺した。武器を通して伝わる、確かな手ごたえ。
がっしりした腕の筋肉に力を込めて、プリーチを振り飛ばした。
そこに、装填し終えた狩人が再参戦する。弾丸の種類を変えたのか、拳銃から発射された弾が標的に当たると、小爆発を巻き起こした。
砂を含んだ煙が噴き上がり、何体ものプリーチが、方々に飛んでいく。凄い威力だ。戦闘スタイルも、近距離から遠距離型に変更したようだった。横では赤ずきんも足技を駆使して、二人に引けを取らない実力を発揮している。
プリーチは、尚も群を絶やす事なくやって来る。コスモスの花の影から、茂みの中からぞろぞろと。崖を下って来る者までいる。チュッ! チュッ! と短く切った鳴き声が重なり合って、とてつもなくうるさい。こんな大群が潜んでいたのにも気付かず、さっきまでのうのうと枝なんか拾ってたのがウソみたいだ。
こんな花畑で戦闘になるとは、赤ずきんら三人にとっても、予想外の展開だっただろう。それでも、三人は至って冷静だった。数に圧される事なく、着実に処理している。また、たった三人だというのに、大群相手に勝るとも劣らない勢力を持っているというのにも驚きだ。
──これが、赤ずきん達の力──
やっぱり、戦い慣れている人達は強い。胸にかすかな希望の光が灯る。




