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斑紋の赤ずきん  作者: オリハナ


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3・斑紋の赤ずきん③

 

 しばらくすると、狩人が戻ってきた。得たものがあったのか、なかったのか、どっちつかずの顔をしていた。


「この先も、続いているだろうと判断しました。さすがにすべてを確認するわけにはいかず、こうして帰って来ましたが、人の通れる道は綺麗に残ったままでした」


 狩人の憶説によると、わざわざ道を変えざるを得なかったのは、この花畑があるからなのではないか、という事らしい。美しい自然を荒らしてはいけないという人間の美しき計らいが、経路変更という結論に至ったに違いないと。

 狩人はこれが真実であるとばかりに、自分で自分の意見に、至極良い事だ、と納得した。反対にオオカミは、その憶説に解せない様子だった。本人は黙っているが、怪訝な顔つきをしていた。


「ああそうだ。たき火用の木、たくさん集まりましたよ、狩人さん」


 ハンスは服についた土や花粉を落として言った。狩人は荷車に積まれた小山を覗く。


 最初は特になんでもない表情だった狩人。だが途中、悪感を抱かせるものを見てしまったのか、目の色が変わった。


「──自然界の理や災害で折れたとは思えないような、この荒々しい切り口……それが、若木にこんなにも大量に……」


 狩人はぶつぶつ呟き始めると、突如バッと顔を上げる。


「オオカミ! さてはあなた、また生木を折りましたね! あれほど、落ちているものを拾えと言ったはずです!」


「うっせーな。その場しのぎなんだから、ごちゃごちゃしたもんは一旦引っ込めとけや。落ちてるもんにも、限度ってのがあるだろうよ」


「私の前では言い訳無用です! この文字が読めないのですか!」


 狩人は左腕につけた二つの腕章をオオカミとハンスに見せ付けた。一番上の腕章には『森林組合・書記』、そしてもう一つには『みんなで環境守らない会・会員』と文字が書かれている。


 オオカミは真剣な顔して、まじまじと腕章を覗きこんだ。


「えーっと、なになに……『モテない男の会・会長』に、『神々詐欺・首謀者』? ははあ、ご苦労なこった」


「そんなわけないでしょう!」


 怒った後、狩人は調子をととのえた。


「私はこれらに加入している身です。オオカミの行為は目に余るものがありますよ。今は任務中なので、警告だけで済ませますが、帰宅次第、それなりの処分を与えますからね。覚悟しなさい」


 狩人は窘めるように言う。オオカミは、食ってかかったり怒ったりはせず、冷ややかな目つきで、狩人を見た。


「……前々から引っかかってたんだがよ、この際、はっきり言うわ。──なんだよ、そのビミョーな役職は」


「なっ……!」


 狩人は言葉を詰まらせた。


「微妙とはなんです! 立派な仕事ですよ!」


「たかが書記と会員の分際で、偉そうな口叩くんじゃねえよ。こっちが恥ずかしくなってくるぜ。うち一つは頭の悪さが滲み出てるしよ」


「なんですってええええ! もう一度言ってご覧なさい! 次は力を行使しますよ!」


「書記と会員の分際で書記と会員の分際で書記と会員の分際で書記と会員の分際で書記と会員の分際で書記と会員の分際で……」


「オオカミ!」


 いきり立った狩人は、ホルスターから二丁の拳銃を抜いて、銃口をオオカミに向けた。引き金に指をかけていないので、発砲するつもりはないらしいが、それなりに重みのありそうなグリップは、鈍器としての効力は十分望めるだろう。それに対し、オオカミは右手の甲にすらりと長い鉤爪を装備して戦闘態勢に入る。戦いに応じるつもりらしい。かかって来いよ、と手の仕草で(あお)っている。


 張り詰めた空気。静寂の中に、赤ずきんの陽気な鼻歌だけが場違いに響いている。そのままひと悶着あるかに思えた。


 先に動いたのは狩人だった。狩人は豹変したようにぐるんと振り向き、標的をオオカミから、背後の大木へ変えた。


 一発の銃声音が静寂を打ち破る。銃弾は大木に食い込み、シューと煙を放った。


「……」


 オオカミは言葉を失った。別の意味で。


「狩人さん?」


 ハンスは慌てた。


「静かにしてください」


 狩人はハンスに、速やかに荷車の影に隠れるよう促した。ハンスは言われるままに従う。オオカミも狩人の言動に、ただ事ではない様子を感じ取って、周囲に目を向けた。


「有害か? 無害か?」


「分かりません。ですが、こちらが相手方の存在に気が付いているという意の発砲音を鳴らしたので、直に姿を現すでしょう」


 敵意がなければの話ですが、と付け足す狩人。

 いずれにせよ、警戒心を解いてはならないという事だ。相手の実態を把握出来ていない上に、どこにいるのかすら掴めていない。


 コスモスの花が、風でさわさわと揺れる。オオカミと狩人は耳を澄ませて、意識を集中させた。ハンスはドキドキいう胸を押さえて、荷車に身を寄せる。見開いた目は、まるでハエを追っかけているかのように落ち着きがない。

 すると。


「おおーい! オオカミー、狩人ー、何かあったのかー?」


 そこへ、赤ずきんがやってきた。大声で叫びながら花畑の中を走ってくる。

 ぴんと張った緊張の糸が一気に緩んだ気がした。オオカミ、狩人、ハンスの三人は、拍子抜けしてガクッとする。


「赤ずきん……来るなら来るで、もっと早くに来いよな」


「うむ、すまんな。冠が完成したら行こうと思ってたのだ」


 呆れるオオカミに、状況をまったく知らない赤ずきんはニッとする。その時だった。"そいつら"は、一斉に茂みの奥から飛び出してきた。

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