第九十五話 竜の素材
謁見室から出るところで、ヘルグマンドと会った。
難しい顔をしている。
「ヘルグマンド、傷は癒えたの?」
「これはコットン様、ご心配をおかけしました、我は傷ひとつ付いておりません」
「そうなんだ、じゃあ配下の治癒力を高めてたんだね」
ヘルグマンドは、竜族全体の能力や治癒力を高めるバフを持っている。
竜族は個体でも強いけど、そこにヘルグマンドのバフが加わることで、とんでもない強さになっていた。
「そうです、しかし、鍛え直さねばなりませんな、醜態をお見せしました」
「さすがに1000年以上前の技術を持った軍だからね、仕方が無いと思うよ」
でも納得いかないのか、ヘルグマンドは首を振る。
「いえ、我らドラゴンの牙や鱗の素材よりも、あの金色の方が優れているなどと許されません」
「うーん、加工次第じゃないかな、主力のドラゴニュートは亡くなった竜の素材を使っているんでしょ?」
「そうです、強き竜は強き素材を残します、あの金色に後れを取ったということならば、それは死した竜の鍛え方が足らぬということ」
スパルタだなぁ。
まぁ、それでこその竜なのかも知れないけど。
「今、わたしのところにいい職人がいるから、少し素材をちょうだい? 劇的な革命が起きるかもよ?」
「わかりました、配下のものに運ばせましょう」
わたしはもちろん、あの金色と竜の素材を合わせてみるつもりだった。
「王様が、弟子を取らないかって」
鍛冶職人は、困ったような顔をした。
そうだよね、嫌だよね……。
わたしも、弟子をとれって言われたら嫌かも知れない。
「私は、人にものを教えるのが上手くありません」
わかるんだけど……。
「でも、学びたいっていう若い子がいたら、教えてくれる?」
「できる範囲で良いならやりますが……」
「よし、じゃあ弟子はふたりで良いかな」
「それが限界です」
鍛冶職人は、心底それが限界だと目で訴えかけてきていた。
わかりました、そこで食い止めます。
「それとは別件で、竜の素材なんだけど、こういうのがあるんだ」
屈強なドラゴニュートの人に素材を運んでもらう。
「我が軍で、今用意できる一番の素材です」
鍛冶職人が作業の手を止めて、素材を見る。
「これは、エンシェントドラゴンの鱗と牙、骨、それに、仙外境にいたとされる五首の竜の骨ですね」
「ご明察です、さすがですな」
渋い声のドラゴニュートさんが感心している。
鍛冶職人は、わたしを見て頷いた。
「これとあの金色の金属を組み合わせられるか、と言いたいんですね」
「察しが良くて助かります」
「少し時間を下さい」
「はい、結果が出たら教えてください」
さあ、どうなるか、楽しみだった。
昼過ぎの暇な時間、わたしは街を歩いていた。
少しずつ良くなっていく街を見るのは楽しい。
人々にも、笑顔が増えている気がする。
でも、そこに……黄昏れているココを見つけた。
顔を赤くしている。
ダメージ? 叩かれた? 誰に?
わたしは、駆け寄っていく。
「ココ、どうしたの?」
うなだれているココに話し掛ける。
でも、いつもの元気はまるでなかった。
「コットン……」
「もしかして、お父さん?」
「うん……」
ココの貯金を引き出そうとしていたくらいだから、今度は、直接むしり取ろうとしたんだろう。
多分、グレイ君も、カーツ君も、家にお金を入れている。
ギルドに通っている街の子は、大体がそうだろうと考えていた。
「家にお金を入れるのが嫌なの?」
「入れてる、入れてるよ! なのに……全部よこせって……」
そうか、全部か……。
冒険のやる気も削がれてしまうだろう。
「帰るところがないなら、ギルドに泊まる?」
「いいの?」
「いいよ、一日銀貨一枚ね」
「銀貨一枚か……」
「ただで泊めてあげたいけど、お金を払っている人がたくさんいるから、贔屓はできないよ」
「でも、銀貨一枚って安いよね」
「激安だよ」
「それか、アイティラさんと同じ部屋にすれば、ただにできるけど……」
「そうなの!?」
まぁ、それもひとつの選択肢と言うことで。
「あと、お父さんとはグレイ君とかと一緒に話しに行った方がいいよ」
「な、なんでグレイなんだよ」
照れている。
まだ夕陽でもないのに、顔が赤かった。
「グレイ君、幼なじみなんでしょ? お父さんのことも知ってると思うし」
「うん……わかった」
「宿代は、本当は前金なんだけど、お金が入ったときで良いよ」
「ありがと、頑張るよ」
「ううん、頑張らなくて良いんだよ」
そこで、ココはわたしにしがみついて泣いた。




