第九十三話 グレイとカーツとアーレイ
「アーレイ、今日は元気だね」
「うん? うん、いつも元気だよ」
テーブルで暇してそうなアーレイのとなりに、グレイ君が座った。
ちょっと照れているようだけど、恋には積極的なのかな?
様子を見守る。
「アーレイって、お嬢様だったの?」
「うん、国王様の私生児なの、お嬢様って感じではないけど」
「こ、国王陛下の私生児!? それじゃあ、お姫様なの!?」
「しーっ! こ、声が大きいよ」
アーレイがグレイ君の口を押さえる。
詳しいことを知っているのは、わたしだけなのかな?
トレイシーも知っているかも。
だから、グレイ君が知らないのは仕方が無かった。
「ご、ごめん、でも、アーレイ、すごいなぁ」
「すごい?」
アーレイが首をかしげる。
ルックスが良いから、そうするだけで、もうかわいかった。
「だって、僕は下町のうらぶれた職人の五番目の子供だったから、お姫様なんて夢みたいな存在だよ」
「職人は継がないの?」
「兄貴達がやってて、もう定員いっぱいなんだ、僕は違う仕事を探せってずっと言われてた」
「ふーん」
子だくさんの家庭はたくさんある。
農村なら。農作業をするという手もあるけど、街ではそうはいかない。
なにか、手に職を付けないといけなかった。
「でも、冒険者をやって良かったよ、アーレイとも友達になれたし」
「友達?」
「うん、もう友達以上かな、命を助け合う仲だから」
「そ、そうだよね」
アーレイが、椅子に座ったまま足をブラブラとさせる。
何かの癖か。心理状態なんだろう。
「私も、冒険者を頑張りたいの」
「何か目標があるの?」
「うん、すごく遠い目標」
「…………」
ダンジョンマスターを呪い殺す。
それは、果てしなく遠い目標だろう。
トレイシーでもできない。
「そうか、そういうのいいよね」
「そ、そう?」
アーレイは照れている。
多分、グレイ君は思い違いをしているんじゃないかな……。
あんまり、ハッピーな目標ではない。
「僕も手伝うよ、冒険者になってお金を貯めるくらいしか考えてなかったけど、みんなの夢を応援するっていうのもいいな」
「グレイはそれでいいの?」
「いいよ、今のところ目標なんて無いし」
「ふーん……」
グレイ君はアーレイに憧れみたいな感情を抱いているみたいだ。
恋心……まではいかないのかな。
でも、ココさんはグレイ君が気になってるの明らかだし、幼なじみだし、変なことにならないと良いけど。
わたしは余計なことを考えながら、仕事に戻った。
カーツ君を鑑定すると、邪教徒が真名魔法使いになっていた。
ミクロリニアの一件で、邪教徒になっていたけど、オニールさんの改宗を受けて職業も変わっている。
よしよし、これで問題のひとつは片付いたね。
本人が、本格的に真名魔法を勉強したおかげでもあるだろう。
この分なら、お家の人も大丈夫かな。
加護も、冒険者の加護があるらしいから向いている。
こういうルートで魔力が活性化する人もいるんだなぁ。
わたしがそんなことを思っていると、二人組みの神殿の子がカーツ君のところに行っていた。
「カーツ君、女神魔法は覚えないの?」
カーツ君はイケメンだ。
こういう子は、女神魔法の素養がある。
「僕は、神殿には通えないよ」
「一緒にやってみようよ、絶対に覚えられるから」
「そうかな、女神様の信仰なんてあまりないんだけど」
なんだか困っているようだ。
モテる子は、往々にして異性に興味がなかったりする。
まぁ、まだ若いしね。
わたしが言うのも何だけど。
「そういうことじゃなくてぇ、わかるでしょ?」
「わかる?」
カーツ君は不思議そうだ。
どうして自分が女神魔法に誘われているのか、わからないんだな。
「もう、カーツ君かっこいいから、絶対覚えられるよ」
「な”っ”!」
そこに、濁音を響かせた、カエルの潰れたような声が響いてきた。
……そっちを見ると、チェリーさんが神殿の子2人を睨んでいる。
「え、なに、怖い……」
「行こう……」
神殿の子が逃げて行ってしまう。
すると、カーツ君がチェリーさんのところに行った。
「やあ、助かったよ」
「なんのこと?」
チェリーさんはにべもない。
「今僕が困っていたじゃないか」
「女の子に言い寄られて、満更でもなかったんじゃないの?」
「そんなことはない」
カーツ君が、真面目な顔でチェリーさんを見つめる。
「わ、わかったわよ、そんな目で見ないでよ」
おっと、ここで整理しておこうかな。
グレイ君はアーレイが好き、でもココがグレイ君を好き。
ここは三角関係だな。
そして、チェリーさんはカーツ君が好きみたいだけど、カーツ君はモテモテで良くわからない感じ。
アーレイは、色恋に興味無しかな? ちょっとグレイ君に興味持ってるみたいだけど。
そして、アイティラさんはココが好きっぽい。
いつも手を繋いでいる。
うーん、見事な人間相関図になりそうだ。
冒険者パーティーだから、揉めるのは良くある。
色恋沙汰も、しょっちゅうだ。
多感な年頃なんだから、それも青春か。
わたしは、なんとなくふたりを見ていた。




