第九十話 ゴブリン調査2
わたしが同調すると、シールズは洞窟を歩いていた。
果樹園の森に入る洞窟だろう。
「森なのに、地下なのですね」
アイティラさんが、なんか生き生きとしている。
「地下の方が好き?」
「はい、地下だと強くなります」
そういうのもあるのか。
アイティラさんにもしものことがあると困るので、ギルドのマジックアイテムをふたつ渡していた。
ひとつが身を守るセーフリング。
いわゆる身代わりのお守りだ。
大ダメージから一度守ってくれる。
もうひとつが、槍が欲しいと言われて、森の精の槍という割とよく見つかるマジックアイテムを渡していた。
冒険のきらきらを阻害しないように、でも危なくないように、ギリギリの選択だ。
古代都市の兵が使っている装備は、重くて使えないらしい。
ベテラン用だね。
それこそ、上手く加工してもらわないと。
街の中から洞窟に入っていき、やがて森に出る。
「さあ、一時間だ」
カーツ君が、ギルドから貸した時計を見ていた。
「あっ、桃だ、桃がなってる」
でも、ココはそんなのお構いなしに、桃を見つけていた。
「こういうのも含めて一時間だから」
「どうして私に言うの? 別に怒ってないわよ!」
チェリーが憤慨している。
グレイ君の気の回し過ぎだった。
「怒ってるじゃないか……」
ココはするすると木を登って桃を採る。
「おーい、投げるよー」
「桃は傷つきやすいから駄目だ」
カーツ君が腕で×を作る。
でも、ココは投げてよこした。
「大丈夫だよ、ほーれ」
「うわあああ」
みんなでココが投げる桃をキャッチする。
「アイティラさんも、それ」
アイティラさんがキャッチする。
「ふふふ、もうひとつください」
「それー」
「ふふふふ」
なんだか楽しそうだ。
それならそれで良いんだけど。
「今熟しているのはこれくらいかな?」
「もう下りてこい」
「明日とか明後日とかは、またありそうだよ」
「そうだな、全部でいくらになるか、それを見て決めよう」
「そうだね」
30分ほど歩いて、木の実いっぱいと、鳥を二羽仕留めてマジックバックに入れていた。
普通に狩りをしている。
「あれ、いる。みんな隠れて」
「え、いる?」
「多分、ゴブリン」
チェリーの指示で、みんな木の陰に隠れる。
「何匹いた?」
「多分、1匹」
健康状態、食事が良いチェリーだからよく見えたんだろう。
視力は栄養状態が良くないとね。
「よし、やろう」
ココが戦う気満々だ。
「戦わなくて良いって言ってたじゃないか」
弱気なグレイ君は、もちろん反対だ。
「1匹でも多くモンスターを倒した方がいいでしょ!」
「調査が目的だ、退治じゃないって言われただろ」
「どっちがきらきらしてるの?」
「そ、それは……」
アイティラさんの発言に、カーツ君が言葉を詰まらせてしまう。
いや、カーツ君とグレイ君が正しいんだからね。
「ゴブリン退治もきらきらの始まりだよ!」
「そうかなぁ」
グレィ君は反対、カーツ君も反対、チェリーさんは悩み中だ。
チェリーさんが、どうするかで決まりそうだけど……。
「じゃあ、やろう」
「はぁーっ」
男性陣からため息が漏れる。
「ゴブリンは倒した方がきらきらしてるよ」
「さっすがチェリー姉さん!」
「変な名前で呼ばないで!」
カーツ君が諦めたように、アイティラさんを見た。
「ゴブリンの特徴を言います。肌は緑色、弱いものには強く、強いものには弱い、装備はボロボロだけど、ネズミとは違う、ちゃんと道具を使ってくる」
「ふむふむ」
「足は遅い、群れを作っている、はぐれているのは、多分弱い個体だ」
「あと、ゴブリンだって凶暴状態になる」
「キョウボウジョウタイ?」
「モンスターは死ぬ直前になると、暴走して強くなります、だから倒すなら一気に倒さなくちゃいけません」
「わかりました」
なんだか、ワクワクしているようだ。
「チェリー、ゴブリンはどうだ」
「結構近くまで来てる。弓を持ってるから接近戦は弱いかも」
「よし、123で飛び出すぞ」
「せーの、1、2、3!」
「こっちだ!」
みんなとは、木の陰の反対側から飛び出したココが弓を引く。
「ギョッ!」
矢は外れるが、ゴブリンの注意がココに向いた。
みんなが走り込んでいく。
一番速かったのは……アイティラさんだ。
「いきます!」
ゴブリンの肩に槍が突き刺さる。
「グギイイ!」
次に攻撃したのは、チェリーだ。
「神のご加護を!」
フレイルがゴブリンの頭に直撃する。
それで……ゴブリンは倒れた。
「みんな速いよ!」
グレイは、二歩くらい遅かった。
「グレイは鈍くさいからね」
「キアー!」
そこに、甲高い悲鳴が響いた。
声の方を見ると、ゴブリンが2匹いて声を上げている。
「仲間を呼んでる、逃げよう!」
「みんな逃げて! わたしが弓で牽制しながら逃げるから!」
「一緒に逃げよう!」
「グレイより速く逃げるから、行って!」
体力のないアーレイを引っ張りながら、みんな逃げて行く。
でも、シールズはまだ居た。
「……逃げないの?」
「だって、私ゴブリンの群れくらい1人で倒せますから」
まぁ、シールズはレベル20を超えている中堅冒険者だ。
詩のスキルを加味したら滅茶苦茶レアな冒険者だけど、ゴブリンの群れくらいなんとかなるはずだ」
「なーんだ、もう」
「でも油断しちゃ駄目ですよ、ちゃんと逃げてくださいね」
「よし、走ろう」
ココは、宣言通り、ちゃんとグレイに追いつく。
ゴブリンは……追ってきていなかった。




