第八十八話 アイティラ
「火急の用件です、領主様に取り次いでください」
門番の人も、異常事態をわかっているらしく、わたしを通してくれた。
最近よく来ているから、顔を覚えられたようだ。
「領主様、黄金都市をコントロールする宝を返してください」
「返す? 誰にだ」
「そんなことを言って、宝を盗む気であろう!」
王様は、そんなことを言っている。
「この者は、まだ幼子、そのような欲はないかと思っております」
「いくつでも同じだ、人間など欲まみれなのだからな」
鏡を見た方が良い、とは言わなかった。
「あのピラミッドを見ましたか?」
「あれは、ピラミッドというのか」
「金色の、良い建物じゃな」
「黄金都市の王が蘇りました、都市のコントロールが利かなくなっていて、兵達が宝物を奪いにここへやってきます」
「なんじゃと!」
「幸い、今は外に竜王軍がいます、交戦状態に入ると思われますが、いずれ竜王軍も破れるでしょう」
「なんじゃと!? 古代都市兵とはそれ程のものか!」
ヘルグマンドが戦ってくれればいいけど、無闇な交戦はしないかも知れない、そうなったら街の中に古代都市兵が雪崩れ込んでくる。
「なんと、それならば、その古代都市の兵を我が軍に取り入れられないものか」
王は、そんなことばっかり言っている。
よっぽど戦力が欲しいんだろう。
「死して尚、自らの王に忠誠を尽くす者達です、難しいかと」
「うぬぅ」
領主様の言葉に、王様は唸っている。
「王様、宝を返さなければなりません」
「嫌じゃと言ったら?」
「我々は死にます」
「ムムムムムムッ」
元々王様の物じゃないのに、なんでそんなに欲が突っ張っているのか。
「この者の言うことは道理です、返すしかないかと」
「では、娘、宝を渡すときに説得して参れ」
「説得ですか?」
というか、わたしが返しに行くことになってる?
まずくない?
「戦力と宝を交換か、もしくは違う条件を引き出してくるのだ」
「1000年前の王です、常識も価値観も違うものかと」
「とにかく、やってくるのじゃ!」
なんか無理難題をふっかけられていた。
「サーリャ、トレイシー、ついてきて」
冒険を引き上げてきていたサーリャとトレイシーに事情を話す。
「行きましょう」
「私も役に立って見せましょうぞ!」
取りあえず、ふたりでいいかな。
戦闘にはならないと思うけど、万一のこともある。
わたしは、自分の部屋にふたりを入れると、ディーンエヴェンダーを使って、ピラミッドの中と繋いだ。
シールズと同調していたので、内部に飛ぶことができる。
ピラミッドの中は、古代の装飾が施されていた。
やはり王の建物という感じがする。
「コットン!」
ココが飛びついてきた。
みんないる。
一安心だ。
「宝を持ってきました」
「どーして知ってるの!?」
ココが驚いている。
カーツ君がホッとしたように息を吐いていた。
アイティラと名乗った女王は、うんと頷いて、宝を受け取ってくれる。
「これで、黄金都市の膨張は止まるでしょう、兵も引き上げさせます」
壁には、竜王軍と古代都市兵が戦っている様が映し出されていた。
女王が何事かつぶやくと、古代都市兵は、戦いを止めてピラミッドに戻っていく。
ふう、取りあえずこれで大丈夫だ。
最悪の事態は避けられただろう。
でもあの王様の、おねだりがある。
なんだか切り出しにくいけど、やらなくちゃいけない。
「女王様、少し相談なのですが、なにか要求はありませんか?」
「要求?」
「この国の王が、貴女の兵を大変お気に召しています、その戦力を貸して頂けるような、なにか要求です」
みんな驚いている。
それはそうだろう、そんなお願いを思い付くなんて、さすが王様だ。
「1000年前の国を復興できれば一番良いですが……それ以外に願いはありません」
「女王様は蘇ったのですよね、なにか望みはないのですか?」
「ありません……このまま朽ちるに任せます……」
うーん、無欲。
これはとっかかりを探すだけでも大変だ。
と言うか無理だ。
王様、諦めてください。
そのとき……みんな黙っていたその場で、ココが変なことを言った。
「じゃあ……一緒に冒険しようよ!」
「えっ!?」
全員がギョッとしている。
「冒険、とはなんですか?」
「お宝を探したり、モンスターと戦ったり、ときには人と揉めたり、交渉したり、きらきらしたことが、全部冒険、いずれ世界に名を轟かせるのが冒険だよ!」
「ココ! 何を言い出すんだよ!」
「す、すみません、この子ちょっと馬鹿なんで」
グレイ君とチェリーさんがココの口を押さえて、カーツ君が頭を抱えている。
アーレイは、ふーんという具合でいつもと変わりなかった。
大物だ。
「きらきらしたこと……ですか」
「もがっ! そう! あたし、冒険者になってからずっときらきらしてる!」
「こらっ、ココっ!」
でも、女王様はふと笑顔を見せてくれた。
「いいでしょう、わたくしの望みは冒険者になること、そのきらきらというものを見せてください」
「やったー!」
「そんな……」
グレイ君がへなへなと座り込んでしまう。
こんな意外なことが……。
「では、貴女にこの兵力をお預けしましょう」
「わたしですか!? いえ、わたしではなくて、この国のですね……」
「貴女にはよこしまな心がありません、兵をお貸ししても大丈夫でしょう」
あああああああああ……。
なんだか、自分に兵をコントロールする能力が備わったような気がした。
なんでこんな……。
「では、連れて行ってください」
若いパーティーに、女王様が加わった瞬間だった。




