第八十四話 新米パーティーの初陣2
しばらく下水道を進んでいく。
緊張のためか、みな黙っているけど……。
「ん? あれ?」
「どうしたの?」
チェリーが何かに気が付いたようだ。
「ま、前!」
ランタンに照らされていない影から、熊くらいの大きさの、ネズミらしきものが1匹現れた。
「でっかー!」
ココが驚いている。
この分だと、ココが見たのは本当にドブネズミだったんだろう。
「場所を代われ、グレイが先頭だ」
カーツ君が冷静に指示を出す。
みんなも戦闘モードに切り替わってた。
「こんなにでっかいの倒せるわけないじゃん!」
でも、ココだけがいつもの調子だ。
「じゃあどうするの? 死ぬ?」
チェリーは容赦ない。
少しいらついているようだ。
「チェリーは前で戦わないからそんなこと言えるんだよ!」
「わかったわよ、私も前で戦うわよ」
「け、喧嘩はやめようよ」
チェリーさんとグレイ君が前に立つ。
ふたりとも盾を持っているからいいだろう。
「キーッ!」
甲高い声を上げながら、ジャイアントラットが襲いかかってきた。
「こいつ、凶暴だぞ!」
グレイ君は、弱腰だ。
「だって、モンスターだし」
チェリーさんは、肝が据わっている。
ジャイアントラットの突撃を、グレイ君が盾で受け止めた。
「ぐっ、重い!」
「グレイ! 逃げないと!」
もうココは逃げる気満々だ。
「戦うって言ったで……しょっ!!」
チェリーさんが、フレイルを振るう。
でも、その攻撃はあまり効いていないようだった。
「毛皮が厚い!」
「ハッ!」
グレイ君が剣を振るうと、ネズミの血が舞う。
「きゃっ!」
そして、その血が前にいた3人、グレイ君、チェリーさん、ココにかかった。
「ぷあっ! ぷぷっ!」
「ご、ごめん、ココ、大丈夫?」
ココは、顔から血を浴びてしまった。
ふたりは、盾で防いでいる。
「今は戦闘に集中だ!」
カーツ君が活を入れる。
「エナジーボルト!」
「キピッ!」
カーツ君から放たれた魔法が、ネズミを直撃する。
低レベルとは言え、三撃をもらってジャイアントラットは逃げようとしていた。
「逃がさないわ!」
チェリーさんが、後ろを向いたジャイアントラットに一撃を入れる。
「キュウッ……」
そこで……ジャイアントラットは倒れた。
みんな、がっくりと膝をつく。
「良かった、一匹目だ」
グレイ君がそうつぶやく。
「何匹倒すんだっけ?」
チェリーさんは、ちょっとうんざりしている感じか。
「5匹が目標だ」
カーツ君は、あくまで冷静だった。
後何発、魔法が撃てるか計算してるのかも。
「これを5匹なら、やれそう」
アーレイがぼそっとつぶやいた。
「1匹ずつならいいけど」
「あれ、待ってくれ」
グレイ君が声を上げる。
「みんな! ココが息してない!」
「は!?」
さっと、カーツ君が容態を見る。
「馬鹿、ジャイアントラットの血が目か口に入ったんだ!」
「麻痺してるね、毒のダメージも入ってるかな」
「まずい、体温が下がってるぞ」
「は、早く解毒薬を!」
みんなの視線がチェリーに集まる。
「ど、どうやって飲ませるの?」
「口うつしで飲ませろ!」
「わ、私が!? 嫌よ!」
チェリーは嫌がっている。
同姓とは言え、口移しは嫌だったか。
「いい、僕がやります」
カーツ君が解毒薬を出す。
「駄目! 私がやる!」
チェリーは解毒薬のポーションを口に含むと、ココに飲ませていった。
「ぷはっ……」
鼻を押さえて、唇を重ねていく。
それを三回くらいやった。
「初めてだったのに……」
「女の子同士だから、ノーカン」
アーレイは、なんかいつも通りだった。
「アーレイも何かしなよ! 戦闘で何もしなかったでしょ!」
「ちゃんとやってましたよ、みなさんとジャイアントラットの運を調整してました」
今まで黙っていたシールズが口を開く。
「運? そう言えば呪詛師だったわね」
「グレイ君、ジャイアントラットを初めて斬ったとき、どうでしたか?」
「すっと、剣が入っていく感じでした」
「え? 嘘、すごく皮が厚かったわよ!?」
「それがクリティカルです、呪詛師の運操作ですね」
「そう言えば、二回目は、がっしり受け止められた感じがした」
「ごめんね、アーレイ、ありがとう」
「ワタシは詩も歌えるから、補助で頑張るよ」
そして、5分ほどでココが落ち着いてきた。
「うっ、ううっ……」
「大丈夫? ココ」
「大丈夫じゃない!」
涙目で、ココが怒った声を上げる。
「解毒剤持ってきて良かったでしょ?」
「ううっ」
「黄金都市なんて無理でしょ?」
「うううっ」
「冒険に出る前に、ギルドの子が必ずアドバイスをくれるから、ちゃんと言うことを聞くのよ?」
ココが天を仰ぐ。
下水道の天井が見えるだけだ。
「アタシよりちっこいのに」
「こ、コットンさんはベテランで、僕たちは初心者だよ」
そこで、カーツ君がパンと手を打った。
「よし、隊列を考えよう、ココは戦えそう?」
「無理そう、もっとちゃんと訓練する」
「わかった、じゃあ今日は隊列の真ん中にいよう」
「うん……」
「先頭がグレイとチェリーで、次がココと僕とアーレイ、しんがりをシールズさんでお願いします」
「私は良いわよ」
「グレイ、君がリーダーだ、采配をしてくれ」
「あ、あの、カーツ君がリーダーの方がいいと思うんだけど……」
「僕はリーダー向きじゃない、コットンさんの言う通り、グレイが適任だと思う」
「う、うん、じゃあ、その隊列で問題のある人はいるかな?」
誰も何も言わない。
「じゃあ、その隊列で行こう」
そうして、5匹のジャイアントラットを倒すまで、昼過ぎまでかかって,パーティーは帰ってきた。




