第七十九話 作戦開始
偵察に出たサーリャに同調して、その光景を見る。
サーリャは、屋根の上にいるのかな?
ミクロリニアの兵は、街の中央に集まっていた。
そして、これがワードナーか、全軍の指揮官が登場し、バフをかける。
八千人からにバフをかけるのは難しいので、範囲バフなんだろう。
でも、レベルが倍になるというのはかなり強力なバフだった。
しかも、一兵卒に至るまで、全員が邪教の神官魔法を使える。
普通に戦ったとしても、ミクロリニアの兵は強いはずだ。
昼過ぎに集められた兵達は、まず1000人程が別れてダンジョンへと入っていった。
出入り口に罠でも仕掛けるのか、最悪でも、見張りは置くだろう。
そして夕方頃帰ってきた兵は、半分くらいまでその数を減らしていた。
ダンジョンに少数の兵をおいてくるはずがないから、モンスターやトラップで数を減らしたんだろう。
偽地図の成果が出ている。
そして、その間、ワードナーは、10分おきにバフをかけ直し、兵達は領主軍を待ち構えていた。
いつ来るかわからない敵を待ち構えるのは酷だけど、バフをかけた状態で戦うというのが、軍師であるイロプスの判断なんだろう。
おそらく、昨夜はバラバラで戦ったので、バフがなかったんだ。
ゲリラ戦の格好の的になってしまったから、全軍をひとつにまとめてるんだろう。
先に干上がるのは、アンデマンドの住民達だ。
領主様もそれはわかっているだろう。
待つことができるのは、ミクロリニアの方だった。
でも、この状態ならできる。
「アイヴォリー、領主様のところに言づてを伝えに言って」
「わかったッス」
わたしは、ディーンエヴェンダーの鍵を使ってアイヴォリーを送ると、ママやおばあちゃんの目を盗んでサーリャのところに行った。
「どうしましたか?」
「もう夜だから、これがいいかなって」
わたしは、以前思っていた、ニュートラライズを創り出した。
サーリャは首をかしげている。
「どうするのですか?」
「ニューエールの利いている状態を中和しよう、酷い禁断症状が出るはずだよ」
「なるほど、ニューエールを中和するんですね」
わたしは、ニュートラライズを二十体創り出すと、兵士達のいる方に解き放った。
夜の闇に紛れて、ニュートラライズは霧にしか見えない。
まぁ、いずれバレるだろうけど、そのときにはもう遅いはずだった。
「アイヴォリーを領主様の使いに出したから、すぐに戦闘が始まるよ」
「了解しました」
わたしは、完全に日が落ちる前にギルドへ戻ると、残っている冒険者を集めた。
「みんな、領主様の軍隊がすぐにもミクロリニアの兵とぶつかります!」
「どうしてそんなことがわかるの?」
ルルーナは不思議そうだ。
でも、全部を説明することはできない。
「いいの、わたしを信じて!」
無茶苦茶だとは思うけど、誰も反対しない。
こういうときに、日頃の行いが出るんだなぁ。
「それで、ワレワレを集めたのですカラ、何か策があるのデスよね」
機械兵のガブリーがそう言う。
滅茶苦茶高レベルで、古参の機械兵だ。
「敵の総大将ワードナーを何とかしないと、領主様は負けちゃうか、勝ってもすごい被害が出ちゃう」
「どうするのですか?」
同じく機械兵のメアリーだ。
メアリーも、ちょっと考えられないくらいレベルが高い。
ふたりとも、昔の私が作った機械兵だ。
「戦闘が始まったら、みんなでワードナーのバフを何とかして欲しいの」
「総大将を、俺たちで倒すってことか?」
フラニールさんは、あまり歓迎していないようだ。
無謀と感じるんだろう。
「ううん、オニールさんのバルリオン魔法で改宗させちゃえば、もうバフ魔法は使えないはずだよ」
「あらぁ、ワタシをそんな大切な役目で使ってくれるのぉ!?」
オニールさんは、嬉しそうに身体をくねらせた。
フラニールさんは、それを気味悪そうに見ている。
「今、ミクロリニアの兵はニューエールの禁断症状で苦しんでるから、何とかなると思います」
「そうなの!?」
ルルーナが驚いている。
まぁ、そうだよね。
「うん、町中のニューエールと普通のエールをすり替えておいたから、頭痛とかめまいとか、酷い状態のはずだよ」
「ど、どうやってそんなことを?」
フラニールさんも驚いていた。
あんまり突っ込まれると困る。
「それはいいから、みんな頑張って欲しいの!」
「よし、やるよ! みんなもやるよね!?」
ルルーナが士気を上げるためか、同意を求める。
でも、そこにおばあちゃんが入って来た。
「待った、魔法使い達はお休みだよ、乱戦には弱いんだから、自重しな」
「そんなー」
フランセスが悔しがっている。
でも、トレイシーには働いてもらいたかった。
トレイシーの確率操作で、ワードナーのバフを邪魔して欲しい。
「セレシュちゃんは連れて行って欲しいんだけど……」
「じゃあ、あたしも行かないとね」
パーシアさんだ。
トレイシーは、フラニールさんとパーシアさんのパーティーにいる。
デイジーとオリーブはお休みだ。
「仕方が無いね、その二人だけだよ」
「よし、じゃあ、改めて頑張ろう!」
「よっしゃー!」
「おーっ!」
作戦開始だった。




