第七十八話 反撃の狼煙
夜になると、ミクロリニアの騎士達が食事をした。
一階に集まって、普通に料理を注文したのだ。
ハチさんの料理に、みんな舌鼓を打っている。
「うまい、ザカール国にはこんなウマイ料理があるのか」
「ニューエールも旨くないか?」
ツケだからなのか、みんなバクバク食べる。
食糧にはまだ余裕があるけれど、これからのことを考えると、節約したいところだ。
「ニューエールは他のザカール国の街でも広めています、アンデマンドに援軍は来ないでしょう」
交渉に来た司祭の人がそう言うと、みんなワッと沸き立った。
わたし達は、すみっこでそれを聞きながら固まっている。
「酔っぱらうと危険だね、女どもは早く部屋に行きな」
「そうですわね、気分も悪いですし」
「じゃ、じゃあ、お休みなさい」
フランセスとエリシャが部屋に戻る。
「ほら、アンタ達も早く部屋に戻りな」
「いやぁ、あっしは女じゃなくてカンナなんで」
アイヴォリーは戻らないようだ。
「パーシアは戻れ」
フラニールさんが、パーシアさんを気遣う。
「じゃあ、セレシュ、一緒に寝ましょうか」
セレシュちゃんは、家に帰らずにギルドにいた。
兄のモルソー君は来ていないから、家の人は心配しているかも。
「私も残ります」
セレシュちゃんは、中身がわたしの腹心のトレイシーだ。
わたしを守る気なんだろう。
「仕方のない子達だねぇ」
ママもサーリャも部屋に戻らない。
わたしが部屋に戻ったら、みんな戻るかな?
「近隣の街でも、ニューエールを流行らせてるって、本当かな」
ルルーナが小さな声でささやく。
「ホントなんじゃないかなぁ、嘘を吐く理由もないし」
「禁断症状で戦えないか、邪神の教えに目覚めるか、組織だった行動は難しいだろうねぇ」
おばあちゃんは、不機嫌そうだ。
ミクロリニアの兵士達は、ニューエールをガバガバ飲んでいる。
ずっと飲み続けるから不調にもならないし、もうサロードの教えに目覚めているしで、無敵だね。
でも、ちょっと違う雰囲気の人を鑑定すると、中には、かわった邪神の教えに目覚めている人もいた。
闇の邪神に目覚めている人や、腐敗の邪神、亜人の神などもいる。
まぁ、ニューエールは麻薬だから、まともな神様の教えには目覚めないけれども。
「襲撃だ! 武器を取れ!」
「何事ですか!?」
扉から飛び込んできた兵士が叫ぶ。
「アンデマンドの兵が、どこからともなく現れて、部隊を襲撃しています!」
「なに!?」
「食事は中止だ! 隊を整えろ!」
騎士達は装備を確認すると、司祭と共にギルドを出て行った。
「領主様、生きてたんだね」
「そりゃそうさ、さあ、今のうちに部屋に行きな」
おばあちゃんと、機械兵のみんなを残して、わたしたちは部屋に戻った。
翌日の朝、騎士達が戻って来る。
みんな怪我をしていた。
「受付嬢さん、ギルマスはいますか?」
中間管理職と言っていた、司祭の人だ。
鎧を着て、剣を腰に下げているから戦えるんだな。
「はい……おばあちゃん!」
奥に向かって声をかける。
司祭は怪我はしていないけど、少し弱った感じがしていた。
「部屋に戻って休め」
隊長さんが、部下を休ませようとしている。
「ポーションは売っていますか?」
「戦いが始まる前に、全てアンデマンドの兵士が買っていきました」
これは事実だ、だから今、ギルドに在庫はない。
「やられましたね、織り込み済みですか」
「なんだい、ずいぶんやられたねぇ」
おばあちゃんが出て来ると、司祭は営業スマイルというか、柔和な笑顔を作る。
「はい、アンデマンドの軍は、あちこちのダンジョンから現れては消え、追いかけても待ち伏せされるという有様でした」
「そうかい」
わたしが領主様に提案した策はこれだ。
街が占拠されたら、ダンジョンに逃げ込む。
浅い階層で繋がっているダンジョンもあり、地の利を生かせるからだ。
後は、街中の色々なところから現れて、ゲリラ的な戦いをすればいい。
「アンデマンドの兵士達が、ダンジョンに逃げ込んでいます、この街のダンジョンの地図を出してください」
「コットン」
「はい、売り物の地図で良ければ……」
わたしは、どさっと地図の塊を置く。
司祭は、目を見開いて驚いているようだった。
「この街には、こんなにたくさんのダンジョンの入口があるのですか!?」
「そうだよ、それがこの街の特色さね」
地図を見ることもせずに、司祭は考えている。
「たしか、この街の領主は元冒険者でしたね」
「さてね、領主がどこのダンジョンのことを詳しいかまではわからないね」
「まさか、この地図、偽物ではありませんよね?」
司祭が鋭く睨んでくる。
お、鋭い。
わたしが、丹精を込めて作った偽地図だ。
強力なモンスターの巣やトラップ地帯に誘い込むように描かれている。
「はぁ? そんなことする余裕がいつあったのさ」
でも、おばあちゃんは知らないからそう言う。
「嘘は吐いていないようですね、この地図買いますよ」
うわー、あぶなー、サロードの司祭は嘘が見破れるんだ。
気をつけないと。
そして、司祭は地図とにらめっこを始めた。
一晩中戦った騎士達が、昼頃に起きてくる。
その間、司教は休まずに、ずっと地図をチェックしていた。
「策を練りました、全軍準備を、ワードナー様に策を上奏して参ります」
「おお、さすがはイロプス様、ミクロリニアで三本の指に入るという軍師です」
銀の月に寝泊まりしている騎士はレベルが高い。
この司祭も、軍師だったんだ。
「どうせ、敵は夜まで動きません、今のうちに準備をするのです」
騎士達は、軽食とニューエールを飲むとギルドを出て行く。
「サーリャ、偵察してきて欲しいんだけど」
「了解しました」
どうせ仕事は暇だ。
わたしは受付のカウンターに座ると、サーリャに同調していった。




