第七十七話 ミクロリニア軍との同居
偵察に出ていたアイヴォリーが、ギルドに戻ってきた。
雨が降ってきていて、ずぶ濡れだ。
わたしは、用意していたタオルを渡す。
外の状況はわからないから、みんな不安そうだ。
「領主の城にミクロリニアの国旗が掲げられているッス」
城は落ちたようだ。
それはそうだろう。
こんなに簡単に外壁を突破されるとは、思ってもみなかっただろうから。
「そうかい、ご苦労だったね」
「兵は、組織だった抵抗を見せなかったようっスね」
「じゃあ、全滅……?」
ざわっと、ギルド内がざわつく。
冒険者達も明日は我が身だ。
「皆殺しにされたのか、捕虜にされたのか、それはわからないッス」
「領主はどうしたんだ?」
街の人からも、冒険者達からも絶大な信頼のあるのが領主様だ。
元冒険者で、成功して領主になる。
そんな夢みたいなサクセスストーリーを体現している人だからだ。
「それもわからないッス、逃げたか捕まったか、行方不明ッス」
「ミクロリニアの兵はどうしているの?」
ママはそれが気になるのか、アイヴォリーに確認した。
「金持ちの家を接収しているッス、身分の高い騎士の住処にするッスかね、あと、住民に食糧を提供させているッス」
「食糧かい、そうだろうね」
忌々しげに、おばあちゃんが舌打ちをする。
この家というか、ギルドは戦える人がたくさんいるから、まだ不安も少ない。
でも、街の人達はみんなすごく不安だろう。
「しちょうたいが来るまで、街の食べ物を食べるのかなぁ、やだなぁ」
「略奪は行われているの?」
「行われていないッス、邪教とはいえ神の軍隊ッスから、統率は取れてるッスね」
サロード教は苛烈な異端の迫害を行わない。
どちらかと言うとマイナーな邪神なので、異端を迫害していたら誰もいなくなってしまう。
異端狩りなどを行うのは、秩序の神にせよ、混沌の神にせよ、有名どころだ。
それに、サロードは生まれ持った生き方を強要してくる神様だから、まだ街の人は教えに反していない。
教えに反したら、どうなるかわからないけど……。
「8千人を賄うのは大変ね」
「ミクロリニアから食糧を運ぶにしても、そもそもが貧しい国だからね、住民の分まではないだろうね」
「え……」
ルルーナが青い顔をしている。
いや、冒険者は、いざとなれば狩りでも何でもすればいい。
問題なのは、食糧を供出させられた後の住民達だ。
「このままだと、まぁ、住民が干上がるまで三日ってところかね」
ミクロリニア軍は、補給を受けるまで五日だとして、手持ちの糧食がそんなところなのか。
住民は補給がないから、食糧を供出した後、遠くない未来に破綻が見えている。
そこで、扉が外側からけやぶられた。
ギルドに立て籠もっていたみんなが構えるけど、誰も入ってこない。
そこに、柔和な笑みを浮かべた男がひとり入ってきた。
黒い鎧を着ている……ミクロリニアの兵士だ。
「どうも、こちらは冒険者ギルドですよね」
「そうだよ、あんたはミクロリニアの兵隊かい?」
「中間管理職をしている位に思って頂ければ」
「ふん、サロードの司祭かい」
その人は、雨に濡れた身体を手で払う。
ギルドの床が、雨に濡れた。
「我々は、イナゴのように街を食いつぶすつもりはありません、これからもしっかりと街を統治していくつもりです」
「それで?」
「ダンジョンの産地として名高いアンデマンドの街で、冒険者の方々は優遇させて頂きます」
後ろにいた冒険者達がホッと息を吐く。
いきなり皆殺しの戦いが始まるわけではないようだった。
「こちらは、何名くらい寝られますか?」
「ベッドの数は100くらい空いてるよ、整えてないけどね」
「外で寝るよりはマシです、騎士を百名おいていきますので、よろしくお願いします」
「ここで寝るのかよ」
ぼやく声が聞こえる。
でも、思っていたよりもずっと紳士的な対応だった。
「ああ、そう、食事代や部屋代は後でまとめて請求してください」
「わかったよ」
「これから、良い関係を築いていきましょう」
ミクロリニアの幹部が合図をすると、そこにゾロゾロと騎士が入ってきた。
騎士達も冒険者も、ちょっと緊張した空気になっている。
「コットン、相手してやんな」
「う、うん……お部屋はこちらにどうぞ」
わたしは、入ってきた騎士達を二階に案内する。
「この板が使用中になっていれば、その部屋は使用中です、裏返って、空き部屋になっていれば誰も使っていません」
「わかった、おまえたち、わかったな?」
「わかりました、隊長」
「三階も空いているのでどうぞ、食事は一階で食べられます」
「よし、副隊長、割り振れ」
「ハッ!」
隊長と呼ばれた人が、空き部屋に入っていく。
その後も、百名の騎士が部屋に入っていった。
わたしが一階に下りていくと、冒険者達が外に出ていく。
「俺は出ていくぜ、一緒に寝られるか」
「街からは出られないと思いますよ?」
「だろうな、橋の下で野宿でもした方がマシだわ」
結構な数の冒険者が出ていってしまった。
みんなパーティー単位なので、冷静に行動してくれるだろう。
冒険と一緒だ。
でも、わたしが魔物作成で創り出した面々は、みんな残っている。
「危ないからね、外に出るときはパーティー単位で行動するんだよ」
「はい」
街の子達は、今日はギルドに来ていない。
また、街の子達がギルドに来る日のために、頑張りどころだった。




