第七十六話 ミクロリニア軍の到着
「ひえー、すごいいっぱいいる、アレでどれくらいの数なの?」
ルルーナがミクロリニアの兵を見て驚いている。
「あれで8000人というところでしょう、10000はいないはずです」
手で日光を遮りながら、サーリャが答える。
ミクロリニアの兵は、隊列を組んで並んでいるから数えやすい。
「そうね、輜重隊がいないからそのくらいね」
ママもサーリャと同じ意見のようだった。
黒っぽい鎧に、黒っぽい兜。
全体的に黒っぽいのがミクロリニアだ。
「しちょうたいってなに?」
「補給、ごはんを運んでくる兵士のことです」
食糧だけじゃなくて、武器や消耗品、衣服なんかも運んでくる。
これがないと、長くは戦えなかった。
「ひえー、ご飯を置いて来ちゃったの? お腹が空いたらどうするんだろう?」
「戦いを早く終わらせて、この街の食べ物を食べるつもりでしょう」
「じゃあ、守っていれば勝ちって事?」
「そうシンプルではありませんが……」
「ミクロリニアもこの機を逃さないように、急いで来たのね、新種のハチメイは、依存性が割と弱いのかしら?」
冒険者ギルドにも緊急クエストが発令されて、戦える者が招集された。
わたしは、ギルドからルルーナの視点で見ている。
「籠城するのね」
外壁の扉が閉められていく。
ルルーナ達は、街の外壁の上にいた。
正規軍の兵士が、冒険者に弓を配っている。
「こちら側は、ニューエールの禁断症状が出ている兵が多いのでしょう」
「打って出られないんだね」
籠城戦をする意味は色々とあるけれども、単純に戦える者が少ないというのはありそうだった。
そこにつけ込むのが、ミクロリニアの作戦だ。
「戦力は圧倒的に不利ですからね、そのための輜重隊を置き去りにして、単独突撃でしょう」
「援軍は呼んでるのかな?」
「どっちのですか?」
「アンデマンドのだよ」
「アンデマンドは援軍を呼んでいるでしょう、でなければ籠城する意味があまりありません」
「ミクロリニアも、輜重隊を守る兵が最低限いるはずよ、それが合流すれば、今よりも数が増えるわね」
「援軍がどれくらいで来るの?」
「どっちのですか?」
コントかな?
同じやりとりをしている。
「どっちもだよ」
「ミクロリニアは、早くて五日というところでしょうか、アンデマンドの方は一週間はかかるでしょうね」
「うーん、じゃあ、一週間守ればいいのか……でも、五日も援軍が来なくて、ご飯なしのミクロリニアは戦えるの?」
「マジックバックに持てるだけは食糧を積んでいるでしょう。ミクロリニアにそこまで高性能のマジックバックはないでしょうから、それこそ三日間分くらいでしょうが」
「そうね、マジックバッグも安くないわ、高級品ともなればなおさらね」
「手持ちの食糧が三日なら、三日守れば勝ちじゃん!」
「戦いが長引けば、後退したり、節約したり色々ですよ」
「ほら、敵が来るわよ」
ミクロリニアが整然と攻めてくる。
地鳴りと雄叫びが聞こえてきた。
「まだ撃つな! 引きつけてから弓を撃て!」
冒険者側に配置されている指揮官らしき兵士が、音頭を取っている。
矢も無限じゃないから、節約したいのだろうか。
「さあ、攻城兵器も無しで、どうするのかしら?」
「マジックバックにハシゴを隠しているのですかね?」
「今だ! 撃てぇっ!」
近づいてくるミクロリニアの兵士に、ママとサーリャが弓を射かける。
他の冒険者も、同じように弓を撃った。
でも……。
「何!?」
アンデマンドの指揮官が声を上げる。
その矢のほとんどがミクロリニアの兵に弾かれていた。
まるで、矢よけの加護でもかかっているみたいだ。
でも、わたしにはわかった。
兵士にサロードのバフがかかっている、戦闘力が二倍くらいになっていると思った方がいい。
敵の指揮官はサロード教の司祭か何かだろう。
「厄介ですね、とにかく撃ちまくりましょう」
「僕も撃つよ!」
でも、ミクロリニアの兵隊は、扉の方に進んでいた。
外壁の扉を壊すつもりなのか。
しかし……信じられないことに、外壁の扉が開いていった。
「馬鹿な!」
アンデマンドの指揮官が悲鳴を上げる。
門の内側を見ると、戦いが起こっていた。
アンデマンドの鎧を着た兵士達が、互いに剣を振り合っている。
「裏切りか!」
サーリャの声が響いた。
シーフギルドかも知れない……ずっと前からニューエールを飲まないようにして、このときを待っていた可能性はある。
周到な計画だった。
兵士にも内通者がいることはわかっていたが、その規模は思っていたよりも大きかったようだ。
ミクロリニアの兵が街に雪崩れ込んでいく。
それは、絶望的な光景だった。




