第八十話 決戦! アンデマンド対ミクロリニア
「敵が来たぞー!」
「10時の方向から来ます!」
「逆側からも来るぞ! 総員備えろ!」
軍師のイロプスさんが叫んでいる。
日が落ちて間もなく、アイヴォリーの伝言が伝わったんだろう。
領主様の軍があちこちから現れる。
ニュートラライズが効いているのか、ミクロリニア兵の指揮はただ下がりだった。
みんな口を押さえて吐き気を堪えていたり、おでこに手を当てて頭痛を耐えていたり。
「状態異常はまだ回復せんのか!」
「ハチメイブラッドは、状態異常回復できません!」
それが新種のハチメイの怖いところだ。
「ニューエールをもって来い! 飲ませるんだ!」
「うっぷ……無理です……飲めません……」
ソフトキャラメルみたいな、香を焚くタイプの麻薬だったら良かったんだけど、ニューエールを飲むのは体調が悪いときは厳しいだろう。
「敵が来たぞ! 矢を放て!」
中央広場の中心にいる弓隊が、領主様の軍に矢を射かける。
でも、その矢には力がなく、領主軍を止めることはできない。
「死力を尽くせ!」
ただ気分が悪いだけじゃなくて、麻薬の禁断症状だから質が悪い。
「サロード様! 力をお与えください!」
ワードナーがバフをかけている。
それで、少し気力が戻るのか、ミクロリニア軍は領主軍を迎え撃った。
「街を取り戻せ!」
「新しい領土だ!」
真っ向から違う主張がぶつかる。
中央で待ち構えている方が有利だけど、遊軍が多くもなってしまう。
それに、ひとつに固まっていると……。
「ヘビィライトニング!」
ママの魔法が遠くから聞こえてきた。
太い稲妻が中央広場を駆け巡る。
「ぐあああぁぁぁぁっ!」
それでも、数千人からの塊の前では微々たる被害だった。
でも、狙いは敵の総大将、一点突破だ。
「どっけえぇぇぇぇぇぇっ!」
ミクロリニアの兵達が意識していなかった店の入口から、ルルーナを先頭に冒険者達が飛び出してきた。
中央広場に面しているお店の裏側から入れてもらって、表から飛び出した形だ。
主に後衛が陣取っていたそこに、冒険者が襲いかかる。
「さっさと出て行きやがれ!」
前衛の冒険者達がミクロリニア兵を蹴散らしていく。
その間にも、領主様の軍は四方八方から現れて、中央広場に押しかけていた。
昨日の夜、襲撃を受けた際に、バラバラになっていて、バフを受けられなかったのが敗因だと考えたんだろう。
輜重隊と増援が到着するまで、ひとつにまとまっていれば、ゲリラ戦術を封じられるというのは悪くない考えだったかも知れない。
まぁ、結果的に、ニュートラライズがうまく広がれるスペースになってしまったけれども。
冒険者の突撃で、後衛部隊が割れていく。
そこを立て直そうという指揮官達が指示を出していた。
でも、その光景は屋根の上から見ているサーリャに筒抜けだ。
「今度は外しませんよ」
支給品ではない自前の弓に魔力をこめ、矢を放つ。
それはルルーナ達への道しるべになり、指揮官を狙撃する光の矢だった。
「ぐわああぁぁぁぁっ!」
バフがかかっている指揮官を一撃で貫く。
総大将のワードナーと参謀のイロプスが慌てていた。
時折、勇敢な兵が現れて冒険者に立ち向かうけど、ルルーナやガブリーの敵ではない。
「見えた! 総大将!」
兵という膜の一番薄いところを突いた冒険者達は、早々に総大将までたどり着いていた。
「ワードナー様、バフを!」
「サロード様、お力を!」
「さー、ヤー!」
セレシュちゃん……トレイシーなんだけど、確率を操作したみたいだ。
ワードナーの近くで、黒い爆発が起きる。
本陣近くの人員が吹っ飛んだ。
魔法の暴発だ。
確率で、魔法を失敗させたんだろう。
ワードナーとイロプスが呆然としている。
「おっしゃ、出番だぜ、オニール!」
「あらやだぁ、タイプじゃないお顔!」
オニールさんは、ワードナーを見てそう言った。
「我らの父に願い奉る、かの者の教えを正し、未来へと導き給え。コンバージョン!」
「ガギギイィィィィ!」
稲妻に撃たれたようにワードナーが硬直する。
本陣近くの吹っ飛ばされた兵達は、それを見ていることしかできなかった。
これで、ワードナーは改宗させた。
もうバフも使えないだろう。
「なんだ、ち、力が抜けていく」
「どうされました、ワードナー様、バフをかけてください!」
「オマエら! 総大将のワードナーは改宗した! もうサロードの加護はないぜ!」
フラニールさんが高々と叫ぶ。
こういうカリスマは、さすが育ちが良いと感じさせた。
ワードナーとイロプスが問答している。
「そ、そんな、バフが……」
ミクロリニアの兵をささえていたバフが途切れる。
戦意を喪失した兵達は、地面に膝をついた。
「おっしゃー!」
ルルーナが勝ちどきを上げると、領主軍からも勝ちどきが上がる。
「おおおおおおっー!」
ミクロリニアの兵は……降伏していった。




