第七十二話 絡み合う事象
サロード教の教えに目覚めているカーツ君に、ヴァルリオンの信徒であるオニールさんの改宗をしてもらった。
鑑定すると、サロード<E>がヴァルリオン<->になっている。
おお、ヴァルリオンの教えに目覚めやすかったりするのかな。
それはそれで、カーツ君の人生的に大丈夫かなと思うけど……。
魔力はDのままだ、勉強すれば真名魔法を使えるだろう。
「これで大丈夫です、もしかしたらお家の人に感染っているかも知れませんから後日案内させてくださいね」
「わ、わかりました、ありがとうございます」
カーツ君は、良くわからないという具合で帰って行った。
「見事ですね、オニールさん」
「サロードというのが流行っているのか~い?」
酷いイントネーションのサロードを聞いた。
まぁ、これが正しいのかも知れないけど……。
「まぁ、そうなんですよ」
「それは深刻だNE、たまに街を見回ってみるYO」
「そうしてください」
「ふぅ、疲れたぜー」
そこに、フラニールさんが冒険から帰ってくる。
「イケメン!」
早速オニールさんが反応していた。
魔法使いのパーシアさん、賢者の学院を一日で卒業したセレシュちゃんこと、元ダンジョンマスターの腹心トレイシー、フェンリル使いのテイマーのデイジーとワケあり神官のオリーブ。
これを率いているのが、元竜の髭ギルドの跡取り、フラニールさんだった。
今更、ひとつくらい厄介ネタが増えても大丈夫だよね。
「フラニールさん、突然なんですが、この方をパーティーに加えて貰いたいんですよ」
「え、なんだ突然」
「ヴァルリオンの信徒のオニールさんです」
「よろしくぅー!」
ウインクすると、フラニールさんがたじろぐ。
「お、おい、ヴァルリオンって男神だよな」
「そうよ、良かったじゃない、パーティーに男が少ないって嘆いていたんだから」
パーシアさんは冷たい目でそう答えた。
「いや、ちょ……」
「では、よろしくお願いしますね」
「コットンさん!?」
「仲良くなりましょ」
パーシアさんがオニールさんと一緒に歩いて行く。
フラニールさんは、ちょっと青い顔をしながらわたしを恨めしそうに見た。
その日の夜。
ハチメイを流通させている商人を張っていたアイヴォリーから報告を受けた。
「例のプリン屋に出入りしていた商人を突き止めたッスよ」
「どうだった?」
「商人ギルドに登録していない男で、仲間が最低5人はいるッス」
「シーフギルドの人でもない?」
「違うッスね、ミクロリニアの兵士ッスよ」
背筋を冷たいものが走る。
ミクロリニアでは、サロード教という邪教が流行して、国が衰退していた。
そのミクロリニアの兵士がなんの用事なのか。
ハチメイを売りたいだけ?
そんなはずはない。
なにか企みがあるんだろう……。
「コットンちゃん、ニューエールの解析が終わったよ」
エリシャには、ハチメイの解析をお願いしていた。
「どうだった?」
エリシャは、秘境の奥で育った、500年前の技術を継ぐ最後の錬金術師だ。
その腕は、普通の錬金術士の遥か上をいっている。
ただのハチメイならいいんだけど……。
「ハッキリとしたことは言えないけど、新種のハチメイだよ」
「新種だとどうなるの?」
「毒性や依存性が強くて……ソフトキャラメルみたいな、強力な麻薬と同じだと思う」
ソフトキャラメルは、甘い匂いのする強烈な麻薬だ。
煙草みたいにして吸うこともあるし、香みたいに焚いて部屋中に充満させる使い方もある。
常習性の強さもあるけれど、兵士の向精神薬として用いられてきた。
今では、その危険性から使う国は少ない。
「よくそれで、流通してるッスねぇ」
アイヴォリーが呆れていた。
「潜伏期間が長くて、摂取はじめの頃は普通のハチメイと同じ感じなんだと思う」
エリシャも、実際に被験者がいるわけではないから、憶測混じりになってしまう。
「でも、長く摂取しつづけていると……」
「最悪、精神に異常を来して邪神の教えに目覚めることもある、ってところかな」
「邪神ッスか」
ミクロリニアが絡んでいるとなると、お小遣いを稼ぐだけじゃないよね。
もっと壮大な計画の1ピースである可能性もある。
「あと、カーツ君の親が、ニューエールの流通に荷担してたッス」
「それでなのかな」
カーツ君がサロードの教えに目覚めたのは、偶然じゃなくて、ミクロリニアとの付き合いからなんだろう。
残念だけど、働きたくてもまともな働き口がない状態だ。
ずいぶん良くなってきたとは思うけど、まだまだ、経済状況は良くない。
「家族は、ニューエールの正体は知らないまま、仕事をしているかも知れないッスね」
「ちちゃぐるみにも、同じ成分が使われてたよ」
「となると、プリンも同じかな……」
ミクロリニアの邪教組織が栽培している新種のハチメイなんだろう。
ニューエールを飲んでいるお客を見る。
怒りや向上心が失われ、なんとなく幸せを感じている顔だ。
ある意味、これも平和なのかも知れないけど……。
「これだけ広まってるッスから、止めると禁断症状が出る恐れがあるッスね」
「シーフギルドはクロなんでしょ?」
「絡んでるッスね、利益を損ねたら目を付けられるッスよ」
これは、わたしの得意な分野じゃない。
かと言って、ママやサーリャでもないし……。
「おばあちゃんに相談してみるよ」
「それが良いッス」
「エリシャは、引き続き、中和する薬が作れないかとか、探ってもらえるかな」
「うん、わかった」
わたしは、受付の奥にいるおばあちゃんのところに行く。
「おばあちゃん、ニューエールとかちちゃぐるみに新種のハチメイが使われてて、サロードの教えに目覚める人が出て来てるの」
「本当かい?」
おばあちゃんは冷静だ。
静かにわたしの話を聞いている。
「シーフギルドは、新種のハチメイの流通を黙認している、このままだとこの街もミクロリニアみたいになっちゃうよ」
「拙いね、ちょっと考えさせておくれ」
「うん」
翌日、わたしはおばあちゃんに手紙を渡された。
「領主様のところに持っていくんだ。必ず、コットンが手渡しするんだよ」
「わかった、ありがとうおばあちゃん」
領主様に陳情するというのが、おばあちゃんの考えのようだ。
確かに、一介の冒険者ギルドがどうこうできる問題じゃない。
わたしは、手紙を持って領主様のお城に向かった。




