表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
97/231

市街戦

「第二作戦でいくのだわ」


「聞いてない、第二なんて。そうやって格好つけないで」


 ジェームとシレーヌは、カリスの第一の目標が黎明の書にないのだと知るや否や、前線へと飛ぶように駆けていった。そして、飛龍に跨る戦闘員たちを視界に捉えると、すぐに攻撃を開始した。


「『岩塊(ペトラム)』ッ!!」


「『白露(ルシオー)』……」


 いちいち戦闘員を狙うことはない、下手な魔法を使えば、ただ防御されて終わりである。二人は、飛龍の翼を重点的に狙うことに決めたのだ。力強く羽ばたく左右の翼に、巨石が、そして水の集結した玉がのしかかり、たちまち一頭の飛龍が悲鳴を上げて墜落する。そして、打ち身を食らって動けなくなった戦闘員に攻撃をしかけ、爆弾を濡らすことで無効化する。


 敵は空を飛んでいるが、市街地での戦闘では、サーマンダの細い路地まで全て知っている二人に分があった。敵の流れを先読みし、ひたすら飛龍に的を絞る。動きが制限されれば、並の黒魔術師は大魔導師の敵ではなかった。


「四体目、なのだわ!!」


「しめて十人……、少ない……」


 既に二人の通った後には、飛龍と戦闘員が累々と折り重なっている。だが、それが道を塞ぐ程になっても、攻撃は弱まることがない。むしろ、より過激になってきている。


 二人の背後には、爆発による火炎が立ち上っている。背後、つまり、カリスは戦えなくなった仲間の上にも、構わず爆弾を放っているということである。無作為の爆撃もここまで徹底するとなると、その落下点は、酸鼻の極みともいうべき惨状を呈することとなる。そこには敵も味方もなく、防御魔法の盾を貫通して、爆風と炎が街を焼き、後には目も当てられぬ惨状が広がることとなる。


「爆弾から、マナを徹底的に抜き取ってる。それなら、私たちに対抗策はない。せいぜい穴掘って隠れる位……」


「口じゃなくて手を動かしなさい。爆発に巻き込まれれば、貴女でも無事ではすまされないのだわ」


 そう言って振り向いたジェームの眼前に、シレーヌはいなかった。既に彼女は蜘蛛のように壁を駆け上がり、石造りの建物の高い屋根に登っていた。


「無茶よ、危険だわ!!」


 地上ならば、建物などの遮蔽物のために視線が断ち切られるため、彼女たちは上空のカリスたちの死角から魔法をかけることができた。しかし反面、自身の見える範囲にしか魔法を行使できない彼女たちの攻撃範囲は限られる。確かに索敵の点から考えれば、高所に陣取ることは有利に働くが、飛龍を操るカリスに対しては、全方位から狙われる危険を伴う。魔法による攻撃は防げるとしても、首領、アンリの持つ銃に、防御魔法は効かないだろう。


「こうでもしなきゃ、皆やられてしまうから」


「貴女……」


 気配遮断の術を解除して、屋根に立つシレーヌの存在に気づいたカリスの戦闘員たちが、二体の飛龍を操って、攻撃をしかけてくる。飛龍はぐるぐると屋根を囲うようにして、徐々にその円径を狭めていく。


「撃ち殺せ!!」


 飛龍に跨る男が、銃を構えた。驚くべきことに、真性の火薬銃を持っているのは、アンリだけではなかった。現在武器市場に出回っている大抵の銃火器や銃弾には火や金の魔鉱石が使われているため、防御魔法で防ぐことも可能なのである。これを魔銃と通称するのだが、カリスの構成員が持っているのは、一切のマナを使わないものである。旧式のものである故に、廃れて数はそう多くないはずであるが、それを大量に手に入れる闇の流通路があったらしい。黒魔術とはいえ、魔術を生業とする組織であるカリスが、魔法を捨てた。魔法と魔法のぶつかり合いを想定していたジェームたちにとっては、驚天動地の事実である。


 だが、その挙動に対しても、シレーヌは冷静だった。屋根の天辺を爪先で挟むようにして直立した彼女は、腕を身体に回し、次の瞬間にはその腕を大きく振って、回転をかけながら跳躍した。


「『渦潮(ベルテクシア)=巨大(エルグランデ)』……」


 シレーヌの足元から生じた小さな水の渦は、やがて彼女を包み込む巨大な水の流れとなって、発射された銃弾を巻き込み、勢いを殺す。そしてそれのみならず、速度を増した渦潮は、龍二頭とそれに騎乗する戦闘員を飲み込んでいく。シレーヌの魔法の効力が切れた時、カリスの戦闘員たちはマナの流れを引っ掻き回されたために全く力が入らず、かなりの高さから地面に叩きつけられた。


 一瞬の出来事に、ポカンと口を開けたままのジェームに、シレーヌは、珍しく得意気な微笑を浮かべて語りかけた。


「ジェーム、口じゃなくて手を動かして」


「そっ、その位、分かっているのだわ!!」


 ジェームもまた、慎重に屋根に上り、辺りを見回す。すると、手近な的を発見したといわんばかりに、龍六頭が突っ込んできた。


「どうするのよ……、六頭よ?」


「上よ、上」


 耳打ちするように、シレーヌが声を密める。ちらりと上空をうかがっても、窮地を脱する術は何もない。そう、何もなかった。合点がいったジェームは、ゆっくりと呼吸を整えた。


「死ねえぇぇッ!!」


 高速で突進してくる、六頭の龍と、十二人の戦闘員たち。それぞれの軌道を読んだ二人は、衝突の直前、飛んだ。そしてすぐさま、ジェームは指を下に向け、呪文を詠唱する。


「……『岩塊(ペトラム)=超大(テルグランデ)』ッ!!」


 突如として屋根の上に出現した岩塊に、目標を見失った龍が叩きつけられ、そしてなす術なく落下していく。追突の反動で建物はガラガラと崩れていき、大魔導師の二人もまた、強かに瓦礫に身体を打ちつけた。


「痛っ……。ジェーム、もう少し加減しなさいよ」


「そんなこと言われても、咄嗟にできることじゃないのだわ」


 土埃を払うジェームは、尚も上空からばら撒かれる爆弾を横目に、憎々しげな表情を浮かべた。恐らく、この爆弾は、今しがた倒した者たちの上にも降りかかるだろう。目的は分からないが、とにかくカリスは、魔術師の魔力を掻き集める術を使っている。これ以上、彼らの好きにさせる訳にはいかない……。


「半分位は倒せたかしら」


「そうね。……さ、行きましょう。次の舞台に」


 そう言いながら、シレーヌは颯爽と歩き始める。爆発音の聞こえてくる激戦区に、迷わず歩みを進めていく。ジェームにとってはその決断力は、少々危ういものとして映った。何か、取り返しのつかぬ無茶をしなければいいのだが――。



「あら、ちょっと待って頂戴。フルールからだわ」


 ジェームは、胸元の伝送鉱石が振動しているのに気づき、シレーヌを呼び止めた。もしかしたら、悪い知らせかもしれないと、一瞬応答を躊躇した彼女であったが、ゆっくりと口を開いた。


「どうしたのかしら?」


 相手のフルールもまた、緊張したような声音であった。しかし、その内容は、決して悪いものではなかった。


『あ、あのね……。二人にやってほしいことがあるの…………』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ