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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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救いの手

 自身の拠点である古城に戻ったアンリは、そこにいた先客の姿を見て、深くため息をついた。そこには、意識のないフルールを抱えたエレフィアと、再び倒れ伏した戦闘員たちの姿があった。


「何故わざわざここまでするのだ……」


「こいつを連れて来いと言ったのは君だろう、それに、君はフォラムを捕獲できなかったようだね」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるアンリ。だが、捕獲はあくまで希望条項だ。魔力を利用できれば、捕らえようが捕らえまいが、生きていようが死んでいようが構わない、というつもりで彼女には伝えていたのだが、そこに齟齬があったらしい。


「チッ……、まぁいい。とりあえず皆の治療をするから、お前はさっさと帰れ」


「…………了解。じゃ、今度はヒカル君でもやっつけてきますかね。眠いから明日の朝でもいいかしらぁ〜……」


 はっきりいってしまえば、戦い以外の場ではあまり関わり合いたくはない相手である。残念そうな顔をしたエレフィアは、膝の上に置いていたフルールの首を、乱雑に払いのけて、城を後にしてしまった。



(……痛っ!? な、何が……)


 衝撃で目を覚ましたフルールは、自分が見慣れない場所にいることに気づいた。そこは、目を凝らして見てみると、荒れ果てた石組みの建物の中であった。サーマンダ公国の近郊にある、フェルテ城跡であろうか。特に縛られているという訳ではないが、全身に力が入らないことに加え、黒魔術に由来するであろう淀んだマナのために、逃げることはできそうもなかった。


(ここが……、カリスの根城…………)


 ゆっくりと目を動かして、辺りの様子をうかがったフルールは、マスクで顔を隠した人間の群れの中に、顔を露出している二人の男の姿を見とめることができた。痩せた、白髪交じりの黒髪の青年と、対象的に恰幅のよい、髪の逆立った壮年の男。この二人が、闇の組織、カリスを操っているのだろう。


「さて、フォラムは仕方ありません。どの道あれだけ傷つければ、決戦には出て来られないでしょう。問題は、この女をどうするか、ですな。この魔力を使えば、計画は完成に近づくでしょうが……」


「合理的に考えて、そうなるね」


 魔力を使う、それはつまりフルールを殺戮し、生贄として術式を完全にするということであろう。エレフィアとの遭遇から、突如として死の危険に晒されたフルール。刃を首筋に当てられるような状況に、頭を働かせて、必死に打開策を探る。しかし、魔法が使えず、身体すら動かない状況では、彼女にできることはほとんどなかった。あったとしても、せいぜい、奇跡を信じること位しかないのである。


「悪く思うな、木の大魔導師よ。我が主の覇業のためよ、せめて苦しまぬように逝かせてやろう」


 巨大な斧を手にした恰幅のよい男、レギウスが、横たわるフルールに迫る。いつの間にか、彼女の下には青白く発光する、不気味な魔法陣が生成されており、一抹の魔力さえも逃さぬという構えである。その術式を組み上げた男、アンリは、フルールの顔を掴み上げて、哄笑を上げた。


「私を見ろ、見るんだフルール。…………あぁ、その目、恐怖と痛憤に塗れたその瞳から、一切の光が流れ出てしまうところを……、私に見せてくれ…………!!」


 レギウスが、力を込めて斧を振り上げた。薄暗い視界に、燭台に燈る炎を反射して、三日月型に輝く斧の刃が、異彩を放っている。月といえば、明日は月蝕が起こる日であったな、とフルールは、現実から目を背けるために、ぼんやりと考えていた。


(月蝕……、まさか……、それがカリスの狙い…………)


 ことここに至って、フルールはようやく合点がいった。何故カリスが活動を活発化させたのか、それは、戦争にも、ヒカルやアテナの来訪にも関係していない、一重に月蝕伝説を信じているからである。――だが、それに気づくのが遅すぎた。


 元はといえば、反発心から、わざわざサーマンダ公国の城壁の外に出てしまった自分が悪いのだ。一時の気の昂りの反動が、細い首筋を狙う刃となって彼女に返ってくる。それを防ごうとは、最早思えなかった。ただ、運命を受け入れようと、フルールは目を閉じた。



「待ちなさい」


 突如、制止の声が響く。小さいながらに石組みに反響し、人々の耳朶を揺らすその声は、幼い声音ながらに威厳に満ちていた。そして事実、それはかなりの強制力を持っていたようだ。アンリの魔法陣は一瞬の内に消えて、レギウスの斧は首を穿つ直前で止まった。


 アンリの手から解放され、ゆっくりと顔を上げたフルールの目に映ったのは、白い髪の少女であった。その顔に、フルールは見覚えがあった。それもそのはずである、その少女こそ、先のカリスの襲撃の折に連れ去られた子供に他ならなかったのである。人身供儀に使われてしまったのではという予想が立っていただけに、彼女が無事であることにも驚愕したが、その彼女が首領以下、カリスの構成員たちに対して、優位に立っているようなこの状況にも、心底驚かされた。


「恐れながら、何故お止めになられるのですか。不肖このアンリ、貴女様がためにこの女を手にかけんとしているのでございます」


「その女には、私と同じ波長を感じます。直接話がしたい、連れてきなさい」


 それは、藪から棒の提案、或いは命令であった。焦るような素振りを見せたアンリは、努めて冷静さを取り繕いながら、反論する。


「し、しかし、このような低俗な魔導師です。貴女様と同じ波長など、私には感じ取れませんが……」


「ふぅ……、私を疑うというのですか?」


「…………いえ、そんなことはございません」


 アンリは、遺憾千万という様子であったが、逆らうというつもりはないらしく、渋々それに応じた。かくして、フルールは思わぬ人物の手によって、窮地から助け出されたのだった。

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