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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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アテナの修練

「『火焔(フューメ)=極大(ペルグランデ)』!!」


 ヒカルたちが修練を積んでいたのと同じ頃、サーマンダ公国の魔術訓練所では、激しい戦闘が繰り広げられていた。巨大な火柱を燃え上がらせているのは、火の大魔導師、フォラム・マラン。そして、その攻撃をひたすら防いでいるのは、アテナである。


(あっ……、熱い……)


 盾による防御は、確かに正面からの魔法攻撃を無効化できるかもしれない。しかし、アテナの力を上回る攻撃は、盾を破壊して迫ってくるし、炎が背後まで回ってしまえば、全方向から襲い来る攻撃を防ぐことはできない。アテナの盾は、最大でも四つ程しか同時に展開できず、五枚以上では、一枚一枚の強度が落ちて、防具としての役割を果たせないのである。


「駄目です、また囲まれてしまいましたね。さぁ、仕切り直しです」


 とぐろを巻いた蛇のような炎が、アテナに襲いかかる瞬間に、何事もなかったかのような景色が戻ってくる。熱気を追い出すように服の胸元をパタパタと引くフォラムは、すでに足元がふらついている少女を見かねて、叱咤する。


「アテナさん、これは貴女から言い出したこと。今さら諦めるのは虫が良すぎますよ」


 呼吸の度に、灼熱の大気が肺を内側から焼くようだ。魔法の行使によって、体力を大幅に消耗したアテナは、しかし何も言わずに立ち上がった。それを続行の意志と受け取ったフォラムは、再び渾身の力で炎を弾き出す。


「非道いのだわ、まだ魔法を使えるようになったばかりの子を虐めているようで、御婆様はお許しになったの?」


 訓練所の広い庭を二階から眺めている人物、ジェームは、高く上がる豪火に顔を顰めた。一方、もう一人の人物、木の大魔導師のフルールは、惨たらしさには賛同しつつも、ジェームとは違う意見であるようだった。


「でも……、それはアテナちゃんが決めたこと……。だから、私だってジェームちゃんだって……、口出しはできない、……はず」


「……まぁ、そうね」


 とはいえ、特訓に文字通り熱が入り過ぎてはいけない。ぶつかり合う火焔と淡緑の盾とを、ジェームは注視した。


 ヒカルとマルクの戦いがそうであったように、アテナは自分の力のなさを痛感させられていた。それだけではなく、アテナは、王都でのヒカルの活躍に、魅了されながらも、一種の恐ろしさに近い感情を抱いていた。自分がヒカルの立場にいたとして、命を奪う煙に果敢に立ち向かっていけるか。盾がなければ、つまり、アテナが魔法の行使をし損じてしまえば、一巻の終わりである状況に飛び込んでいけるだろうか。それは事件に対する使命感かもしれないし、実力に裏打ちされた必然だったかもしれない。そのどちらであろうとも、今のアテナにはできないことであった。だから、アテナは自らを高めようと決意したのだ。


 しかし――。


「……あぁっ!!」


 満身の力を込めて作り出した盾は、火球の飛来によって粉々に砕けた。その破片がアテナの身体を切り裂くことはない、何故なら、その全てが一瞬にして燃え尽きてしまったからである。反動で、アテナは地面に投げ出され、その上を火の玉が通り過ぎていく。


「吹き飛ばされて……、よかったかもしれません……。じゃなきゃ、燃えてましたよ……、……残らず全部」


 平調で淡々と述べるフルールに、ジェームは恐れを通り越して呆れてしまった。一見すると自信なさげで、常に戦々恐々としているような彼女であるが、その実肝が座っているのかもしれない。


「でも、ちょっと位他の魔法を教えてあげたっていいじゃない。じゃないと、あの子耐えられなくなるのだわ」


 ジェームの呟きに、フルールは頷いた。もちろんフォラムも含め、皆がそうしてやりたいと思っているのだが、そうもいかない。アテナの魔力量は膨大で、下手に魔法を使おうとすると、制御が効かなくなるかもしれない。故に、今使うことができる防御魔法を自在に操れるようになるまで、攻撃を受け続けなければならないのだ。


 そしてそのことは、アテナが最もよく理解していた。何十回と攻撃される内に、火のマナを防ぎやすい盾の作り方が分かってきた。水のマナを多く含んだ盾を生成すれば、属性の有利によって、より少ない力で攻撃に耐え抜くことができる。何のマナを多くする、少なくするというのは、誰に教わったでもない、感覚的に身に着けた。否、どこか、()()()()()()()ような感覚を、アテナは覚えた。


「うん、マナの組成が分かってきたようですね! お見事です!」


 前面の火球を食い止めたアテナの成長を、明るい笑顔で褒めるフォラム。しかし、アテナがそれに応えようとする前に、第二、第三の火球がアテナに襲来する。


「容赦ないわね……、フォラムが操っているとはいえ、万一直撃したら焼死だわ。アテナ、貴女はどうするのかしら……」


 アテナは、左右から挟み込むように伸びてくる火の玉を見た。これを下手に防ごうとすれば、前面の火球に押し負ける。しかし防がねば、ただただ焼かれる軌道である。後ろに下がろうにも、背後には壁があり、対応ができない。


(一か八か……、うぅん、ヒカルならきっとこうするはず……)


 アテナは全身の魔力を前面の盾に集中させた。盾は大きく、厚く成長し、せき止めている火球の力を、終に上回った。


「うぅうあぁぁーーっ!!」


 自分の声ではないのではないかと錯覚する大音声で、アテナは盾を押す。じりじりと火球を後退させていき……、次の瞬間には、アテナの背後で二つの火球が衝突した。


「避けたのだわ!」


「……すごい!」


 大魔導師たちが喜んだのも束の間、火球の衝突によって生まれた爆風によって吹き飛ばされたアテナは、しかし生成した盾を離さないまま、落下してくる。その着地点は――。


「うわぁぁ!?」


 アテナの特訓の相手をしていたフォラムの、丁度真上であった。思わぬ攻撃に、フォラムは昏倒する。こうして、アテナは図らずも、ワルハラ帝国魔術会に君臨する大魔導師の一角を、倒してしまったのだった。

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