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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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襲撃の緊張感

 開け放たれた扉から、外の景色が目に飛び込んでくる。人々の悲鳴と、何かの爆発音が響き渡っている。空を横切った黒い鳥に見えた一群の正体は、飛龍に跨った黒い服の男たちであった。


「うぅ、何故斯様な時に……。シレーヌ、応戦なさいな!!」


「…………はぁい」


 アレキサンドラの命令に、退屈そうな声で答えたシレーヌは、扉のところに立つアルジェンタを押しのけるようにして外に出ていった。素早い動きに呆気に取られていたアルジェンタだったが、思い出したようにその後を追っていった。しかし、その二人、そして元より外にいたフォラムの、三人の大魔導師をもってしても、地鳴りも爆発音も、止むことはない。アレキサンドラは、不安気な様子で状況をうかがっていたが、それが好転しないと悟ると、意を決したように、机から杖を取り出した。


「仕方ない、私も行きましょう。ジェーム、フルール、二人のことをよろしく頼むわよ」


 そう言うなり、サーマンダ公アレキサンドラも、自分の国を守るために部屋を後にした。取り残された四人は、緊迫した空気の中に取り残されてしまった。



「ジェームさん、カリスって、一体何ですか?」


 外敵を防ぐために、急拵えの結界を張っているジェームに、アテナは尋ねる。ジェームは、窓越しに外の様子を確認しながら、張り詰めた声で返した。


「カリスは、非合法の魔術組織。その実態はワルハラ政府諜報部も、私たちも捕捉できていない。噂では、黒魔術さえも扱うと言われているのだわ」


「お二人とも、気をつけて、ください……。カリスの構成員には、身体のどこかに、渦を巻いたような入れ墨があるはずですから……」


 ジェームの説明に、フルールが補足する。つまり、大魔導師たちのような白魔術師たちに仇なす、敵ということだ。しかし、今まではこのような大規模な衝突はなかったと、彼女たちは語った。何故、この機に襲撃が行われたのか、それを問う暇はなかった。


 突如として轟音が鳴り響き、建物全体が大きく揺れる。カリスによる攻撃が、宮殿に直撃したのだろう。先程の結界がなければ、ヒカルたちが危なかった。


 しかし、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、部屋の唯一の扉を叩く音が聞こえたことで、室内の面々に緊張が走った。結界を張っているのにも関わらず、もう敵が部屋のところまで来たということか。


「ジェームさん、どうするんですか……?」


「仕方ない……、扉ごと撃破するしかないのだわ」


 覚悟を決めたジェームは、力をため始める。彼女の構えた両の掌には、ゴツゴツとした岩塊が生成されていく――。


「ジェーム、倒すより、生け捕りにした方が、いいんじゃないの?」


 フルールのたどたどしい提案に、ジェームははっとした表情を浮かべた。確かに、外敵をただ遠ざけるより、捕縛した方が、有力な情報を得られるかもしれない。


「でも、私の土の魔法じゃ、生け捕りは難しいのだわ。フルール、貴女ならできるんじゃない?」


「へぇっ!? あ、うん……。そうだよね、うん……、やってみるよ……」


 フルールは、自分が言い出したことながら、少し後悔したような素振りを見せた。それでも呼吸を整えて、魔法を使う態勢に入る。


「うぅ〜、『生いよ蔓草(ポセット・ウィーテス)』!!」


 高らかな詠唱とともに、フルールの足元から、数本の蔓草が生え出てきた。蔓草は、際限がないかのようにするすると伸びていき、壁の隙間という隙間から、外の人物を目指していく。その成長が止まったことが、対象を捕縛したことの印であった。


「とっ、捕えた……! 扉開けて、中に入れるから……」


 蔓草によって、何重にも縛られたその人物が、部屋の中に入ってくる。しかし、その蔓のせいで、顔が覆い隠されてしまっていた。


「貴女巻きすぎなのよ、早く解いて頂戴」


「うぅ……。ごめんなさい……」


 蔓が、するすると、恐らく頭のある方から解けていき、入れ子のようになったその中から、男の顔が覗き始めた。


「……って、マルクさんじゃん」


 果たして、その男は、サーマンダ公国に養生に訪れていた、騎士団第二隊長、マルク・バルフォエであった。彼はようやく自由になると、怒気で声を荒げた。


「何なんだよ一体さぁ!! ただ待ってたらいきなり戦闘が始まって、部屋に入ろうとしたらいきなりこれだよ!! 分かるだろ僕がいるってことはぁ!!」


 けたたましく騒ぎ立てる男に、二人の小さな大魔導師は、耳に指を突っ込み、あくまでも自分たちの調子を崩さずに、さらりと受け流していく。


「あらあら、ごめんなさいね。まさか貴方が正直に待っているとも思えなかったから」


「魔力が、すごい弱っちい……、じゃなくて、弱まってるから、誰だか分からなくて……」


 マルクは、唇を噛み締めて、彼女たちに言い返すのを必死に我慢した。その怒りの峠を越した彼は、深呼吸をして気持を落ち着かせて、改めて本題に入った。


「あー、それでさ、さっき話してた禁忌ってのは、何なの」


「……呆れた、貴方わざわざ聞き耳を立ててたって訳?」


 ジェームの軽蔑するような視線に、マルクは、仕方ないだろ、聞こえちゃったんだから、と言い訳をした。


「ともかく、今は話せるような状況じゃないのは確かなのだわ。……貴方も騎士団員なら、しっかりと動いて皆を助けたらどうなの?」


 マルクは、助けを求めるように、ヒカルとアテナの方を見てきた。しかし、二人も同じ考えであった。まず、この事態を終息に向かわせねば、秘密を保持することなどできる訳もない。観念したマルクは、剣すら持ってないんだけどなぁ、と呟きながら、宮殿を後にした。

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