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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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魔術王国の賑わい

 声の主を探してその方向を見た人々は、先程のリスが、二本の足で立ち上がっているのを見た。


「リスが……、喋った!?」


「そんな訳ないのだわ」


 アテナの喫驚の声に、ジェームがつっこむ。皆の顔を不思議そうに見回したリスは、その直後、背後の草むらに逃げ込んでしまった。人々が注目する中、その草むらから、リスを抱え上げた緑髪の童女が姿を現した。


「あ、あのぅ……。ご、ごめん……、なさい……」



 彼女は、四人目の大魔導師、木属性の魔法を操る童女、フルールと名乗った。怯えるような瞳と、自信なさ気な表情。その強烈な魔力がなければ、大魔導師だとは気づかれぬであろうという印象である。


「つまり、鉱山の調査をすっぽかしたアルジェンタに仕返しをするために、貴女が手形を盗み出したと……」


 ジェームの問いかけに、フルールは、探りを入れるように皆の顔を見回していたが、終に頷いた。まったく、誰も彼も子供なんだから、とジェームは嘆息した。


「まぁでも、これで僕の疑いは晴れたね。フォラム、悪いのはアイツだからね、懲らしめるならアイツだからね……」


 そう言いながら、城門を潜ろうとするアルジェンタの肩を、フォラムが掴んだ。嫌な予感に身体を震わせるアルジェンタに、追求の声が降りかかる。


「…………結局、貴女が鉱山の調査を勝手に切り上げたのが悪いのではないですか!!」


「あ、あぁ、うん。そういう捉え方もできる、かもしれないけどさぁ……」


「問答無用ッ!!」


 どうやらフォラムにしてみれば、鉱山の件が、相当に頭にきているようだ。戦闘を再開させた二人を横目に、ジェームはいつものことだといわんばかりに、やれやれと首を振った。


「こんなのに構っている暇はないのだわ。行きましょう、国王が待っているのだわ」


 終始落ち着いた態度のジェームの手引で、一行はサーマンダ公国へと足を踏み入れたのだった。



 サーマンダ公国は、戦争の只中にあって異様な活気を見せていた王都、ゲレインとはまた違う熱気を帯びていた。独立国家然としているとは聞いていたが、ここには軍事物資の影もなく、前線の混乱とはまるで無縁といった様子である。人々は、普段と変わらぬ風で、生活を営んでいる。


 その人々、つまりは人種も、王都より雑多であった。王都ではどちらかといえば少数派であった、所謂亜人類という部類の者が、往来の半分程を占めている。


 町並みも、普通の食料品店に挟まれて魔杖を扱う店があったり、本屋の店頭には魔導書が並んでいたり、怪しげな角の小屋の先に見慣れない薬品が陳列されていたりと、真新しいもので溢れているのだ。


「へぇーっ、すげぇな。これだけ魔法研究が盛んなのか」


 騎士団のマルクも、治療に来たという事実を忘れて、すれ違う人たちをじっと観察している。喋る鳥、二本脚で歩く猫、薬草を売るのは、なんと木の精霊の老人であった。色とりどりの草花にみとれたアテナが、その出店へと歩み寄っていく。


「すみません、これは何の薬草なんですか?」


 巨木のようなゴツゴツとした肌の店主は、幹に空いた(うろ)のような目で、アテナをチラリとうかがい、ぶっきらぼうに答えた。


「眠気覚ましだよ」


「じゃあ、この白い花は……」


「火傷の治療用のアトリの花だよ」


「じゃあ……」


「嬢ちゃん、ひやかしなら帰ってくんなぃ」


 強い語調でそう返され、顔を赤らめたアテナは、平謝りに店を後にした。元より好奇心旺盛で、気になったことは確かめずにはいられない性質であったので、それからもアテナは、ふらふらと一行の列から離れては、本を眺めたり、魔法具を触ってみたりと、初めて見るものに興味津々であった。そうして寄り道をする度に、彼女はヒカルに連れ戻されたのである。


 ただ、ヒカルも興味深いものがなかった訳ではない。人々の持っている武器、武具の類には、自然と目がいった。偏見かもしれないが、魔法使いという職業の人間は往々にして筋力が弱い。そのため、帯刀する剣も、男女を問わず、細く軽いものが多いようであった。


「寄り道したい気持も分かるけど、目的を忘れないでほしいのだわ」


 先頭を行くジェームは、後続が散開してしまっているのに気づき、深くため息をついた。まったく、彼女から見れば、皆が皆、子供と同じである。


「目的?」


「……フルール、貴女まで忘れてどうするの。御婆様に謁見するのでしょう?」


 忘れっぽいフルールは、そう指摘されて、照れ臭そうに頭を掻いている。どいつもこいつも、と言いたいのを必死に我慢したジェームは、何とか一行をまとめ上げて、サーマンダ公国の中枢にある宮殿へと向かった。



 結局、半時間の道のりに倍以上の時間がかかってしまった。ジェームが肩越しに皆の様子を見ると、一行はまだ、興奮した様子であった。


「箒で空を飛ぶなんて、御伽話みたい……」


 未だに町中で見た魔法使いの姿が、脳裏から離れないアテナが、何度も振り返って呟く。それに、ヒカルとマルクも同調して、力強く頷く。


「もう分かったから、貴方たちは静かにしていなさい。それとマルク、貴方は外に残っていて頂戴」


「はぇー、ここまで来て、その仕打ちですか?」


 この魔術国家の中枢ともなれば、きっと相当な魔術技術が見られるのであろうと期待していたマルクは、なおも食い下がったが、皇帝とサーマンダ公から謁見が許されたのが、ヒカルとアテナの二人だけだと知ると、がっくりと肩を落とした。


「さぁ、二人とも行きましょうか」


 こうしてヒカルとアテナは、魔術の聖地、サーマンダ公国の支配者たる王のいる場所に、足を踏み入れたのであった。

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