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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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鉄拳制裁

 ヒカルは、窓から身を乗り出して、その声の主を探した。しかし、樹上にも城壁の上にも、それらしき人影はない。ただ、アルジェンタとジェームには、その人物についての見当がついているらしかった。


「あー、久し振りだねフォラム……。分かってるとは思うけど、アルジェンタだよ」


 誰にも見えていない人物、フォラムは、しかし、アルジェンタの言葉を信じてはいないようだった。


「嘘です!! もし貴女がアルジェンタだとすれば、皇帝からの書と手形を与っているはず。それが出せぬのならば……」


 突如として、アルジェンタの眼前の空間が激しく燃え上がる。その熱と明るさのために、彼女は目を細めた。


「つまりは貴方たちは偽物です、排除します!! 哎呀(アイヤー)ーッ!!」


 大呼とともに、豪炎の中から腕が伸びる。否、伸びるというより、槍で突いたかのような鋭さで、拳がアルジェンタに迫る。


「おいおい……」


 アルジェンタが自身を守るために作り出した鋼鉄の盾は、炎を伴った腕によって、一瞬で溶け落ちてしまった。次々と炎の中から繰り出される攻撃に、後ろに飛び退きながら、アルジェンタは抵抗する。


「押されてますよ……、私たちもどうにかした方がいいんじゃ……」


 アテナの心配を、ジェームは片手で制した。大魔導師と、それを凌駕する強さを持つ、炎の内側にいる未知の人物、フォラム。手出しをしようものなら、こちらとてただでは済まないのである。


 加えていうならば、アルジェンタの金の属性は、炎に対して不利なのだ。五属性は、お互いに有利不利の相関関係がある。金は木に強いが、火に弱い、といったような相性があるために、アルジェンタは苦戦を強いられている。


「ちょっと、ジェーム! 誤解を解いてくれよ!!」


 アルジェンタの懇願に、もう一人の大魔導師は呆れ顔で、貴女が与ったものをなくしたのだから、身から出た錆だろうと伝えるだけであった。


「あぁあ……、何て冷たいんだ。悲しくて僕泣いちゃう」


 嘘泣きで、どうにか同情を引こうとしたアルジェンタだったが、それで動かされる相手でもなかった。ちょっとした隙をも見せないようにしないと、即座に打ち倒されてしまいそうである。


「……、うん?」


 緊迫した状況を傍観するしかなかったヒカルは、不意に、アテナが声を上げたのに気づいた。彼女は、自分の足元が気になるのか、きょろきょろと見回している。


「アテナ、どうした?」


「分からないけど、何かフワフワしたものが……」


 アテナの言によれば、自分の足に毛皮のようなものが触れた感覚があったということであった。しかし、この車の中に毛皮製品はない。ともすれば、何かしらの動物が入り込んだのか。


 そのヒカルの予想は当たっていた。ガタンと音を立てて倒れた乗降用の梯子、その下に、萌黄色の毛色のリスが挟まっている。これが入り込んでいたのだ。可哀想に思ったアテナが梯子をどかしてやると、リスはお辞儀をするような仕草をして、手に持っていた何かを差し出した。恐らく、礼のつもりであろう。


 果たして、それは金属製の重しのような何かであった。精巧な作りをしていて、中央にはワルハラ帝国の紋章が刻まれている。


「ジェームさん、これって……?」


「…………手形だわ」


 驚くべきことに探し求めていた手形は、あの萌黄色のリスが持っていたのだ。一体どのような手段でもって、あのリスが手形を盗み出したのかは定かではなかったが、これでどうにか、あのフォラムなる人物を止めることができる。


 アテナから手形を受け取ったジェームは、側に立っている番兵を呼び寄せ、手形に間違いがないことを見せた。


「失礼いたしました。フォラム様、確認が取れましたよ」


 番兵の呼びかけに、そのフォラムという人物は、一行が本当に皇帝の命を受けて来たのであると、やっと納得したようだった。彼女を取り囲む炎が消え、その姿が現れる。



 それは、くすんだ、赤く短い髪と、切れ長の吊り目が特徴的な女性だった。動きやすいように、あるべき厚い上着を脱ぎ、腕まくりをしてはいるが、その服は紛れもなく、ジェームやアルジェンタと同じ意匠であった。アルジェンタと、互角以上の戦いを繰り広げた彼女の実力からも分かるように、彼女こそ、三人目の大魔導師であったのだった。


「これは……、貴賓殿には、申し訳ないことをしてしまいました」


 顔を赤らめ、眉尻を下げた火の大魔導師、フォラムは、丁寧に腰を折って頭を下げた。返って頭を下げられた側が恐縮してしまうような所作であった。そんなフォラムの肩を、アルジェンタは慰めるように叩く。


「まぁまぁ、僕は心が広いから許してあげよう。これからは、守護者として戦うのもいいけど、しっかり相手のことも考えてあげようね」


 そうやって、軽口を叩くアルジェンタに、フォラムは苦虫を噛み潰したような表情で返した。


「元はといえば、貴女が手形をなくしたのがいけないのではないですか。大体、そっちがどうだったのかは知らないですが、こちらは貴女がいなくなったと大騒ぎだったのですよ!」


 そういえば、ヒカルたちが騎士団の詰所で二人の大魔導師に出会った時、彼女たちが鉱山がどうとかいう話をしていた。アルジェンタの行動が、様々なところに影響を及ぼしていたのだ。


「そ、それはそうだろうけど……。でも鉱山のことと手形とは関係ないだろ!?」


 屁理屈をこねて、責任を逃れようとするアルジェンタと、アルジェンタのどこか抜けている性状のために、迷惑を被ってきたフォラムの間の緊張は、再び高まってきた。まぁ、九割はアルジェンタのせいであろうが。


「だから、手形はリスが持ってたって、ジェームが言ってただろ!?」


「煩い!! 責任ある立場の人間が、言い訳とは見苦しいです。もはや鉄拳制裁するより他なし!!」


 一行の目の前で、またも二人の大魔導師の技がぶつかろうとしたその時、森の方から、高い、怯えた声が響いてきた。


「もっ…………、もう止めて、ください…………!」

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