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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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取り返しのつかぬ失態

 列車は、その日の朝の内に、サーマンダ公国に程近い駅に到着した。降りてくる人間に騎士団員や軍人らしき人間が多いのは、マルクも巻き込まれた戦闘のためであろう。ヒカルとアテナに墓所の調査を依頼したオリバーは、怪我を負ったものの、野戦病院で治療を受け、何とか復帰したようだと、連絡を受けたマルクは語っていた。


 さて、マルクも加わり、計五人となった一行は、大きめの車に乗り込んだ。この大きさともなると、馬で引くのは無理があるようで、いつぞや見たクールマ種の龍が牽引していた。


「ここからどれ位でサーマンダに着くんですか?」


 ヒカルの問いに、ジェームは懐中時計を取り出して、アフマの刻の十六時位になるかしらね、と答えた。つまり昼過ぎには到着するということだ。因みに一日は、日の出の時刻から日の入の時刻をアフマの刻、それ以外の半分をアルマの刻と二分割され、さらにそれら一つ一つが二十四等分されている。具体例を上げれば、太陽が南中するのは、アフマの刻の十二時であり、一日は四十八時間となる。


 そうなると、だいたい十時間程あれば着くだろうと、ヒカルは車窓からぼんやりと外の景色を眺めていた。彼の臨む窓から見えた荒涼とした大地は、いつの間にか豊かな森へと変貌を遂げていた。


 サーマンダ公国が近いからであろう、とヒカルは考えた。水辺には巨大なサンショウウオのような生物、人の顔より大きな蝶と有翼の蛙。尾のないリスを思わせる小動物を狙い、上空から双頭の鷲が飛来する。もちろん普通の動物もいるが、ヒカルからしてみれば、それらの摩訶不思議なものが生きて、動いているのが衝撃的だった。


 矢を放つ音は、恐らくこの地に居住するエルフの狩りによるものであろう。若い男たちが草むらから躍り出ては、中型の龍を仕留めるために、様々な武器を駆使して攻撃する。龍の方も尾を振るったり、火を吹いたりと、激しく応戦している。


「あれは、龍の肉を獲ろうとしているんですか?」


 ヒカルの質問に、アルジェンタは、それもあるんだけど、と前置きしてから答えてくれた。


「龍の身体には、その強大な魔力が固まってできた結晶があってね、それを求めているんだ。魔力を持った生物から鉱石を切り取るのは、鉱山から採掘する以外のほぼ唯一の方法なんだよ」


 そういえば、ヒカルの見た生物の中にもいくつか、角のように生え出た、煌めく結晶を有しているものがいた。龍もそうだが、双頭の鷲、一角の野牛、木に生えているのもあった。


「あ、あの鹿もだ」


 茂みから覗く、二本の枝のような鹿角。それが日光を乱反射して、光り輝いている。その神々しさは、魔獣というより聖獣だな、とヒカルは思った。


「……、ヒカル、今、何がいたって?」


 ジェームの声で、ヒカルは窓の外の世界から、車内に引きずりこまれた。見るもの全てが興味深く、ずっと観察していたいという気持のあったヒカルは、機嫌を悪くしかけたが、ジェームの緊迫した表情に、思わず固唾を飲んだ。


「し、鹿です」


「見間違ったということはない?」


 尚も詰め寄るジェームに、ヒカルはすっかり気圧されてしまった。何か、禁忌に触れるようなことを言ってしまったのだろうか、答えに窮したヒカルは、終に自分の見間違いだと伝えてしまった。そうしてようやく、ジェームは安堵のため息をついて、座席に座り直した。


「どうしたんです、ジェームさん?」


 ヒカルと同じように、車窓の風景に目を奪われていたアテナが、不思議そうに問う。しかしジェームは、まるで何事もなかったかのように、別に、と素っ気なく答えるだけであった。


「もぅ、ジェームは心配性なんだよ。いる訳ないじゃない」


「う、煩いわね。もしもということもあるかもしれないのだわ」


 気楽そうに肩を叩くアルジェンタを、ジェームはキッと睨みつけた。さて、もしも、とは一体何のことであろうか。また何か因縁のようなものがあるのだろうか。それに対する明確な解答を得られないまま、ヒカルたちは森の中を走り行くのであった。



 やがて車は、木々のない、開けたところに出てきた。正面には、石組みの城壁と、水が満たされた濠。恐らくこここそが、サーマンダ公国の中心部なのだろう。車はそこの番兵に止められた。


「通行手形を確認いたします」


 非常に事務的な、感情の籠もっていない声で、槍を携えた番兵が手を伸ばす。


「あぁ、手形ね。ジェーム、君が持ってるんだろ?」


「はぁ? 貴女が持っていたと思うのだけれど」


 アルジェンタは、眉を顰めた。そして、頭上の疑問符が見えるかと思われる程に考えて考え抜いた後に、あぁ、と手を叩いた。


「そうだ、そうだ! 陛下からもらったあれか!」


「そうよ、ほら、早く出すのだわ」


 ようやく合点がいったという晴れやかな表情を浮かべるアルジェンタに、ため息をついたジェームは、催促するように手を差し伸べた。アルジェンタは、自身の服の全てのポケットを何度も往復して、小さく声を上げた。


「あれ、なくしたかも」


「は……、はぁあっ!? 貴女って本当にどうかしてるのだわ!?」


 ジェームの悲鳴にも似た声に驚いたアルジェンタは、やけを起こしたかのように、番兵に掴みかかった。


「お、おい、お前ら僕だよ。大魔導師のアルジェンタだよ。頼むよ通してくれよぅ」


 番兵は、まったく表情を変えず、しかし規則ですので、と素っ気なく返した。もちろん手形がなければ、ここを通れるはずもなく、アルジェンタは頭を抱えた。


「くそっ、こうなったら……、強行突破してやろうかな……」



 その時、一行の頭上から鋭い声が響いた。


「おい、お前ら何してるっ!?」

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