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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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死ぬ前くらい

 接近してくる、強大な魔力を発する何かに、骸骨は存在としての自己の危機を感じたようで、すぐに応戦する体勢に入る。噴水からは煙が湧出し、投げ槍のようになって放出される。


「――ロロちゃん!!」


 アテナはロロを抱きかかえて、逃げるように横に飛ぶ。石畳にぶつかった煙の槍は、先の方から潰れて、土に水が染み込むように溶けて消えていった。


「ひぃー、助かった〜。よし、これで、私を逆さ吊りにしたツケはチャラにしといてやる」


「逆さ吊り……? あ、貴女を捕まえた時のことか、あの時はごめん!」


 ちょうど今、思い出したような表情のアテナに、ロロは、コイツの魔法は信用できるのかと訝った。だが、そんな事情など知ったことではない骸骨は、即座に次の攻撃の体勢に移る。アテナの背中越しの攻撃に気づいたロロは、必死に肩を叩いて知らせる。


「ちょっと、きてる! 指きてるって!!」


「キャアアッ!!」


 指の攻撃は、何とか盾でしのいだ。しかし、咄嗟に出た魔法であったため、その強度は低く、すぐに砕かれてしまう。そして、指の攻撃を避ければ煙が、煙の槍を砕けば骸骨の骨格が、矢継ぎ早に二人に襲いかかってくる。


「ちょっと、もう私を離しなさいよ! アンタと一緒にいたら私まで串刺しになっちゃうでしょ!? 卵は同じかごに盛るなって聞いたことないの!?」


「ごっ、ごめんなさいぃ!」


 そう言いながら、アテナは余計にロロを強く抱く。


「ちょっ、格言を知ってることに謝ってないで、私を離しなさいってば!!」


「でもっ、遠くに盾は出せそうにないし……」


 アテナの不安、それは、ロロを離してしまったら、自分はこの人形を守れないという危惧にあるのだ。骸骨は、今は出鱈目に技を打ち出しているように見える。例えロロが、骸骨に認識されにくい存在であったとしても、流れ弾に当たらないとも限らない。


「気持は分かるけど、死ぬ瞬間に自分の好きにできないなんてごめんだね!」


 ぐいぐいと身をよじるロロを、アテナはじっと見つめていた。確かにこのままであれば、二人とも骸骨には倒されないかもしれないが、そのままでは煙に飲まれるだろう。


「覚悟はできてる?」


「うっ……、アンタにそう言われると揺らぎそうだけど、でもやるよ!」


 アテナは頷き、前に放るようにロロを離す。ロロはよろついたようにニ、三歩行くと、体勢を立て直した。目指すは噴水のどこかにある、ロロの魔杖である。杖なしでは、彼女の魔法は狙いが定まらず、自分や仲間に危害を加えかねないのである。


「どこだよ私の杖ぇ〜!」


 しかし、先程落としたはずの杖は見当たらない。噴水の方に飛んでいったようだから、骸骨の出す煙の中に紛れてしまったのかもしれない。そうなれば、ロロは立つ瀬がない。骸骨に感知されなくとも、魔法が使えぬでは意味がない。


 アテナも杖を探そうとしたが、彼女の放つ魔力を頼りに絶え間なく仕掛けられる攻撃の前では、ゆっくりと見ることはできそうにない。隙を見せようものならば、またたく間に食い潰されそうである。その骸骨の眼窩にはまる不可視の眼球が、彼女を捉えて離さないかのようであった。


「……!? しまった!」


 骸骨を常に警戒しながら立ち回っていたアテナは、自身が徐々に煙に包囲されつつあるのに気がつかなかった。骸骨の直接操る煙は、王都に充満するそれとは違い、知性を持つような、統制のとれた動きをする。アテナの魔力を的としつつも、無闇な攻撃をせず、ただじりじりと包囲網を狭めていく。王都を覆った煙のドームのように、アテナを包み込んでいく。


「……ハァッ、ハァッ……。息が……、苦しい…………」


 アテナの意識が朦朧としてきた。煙によって、外部との魔力の循環がなくなってしまい、体内に十分なマナがないのだ。心臓の鼓動が身体の中に反響して、閉じかけた瞼を突き上げる。生きるという意思が、生きたいという志望が、再び盾を作り出す力になる。


(どうしよう、どうしよう、どうすればいい……? 最初の攻撃は防げても、次の攻撃は当たってしまう……。当たったらどうなるの?)


 息を長く吐けば、緊張しきった心も解れるかと思い、肺に力を入れようとする。しかし、息を吐いたら吸わねばならない、自分の周りの煙を吸えば、悪性のマナが体内に、大量に入ってしまう。そんな考えが脳裏をよぎり、口を閉じた。


(苦しい……、でも、どうにもできない……。盾を持って体当たりしたら、煙を破れるかもしれないけど、後ろから刺されたら終わり……。盾は二つは作れないし…………)


 直後、アテナの視界が大きく傾いた。それが、体力も魔力も消耗し、終に直立していることができなくなったことを意味するのだと、彼女は石畳に倒れ込んでから理解した。


(おかしいな…………、身体が動かない……。盾が、出せないよ……?)


 指先に力など入らない、五感が次々と失われ、アテナは終に目を閉じた。まだ自分は生きているのか? 自問自答を、動かない脳髄でゆるゆると続ける。


 彼女が寸分も動かなくなっても、煙の動きは変わらない。まだ、アテナは意識を失った訳ではない。魔力も弱まっているが、完全には消えていない。煙は獲物をしとめるために、あくまでも慎重に、だが確実に、収縮していく――。

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