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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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その力は救うために

「見とけよ骸骨ぅぅーーっ!! バラバラにして埋め直してやるからなぁぁーーっ!!」


 その小さな身体に見合わない、大きな声で張り叫びながら、ロロは骸骨に向かって突進する。もちろん、煙と同じような性質を有し、霊体である骸骨に直接触れて攻撃する訳ではない。路傍に落ちていた石に魔杖を振り、魔力を纏わせて、力任せに蹴りつけるのだ。魔術式の刻まれたものならば、魔法具と同等の効果があるのだ。小石が左の肋骨に勢いよく当たり、骨の割れる乾いた音が広場に響く。


「どうだぁー!!」


 しかし、ひびが入ったのも、全体からしてみれば微々たる傷にすぎない。加えて、この骸骨は霊体なのだ。穴が開けば塞ぐことができるし、傷がつけば治癒することが可能なのである。だから、実質的には小石がぶつかったくらいでは、痛くも痒くもないだろう。骸骨は石の当たった辺りをさすりながら、誰が攻撃してきたのかと、魔力を頼りに周りを探し始めた。


「ちょっ、全然効いてない、話が違うじゃない!!」


 先程までの勢いに翳りが差したロロが、振り返って尋ねる。その様子に、ハルシュタインは嘆息した。


「話を聞いていない貴女が悪いのです、あくまで貴女は、骸骨に気づかれない、いや、気づかれにくいだけなのですから。攻撃が効くかどうかは別です」


 嘘だろう、と目を見開いたロロは、メリアに助けを求めたが、魔法も使えず、骸骨も見えない彼女にはどうしようもない。頑張れ、と伝えるしかなかった。


「アンタ、どんだけ薄情なのさ!!」


 その時、骸骨が大きく動いた。ロロの叫びに反応したのか、それとも感情の高ぶりによって強くなったマナの反応を、敏感に感じ取ったか。ぐらりと伸び上がった骸骨は、長い腕を振りかぶり、ロロに襲いかかる。その迫力、威圧感のために、逃げ出そうとしていたロロの足がもつれた。そのまま、小さな人形は、地面に倒れ込む。杖がコロコロと石畳の上を転がっていく。


「危ないっ!」


 ハルシュタインは、ロロを助け出すために走り出した。しかし、この距離では到底届きそうにない。細剣を投げて腕の動きを止めようにも、走りながらでは狙いが絞れず、ロロに当たるかもしれない。それに剣が破壊されては、自分自身の命も危ない――。それでも葛藤を振り払い、ハルシュタインは走った。


(きっと間に合わない……、どうしよう……!)


 アテナは咄嗟に動くことができず、その場で見守る他なかった。ただ己の指を絡め合わせて、ロロが助かることを祈ることしかできなかった。


(ロロちゃんの側に私がいれば、盾で守れるのに……!)


 自分の無力さが、悲しい、苛立ちすら覚える、いや、さらに激しい感情が、アテナの心の中で渦巻く。その感情の高ぶりは、大きな力へと、ロロの命運を救う盾へと変じた。



「……はえぇ?」


 蹲るロロは、自らが骸骨の攻撃に巻き込まれていないことに気づいた。ゆっくりと、怯えながら目線を上げたロロは、骸骨の指先が、淡緑色の透明な壁にせき止められていることを理解した。勢いをつけて攻撃を仕掛けたからであろう、骸骨の指先は、直後、透明な壁とともに粉々に砕けた。


「今の内にこっちへ!」


 抜き身の剣を持つハルシュタインが、ようやくロロに手の届く位置に来た。そのまま人形を庇うように抱きかかえると、後ろに飛んで逃げる。


「あー、私の杖ぇ……」


「今はそんなことを気にしている場合じゃありません。でも、あれがないと、貴女は魔法が使えませんか……」


 心細げに、ロロは頷いた。杖は、噴水の石組みに引っかかったようである、骸骨の懐に飛び込まない限りは、取り戻せそうになかった。


「ね、ねぇ、怖いお姉さん。今のってアテナちゃんの魔法なの?」


 心臓は持たないが、その代わりの輝石が、チカチカと痛む。胸の辺りを押さえながら、ロロはハルシュタインに聞いた。ハルシュタインは、怖いお姉さんという言葉に眉を顰めたが、大人しくその質問に答えた。


「そのようです。貴女の危機に、防御魔法の質が上がった……」


 今でこそ記憶を失い、能力も開花していない彼女であるが、もしかしたら本来は、並一通りでない魔法の使い手であったのかもしれない。自身の身体から離れた位置に放った防御魔法であるのにも関わらず、骸骨の腕を砕く十二分の強度を持っていたのだから。そんな魔法の盾のことを、ロロはハルシュタインの胸の中で、じっと考えていた。


「……ねぇ、私の小石攻撃でチマチマ削るより、アテナちゃんの盾でゴリゴリしちゃった方がよくない?」


 さも名案であるかのように、ロロが指を立てて提案する。何をそんな馬鹿なこと、と言いかけたハルシュタインは、ふと足を止めて後ろを振り返った。骸骨の砕かれた腕は再生してきているものの、その部分が大きいために、復活には時間を要しているようだった。


「…………いけるかもしれません」


「ちょっと、痛い! 痛いって!!」


 骸骨を倒すための算段がついたような感覚、一縷の光明が見えた興奮に、ハルシュタインは思わずロロを抱く腕に力が入ってしまった。

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