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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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魂斬り

『霊はこっちだ、西側!』


『合点、後ろから回り込みます』


「俺も行きます!」


 巨大な骸骨から霊を引き剥がす任務中の三人は、連携を取りつつ、霊を誘い出した。少し開けた十字路に誘い込んで、一気に囲んでケリをつけるという作戦である。霊は煙と同じように、マナに引き寄せられていくが、魔力鉱石のような静物には反応しなかった。つまり、ある程度の知能のようなものを持ち合わせているということだ。


『これをどう判断する?』


 アルジェンタの問いかけに、ヒカルが自説を述べる。


「墓所が儀式の舞台……、もしかして、死んだ人の魂みたいなものがあって、それを操っているんじゃ」


『そうだね……、そうかもしれないんだけど、いまいち分からないんだよなぁ……』


 アルジェンタは、この霊体を奇妙なものと感じていた。黒魔術師が術式を刻みつけていた失踪事件の犠牲者の墓石の下に、骨はただの一つも埋まっていない。当然、死者の魂なるものが出てくるはずもない。かといって、何も関係ない別の墓から魂を呼び起こしたというのも釈然としない。


『或いは、生霊とかですかね。王都での失踪事件に巻き込まれた人の魂』


 オーエンの言葉は、興味深い仮説だ。それならば、失踪という繋がりから、あの碑に術式を刻みつけたことにも納得できるし、黒魔術師が失踪に関わっていたのなら、彼が霊を自由に扱えることにも合点がいく。しかし、あの霊の量は、軽く数十はあるだろう。失踪した六人では足りない。


「あれが事件に巻き込まれた人の魂だとしたら、切ったらまずくないですか?」


『いや、それは大丈夫じゃないかな。魂っていうのは、基本的に何もできないし、身体から抜け出しても勝手に帰ってくって、本で読んだことがある』


 ヒカルの危惧を、アルジェンタは振り払った。彼女いわく、あの霊は、魂のようなものを取り込んでいたとしても、それは核の部分だけであり、それがマナで囲われているのであろうということだった。魂とマナは別物であり、どんな手を使ってでも、魔法科学的に魂には触れられないから心配ないと、アルジェンタは語った。


「よく分かんないですけど、要は切ってもいいってことですね」


『あまり突っ込みすぎないでね、煙と同じ効果があるから』


 そんなことを話している間に、長く尾を引く霊がわらわらと現れた。人の上半身のような形をしたものから、人魂のような形のものまで、形状は様々であっても目指す先は一つであった。


「行くぞ!!」


 マナではなく、空気の震えとして、アルジェンタの声がヒカルの耳朶に届く。それを合図に、三人は一斉に動き出した。


 路地から飛び出し、まず一太刀を見舞ってやろうとして、すぐそばの霊に切りつけるが、ふわりと浮かんでかわされる。しかし、その動きは単純で遅く、少し攻撃が当たった程度で浄化されるという脆いものだった。返す刀で剣撃を喰らわせると、霊は少し震えた後に、すぅっと消えてしまった。


「量が多いだけで、全然勝てそうじゃん!」


「その量が多いのが厄介なんですけどねぇ……」


 アルジェンタとオーエンも、霊に直接触れぬようにしっかりと距離を取りながら、次々と霊を払っていく。数はどんどん減っていくが、霊の中でも人間に近い形のものが、次第に目立ってきた。あの人間の形をした霊は、より高い知能を持っているようで、小さな霊を身代わりのようにしつつ、陰湿に攻撃を仕掛けてくる。その数五体、男か女かも何となく分かるような、はっきりとした姿の霊である。


(あっ、危ねっ!!)


 頭の上の死角から、指の輪郭が襲い来る。ヒカルは、すんでのところで身体を反らせて回避し、その反動で刀を伸ばしたが、霊はすぐに上昇し、空振りに終わった。


「ヒカルくん!」


 アルジェンタの呼ぶ声に、ヒカルはちらりとそちらをうかがう。アルジェンタ、オーエンは、二体ずつの人型霊と多数の霊の連携攻撃に苦しめられながら、徐々にヒカルから離れていってしまっている。まさか、この五体の人型霊は、三人の連携を切ろうとしているのか。そこまで考えている相手ともなると、やはり並一通りではいかない。


「君はその霊を頑張って倒してくれ、そうしたら、すぐに骸骨の方に向かってくれ」


 ヒカルは、苦戦する二人を見捨てる訳にはいかないと断ったが、アルジェンタは、この人型霊よりさらに強力な骸骨のことを気にかけていた。


「アテナちゃんやロロ、ハルさんだけじゃ、返り討ちに合うかもしれない。こっちは僕たちでどうにかできる。すぐに行ってくれ!」


 自分たちの意図に気づかれたと感じたのか、人型霊の動きが早まった。しかしそれは、焦りを覚えて冷静さを欠いた人間の動きと何ら変わりはない。ヒカルは突進してくる霊を摺り足で避けて、振り向きざまに切りつけた。それでも消えなかったため、もう一太刀加えて、やっと浄化した。


 障害はなくなった。ヒカルは、刀を鞘に収めると、駆け足で骸骨の鎮座する噴水の広場を目指して走り出したのだった。



「あっちでヒカルくんたちの戦いが始まったみたいです」


 住人が避難した建物に身を隠していたアテナが、最上階から戦況を伝えてくる。霊が切り払われれば、そのマナはこちらにも流れてきて、ロロもアテナも戦えるようになれるだろう。


「アテナさん、お体は大丈夫ですか?」


 メリアの問いかけに、アテナは一瞬言葉に詰まった。無理をしていないと言えば嘘になる。精一杯魔法を出そうとするが、盾を出す前に、指先が痺れてきて集中が続かないのだ。それでもアテナは、微笑むことにした。今はヒカルたちを信じて、待つしかない。


「焦れったいな、もう私いけるよ、早くやろう」


 妙にやる気のあるロロが、腰を上げる。彼女の性格上、嫌なことは早く終わらせてしまいたいというのが本音であろう。それを押しとどめるように、ハルシュタインが厳しい口調で遮る。


「魔力が尽きれば、貴女はあの怪物に捕まり、土に還りますよ」


 人形に、死という概念はないだろうが、身体を砕かれ、輝石を失えば、二度と動くことはないはずである。曖昧な存在であるロロの命は、一度マナの循環が狂えば、脆く崩れ去るものであった。しばしの黙考の後、ちぇっ、と舌打ちをしたロロは、また元のように腰を下ろしかけて、ふと顔を上げた。


「おおおっ!? きたきたきた!」


 ヒカルたちによって浄化されたマナが、こちらにも流れてきたのだ。そうなれば、ロロも活躍できるというものだ。


「準備万端! ロロ、行きます!!」


 そう言うなり、ロロは建物を飛び出した。

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