表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
50/231

寄生木

「さぁて、あれが黒魔術師ってヤツ?」


 メリアの腕の中から飛び降りたロロは、取り出した杖で骸骨を指し示した。


「いや、あれは黒魔術師が召喚した……、言わば死霊とでもいうかな、煙より厄介そうな霊体だ」


 先程の挙動を見る限り、あの骸骨は人体をすり抜けつつ、寄生木(やどりぎ)のような悪性のマナを植えつけていくのだ。この攻撃のために、部隊の中には負傷者も増えた、残してきたジェームの魔力転送の負担が増大してしまうことも考慮して、一般の騎士団員たちは全て帰還させた。


「でも、あの怪物は、君を煙の一部として認識するはずだ。ちょっと歩いてきてみてくれる?」


 明らかに嫌そうな顔をしたロロは、しかし文句を言わずにそろそろと歩き出す。やがて人形は、骸骨が手を伸ばせば届く距離にまで足を踏み入れた。しかし、骸骨は置物のように動かない。


「うん、戻ってきていいよ」


 アルジェンタがそう言うか言わないかの内に、ロロは全速力で駆けてきた。相当な恐怖を感じたのであろう、かかないはずの額の汗を拭う仕草をしたロロは、これでいいんでしょう、と目で尋ねた。


「…………おっと、これは予想外」


 骸骨の挙動をつぶさに観察していたアルジェンタは、その眼窩が、一瞬、逃げていくロロに向いていたことに気づいた。恐らく、最初は煙として認識していたものの動きがおかしいということに気づいたのだろう。


「それは、つまりどういうことでしょう?」


 ハルシュタインの疑問に、アルジェンタは困ったような笑いで応じた。


「つまり、あの骸骨は煙と違って、知性、或いは意識があるってこと。黒魔術師の思考を分有しているのか、それとも墓所に眠る人間の意思を移植したのか……」


 どちらにしても、無抵抗の骸骨を、ロロが一方的に叩きのめすということはできなくなったということだ。楽できると思ったのに、と口ごもるアルジェンタを、ロロが睨みつけた。


「それでも、倒せない訳じゃないですもんね。意識があるかないかの違いなら、ヒカルくんの刀も私の防御も効きますし」


 アテナはそう言って朗らかに笑った。しかし、現実はそううまくはいかない。漂う煙や飛び回る霊の影響で、一行の周りのマナの状況はよくない。普段より多くのマナを必要としていることに加え、先程の壁の突破で魔力を消耗したアテナは、いくら力を込めても、十分な強度の盾を作り出せなかった。


 アルジェンタは、この先どうするか、という不安に駆られる面々を見回して、作戦を練り上げた。


「仕方ない、ヒカルくんと僕、それとオーエン。三人で骸骨の周りの霊を切ってマナを浄化、それで命を繋ごう。ハルさんはアテナちゃんのこと守ってあげて。それで、アテナちゃんは……、十分マナが溜まったら魔法を使えるはずだから、防御を頼むよ」


「うぅ〜ん、僕ぁ一応は怪我人なんだけどな」


 頬を掻きながら、オーエンは苦笑する。しかし、この場において最も肉弾戦に長けている人物だ。ヒカルとともに煙の柱を切ってからも、問題なく剣を振るえているし、心配はいらないだろう。


「ちょっとちょっと、私たちはどうすればいいのさ」


 手を高く上げて問いかけるロロに、アルジェンタはにこりと笑って返す。


「君は最終兵器だ。骸骨の周りの霊がいなくなったら、存分に暴れてくれ。ただそれまでは、メリアさんを守っておいてね」


 ロロは合点承知と言わんばかりに、得意気に強く胸を叩いた。



 さて、その後アルジェンタ、ヒカル、オーエンの三人は、散開し、今は市街に身を潜めている。互いに連携が取れる位置関係を保ちながら、霊を誘い出す作戦だ。霊を骸骨からはぎ取ってしまえば、ロロも動きやすいと考えたためのものである。


『路地一本挟んで、霊は僕かヒカルくんのところに来ると思う。オーエンは真ん中の小道で待機してて』


「なるほど、ところで、何で鉱石もないのに通信できてるんですか?」


『それはね、ヒカルくん。僕が頑張って一定の周波数でマナを振動させてるからだよ』


 そんなことまでできるのか、とヒカルは大いに驚いた。伝送鉱石を初めて使った時のような感覚だが、それを鉱石なしで片手間でやってしまうところに、大魔導師の実力の高さを見た。


『それより、霊は見えてる?』


 アルジェンタの言葉に、ヒカルは我に帰る。ヒカルとオーエンにはぼんやりとした輪郭のような霊しか見えていなかったが、攻撃を当てられぬ程ではない。二人は、自信なさ気にではあるが頷いた。


『じゃあ、やりますか!!』


 アルジェンタのかけ声で、作戦は開始された。



 同時刻、王宮のすぐ側で魔術の応酬を繰り返す皇帝と黒魔術師は、戦いの流れが変わってきていることを感じていた。取り分け黒魔術師は、自身が配した煙の変動の機微から、何か大きな動きが、王都入り口の噴水の近くで起こっていることは分かっていた。


「…………ッ!?」


 黒魔術師は、その噴水の近くに、特異なマナを放つ人間の存在を感知した。すなわち、自身の魔術組成と重なる女性――メリアがそこにいると気づいたのだ。


 思わず、身体が動いた。何故、メリアがそこにいるのか、黒魔術師には理解が追いつかなかった。――その理由を確かめるために、彼は噴水への移動を開始する。そこには()()がいるはずだが、この予想外の展開の上では、何が起こるか、起こってしまうか分からない。黒魔術師の仕組んだ術式が、彼の手を離れてしまうのではないか、そんな恐れが、黒魔術師を突き動かしていた。


「……!? 待てっ!」


 イヴァンの制止も聞かず、黒魔術師は噴水に向けて急ぐ。雷の連発で、イヴァンの身体は限界に近かったが、剣を杖代わりに、彼は黒魔術師を追いかけ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ