苦手なものは
「なぁ、もう分かっただろ!? メリアとアイツがどんな関係でも、この事件にメリアは関わってないんだ! 早く帰らせてよ!」
大魔導師の二人に噛みつくロロ、相変わらず可愛げのない人形だわ、とジェームは嘆息した。
「そうはいかないのだわ。貴女たちはあの煙と魔力組成が似ている、つまり、煙との親和性が高いのよ」
良性か悪性かの違いはあれど、マナの作りが似ていれば、煙はメリアやロロを、敵として認識できないのではないかとジェームは考えていた。
「でも、煙にやられてるやつもいっぱいいたぞ。私たちがそんなことして大丈夫なのかよ」
「あら、じゃあ獅子は気が立っていたら、仲間でも牙を剥くかしら?」
危険に巻き込まれるのではないかと感じたロロの反論を、ジェームは一蹴した。経験からいってもこの二人のマナ組成ならば、外敵に対して機械的に処理することしかできない、知能を持たない煙ならば十分騙すことができるだろう。そんな風に考えていたジェームの肩を、誰かが後ろから叩いた。
「……何? 今は忙しくて……、って、アルジェンタ!?」
ジェームが驚くのも無理はない、アルジェンタはヒカルたちにマナを送ることで、手が離せないはずだ。こんなことをしていては、前線の部隊が危機に陥りかねない。
「ちょ、ちょっと、また面倒になったっていうんじゃないてしょうね!?」
「ひどいな、いくら僕でも人を見殺しにはしないよ。……煙の壁だ、マナの転送が妨害された」
先程までは見えていたヒカルたち一行の姿は、壁の向こうに隠れてしまった。黒魔術師は、彼らの思惑を読み取って、逆に利用して閉じ込めたのだろう。このままでは、黒魔術師の思う壺だ。精一杯の力で浄化を行っても、この煙の量では間に合わない。そうすれば、数え切れぬ命が失われる。
「…………どうするつもり?」
「決まってるだろ、城下に行くんだよ」
「駄目よ!」
間髪を入れずに、ジェームに呼び止められたアルジェンタは、ゆっくりと振り返った。いつになく厳しい目をしたジェームは、訥々と言葉を探しながら続ける。
「貴女、だっていつも失敗ばかりじゃない。どうしようもないおっちょこちょいだし……、きっとどこかで間違ってしまう……」
「今度は間違えない。大事なところで的を外したことはないだろう?」
「それでもッ! 今までがそうだったとしても、これからもそうだとは限らないじゃない!」
軽口で応じようとしたアルジェンタは、ジェームの剣幕に気圧された。彼女の気持は分かる。彼女の心を支えてくれる人を、失ってしまうことが怖いのだ。そう考えたアルジェンタは、少し自分を買い被りすぎたか、と心の中で舌を出した。
「お願いだわ、残って頂戴。貴女までどこか遠くに行ってしまっては、きっと、御婆様も悲しまれるわ。それに……」
ジェームはふっと目を開けたとき、アルジェンタとはっきり目が合った。飄々とした彼女の、決意の固さが現れた目に、ジェームは何を言っても無駄なのだと悟った。
「…………いいわよ、貴女が聞く耳を持たないなら、時間の無駄だわ。行きなさい。その代わり、絶対生きて戻ってきて」
ぶっきらぼうに言い放ったジェームは、ふいと目線を逸してしまった。彼女なりの優しさであろう。
「あっ、ありがとうジェーム! 僕、君のそういうところ、大好きだよ!」
「……は、はぁあっ!? やっ、やっぱり私っ、貴女のことが苦手だわ!」
そんな台詞を、ついぞ投げかけられたことのないジェームは、目を白黒させながら頬を膨らませた。
そんな一悶着があって、覚悟を新たにしたアルジェンタは城下に向かって歩き出す。すると、後ろからぎゃあぎゃあと騒ぐ声が追いかけてきた。果たして、それはメリアの歩みに抵抗するロロの叫び声であった。アルジェンタに追いついたメリアは、きっぱりと言った。
「私も連れていってください!」
「ちょっ、アンタ馬鹿なの!?」
気持の高ぶるメリアに対して、ロロは冷静、ではなかったが、慎重であった。そんな人形の口をつまんで、メリアは叫ぶ。
「私たちなら、煙にも対抗できるんですよね? なら私、皆の役に立ちたいです! ジェームさんに助けられた恩もありますし、それに、父に何か言ってやらないと、私の気が済みません!」
ロロは、自らの主人の言葉に頭を抱えた。須らく、ロロもメリアとともに城下に行くことになったようなものだった。
「じゃあいいよ、行くけどさぁ、私たちに何かあったら承知しないかんね!?」
アルジェンタはニコニコ顔で、大丈夫大丈夫、とその約束を肯った。かくして、この三人、或いは二人と一体は、城下に繰り出したのだった。
「でも、私は特に何ともないです。煙、見えてませんけど」
「アンタ、ホントに気楽でいいね……」
煙も霊も、骸骨も見えているロロは、辺りをキョロキョロと見回すメリアの様子に、半ば呆れながら呟いた。因みに、煙や霊が見えていなくても、振れればマナの循環が狂ってしまい、最悪の場合死に至るという事実に変わりはない。
つまり、煙や霊との戦いにおいては、その存在を感知することができ、なおかつ自身は相手に感知されない、ロロが重要となってくるのであった。




