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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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救世主

『今さ…………、無理……って』


「だから、引き返してください!! 罠かもしれません!!」


『……囲まれ…………、無理だ……』


 オーエンの言葉は、大部分が聞こえない。それでも理解しようと耳を澄まして聞くと、どうやら手遅れであるということらしい。絶望感に、カスパーは伝送鉱石を取り落としそうになった。



「さてと、ヤバいな。これ」


 オーエンがそう言いながら、もと来た道を振り返る。道は再び煙の壁によって閉ざされ、徐々に迫ってきている。要は、壁に穴が開いたのは黒魔術師の罠で、一行を誘い込んで確実にしとめるとめの大がかりな仕掛けだったという訳だ。


「どうするべきかな、もう一度壁を壊す力はもうない。それに、大魔導師様からの魔力の転送も途切れてしまったし……」


 いくら大魔導師といえども、城壁の上にいながらあの厚い壁を破ってマナを届ける力はない。皇帝とヒカルたち一行、そしてソフィたちのマナを操るだけで手一杯なのだから。


「迷ってる暇はない、早く噴水に向かいましょう」


 ハルシュタインが剣を構え直して、再び歩き出す。皆もそれにならい、遥かに見える噴水を目指して足を進め始めた。


「でも……、大丈夫かな……」


 心配そうに呟くアテナ。この数日、魔法が急激に上達した彼女は、体内のマナの均衡が崩れており、普段より多くの魔力を必要としている。長時間、マナの供給がなければ、身体に異常をきたしかねない。だから、急ごう。とヒカルが声をかけたが、彼女の顔は優れない。


「だって、わざわざ私たちをここに閉じ込めたんだよ? 何かあるんじゃないかと思って……」


 確かに、アテナの言う通りである。黒魔術師にとって予想外の壁の突破を受けて、急遽一行を閉じ込めたのだとすれば、あまりに悠長に見える。むしろ、自分たちを生かしているのは、何か別の目的があってのことではないのだろうか……。


「…………、それでも、進むしかない……」


 退路は絶たれている。自分たちは、ただただ聖杯の獲得だけを考えていればいい。口を固く結んだヒカルは、歩調を速めた。それからいくらも経たぬ内に、一行は噴水の側までやってきた。



 噴水は、普段ならば大いに賑わっているであろう、王都の入り口に当たる城門を背景として、その堂々とした姿を晒している。荘厳で細かいながらに荒々しいレリーフの施された石造りの噴水は、王都に入る人を出迎え、去る人を見送る、優しき門番のような印象を与えるものだった。


 それが今は、まったく別のものに変じてしまっている。どくどくと血のように赤黒い液体を垂れ流し、くぐもった、地の国の中にあるかのような音を絶えず立てている。周囲には、半透明の霊体が乱舞し、その中央には――。


「ひいぃッ!! が、骸骨だぁァッ!!」


 騎士団員の叫びが、ひどく遠くで聞こえたように感じた。この世のものとは思えぬ()()の姿を見て、気が動転し、混乱して、そのように感じたのかもしれない。


 ()()は確かに骸骨であった。王宮の城壁の高さを優に超える半透明の骸骨が、噴水を、その肋骨の中に入れ込むようにして、鎮座している。


 ヒカルはその骸骨を、黒魔術師が用意した処刑具か拷問具のように感じた。壁を突破された時から、彼はヒカルたちを捻り潰すつもりだったのであろう。どうせ死ぬ運命にあるのだから、通りたくば通れということだ。


 じりじりと間を詰めていくと、骸骨は敵の接近に気づいたのか、軋むような音を立てながら動き出した。筋肉のない身体ながら、動きは素早く、先頭を進む騎士団員たちに、その指先が迫る。彼らは必死に自分を庇おうとしたが、甲斐なかった。青白い指先は男たちの目前まで肉薄し、その頭を砕く軌道を描く。


「うわああぁぁーーッ!!」


 断末魔のような声が響き、彼らの命運は途切れ……、なかった。骸骨の指は身体をすり抜け、石畳の道に沈み込むように埋まっていく。骸骨が霊体であったのが功を奏したのか、生身の人間には、骸骨の攻撃の効果がないように見えた。


 しかし、安心したのも束の間、にわかに彼らが苦しみ始めた。あの苦悶の表情は、煙に侵された人間が浮かべていたのと同じものだった。つまりあの骸骨の攻撃は、煙と同じ特性を持ち、そして遥かに攻撃性の強いものであるということだ。


「どっ、どうしたっていうんだ、一体何が……」


 急な展開に困惑するオーエン、だが無理もない。煙の壁を突破するために、体力的、魔力的に大きな犠牲を払いながらここまで来た先に待ち受けていたのが、煙の壁と比べても、圧倒的に攻撃的で、凶暴な怪物であったのだから、さもありなん、である。


「倒せるのか……、コイツを……」


 ヒカルの不安は、周りの人々に伝播していく。煙の、直線的な動きと違い、この骸骨はまるで意思があるかのような挙動である。まるで死人の怨念を、霊体に移植したかのように。そしてその遺恨を、目の前にいる外敵でもって晴らさんと、骸骨は再び腕を持ち上げて攻撃態勢に入る。最前列の騎士団員たちに、強い緊張が走る。


「ハルさん、どうしよう?」


 オーエンの問いかけに、返答はなかった。身体を緊張のあまりに硬直させたハルシュタインは、目だけをしきりに動かしては、打開策を探る。しかし、煙の壁に囲まれ、まさに八方塞がりである。


(くそっ、こんな時、団長ならどうする……?)


 オーエンは、目線を骸骨に移し、ひたすらに思考する。まだ戦える内に、この怪物を片づけなければならない。しかし、方法はまったく見えてこない。この状況を、百戦錬磨の騎士団長ならばどう捉えるか。彼ならば、一太刀で骸骨を切り伏せるかもしれない。或いは、彼でも敵わなかったとしたら……。想像は、どんどんと悪い方向へと走る。


 誰もが、救世主の到来を願った。覆い被さるように振るわれる骸骨の腕に、対抗できるかも分からぬ剣を掲げて、皆が皆、奇跡を信じた――――。



「ふぅん、すごい魔力量だね……。僕の半分、いや、三分の一位かな?」


 頭上を、何かが高速で駆け抜けたような一陣の風が吹き抜け、直後に強い衝撃が襲う。だが、それを諸に食らったのは、骸骨の方だった。思わぬ攻撃に、骸骨はたじろぐ。骨が噴水に当たり、がしゃがしゃと耳障りな音が響く。


 あの、少し低い女性の声に、ヒカルもアテナも聞き覚えがあった。飄々とした自由人のように振る舞っているが、激情を胸の内に飼い慣らしている人物。面倒くさがりではあるが、やる時にはやる大魔導師。二人は彼女のことを、先日の激しい戦いとともに記憶していた。


「ワルハラ帝国の金の大魔導師、アルジェンタ・カルム。皆の危機に駆けつけた!! さぁ君たち、感謝してくれ!!」


 突如現れた救世主、アルジェンタは、快い笑顔でそう叫んだのであった。

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