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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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もう一つの戦争

「しかしまぁ、また妙ちきりんな取り合わせだな」


 倉に集められた面々を見回して、エルヴェは感想を述べる。確かに、共通点も面識もないような集まりである、誰もが、何故自分がここにいるのか分かっていないのだ。


「えぇ、まるで王都で戦争でも始めるみたい」


 ソフィの言葉に呼応するかのように、倉の扉が開いた。暗い倉の中に、明るい外光が射し込む。そこには五人の人影が立っていた。


「ソフィ、王都での戦争とは穏やかじゃないが……、まぁ、そんなところだ」


 倉に歩み入る人物、皇帝、イヴァンは、苦笑いしながら言った。



「さて、君たちも分かっているとは思うが、黒魔術の儀式によって、王都が黒い煙のようなマナに取り囲まれている。この危機に対抗するために、君たちを招集させてもらった」


 集められた面々は、確かに黒魔術師を相手にするために必要な人材であった。武器の取引や管理を司るエルヴェ、ソフィ。実動部隊となる騎士団を統轄するオーエン。全体の作戦の指揮にあたるショーン。鳥の目として城下の状況を観測するカスパー。魔術の専門家であるジェーム、アルジェンタ……。


「そして、ヒカル、アテナの二人。君たちにもこの危機に立ち向かってほしいんだ」


 ヒカルは、とうに覚悟を決めていた。昨日のアルジェンタとの抗争の際に、手の届かない者さえも救ってみせると啖呵を切ってしまっていたからだ。そしてその覚悟は、アテナも持ち合わせていた。二人が力強く頷く様子を、イヴァンは頼もし気に見つめていた。もう一度ぐるりと倉を見回したイヴァンは、じゃあよろしく、と言い残して倉を去っていった。



「さて、どうするべきかな……」


 最年長のエルヴェが、議論の口火を切る。だが、悠長に話している暇はない、今こうしている間にも、煙は王都の上空を覆い尽くしながら、徐々に内側へと広がってきている。


「とりあえず、時間の制約がありそうですね。短期決戦となりましょうか……、大魔導師のお二方、どの位で我々は呑み込まれますか」


 ショーンの言葉を受けて、ジェームは天窓を見上げた。黒い煙はその天窓を、黒く塗り潰していくところであった。


「何もしなければ、ざっと半日かしらね」


 半日……、やはり余裕はない。それまでに黒魔術師を打ち倒し、術式を破壊せねばなるまい。その困難さはいかばかりか。


 ヒカルは、昨日の行動を振り返っていた。もし、墓所でアルジェンタを止めていなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。この選択肢は、果たして正しかったのか……。


「少年、何を思い詰めているの?」


 机の下の方から、声を潜めて聞く者がいる。桃髪の幼女、ソフィである。彼女は長いツインテールと、垂れ下がった袖口を引き摺るようにしながら、ヒカルの元にやってきた。


「何か、すごい失敗をしたような気がして……」


 失敗という言葉で片づけられないようなことではあるのだが、ヒカルはアルジェンタを直視できなかった。彼女は心の奥底で、いまだに納得していないのだろうと思っていたからだ。机の下に潜り込ませた指を、組んでは離しを繰り返すヒカルに、ソフィは軽蔑するような目線をくれた。


「失敗ね……、それは取り返せないものじゃないでしょ。まだ失敗してないんだから」


 ヒカルは、それはそうだけど、と言いかけて、はたと気づいた。まだ決定的な失敗ではない、黒魔術師の書いたシナリオから外すことはできるはずである。変えるのだ、諦めてはいけない。諦めるなどという選択肢は、初めからなかったのだ。


「あのっ……!」


 ヒカルの発した声は、彼が思ったよりも大きかった。卓の面々の注目が、一気に集まる。


「ジェームさん、アルジェンタさん、あの黒い煙は、払うことは可能なんですか?」


 鉄乙女の如くに、王都の人々を噛みちぎろうとする黒い煙。しかし、それを切り捨てることができれば、外に脱出することができる。助けを呼んで、より有利に戦うこともできる。ただの煙ではないにしても、何らかの方法で打ち払えれば……。


「それは無理だわ」


 直後、ジェームはその可能性を否定した。ヒカルが二の句を継ぐより先に、ジェームは畳みかける。


「エネルギー体のマナでできた煙は、物理攻撃は効かないし、魔法攻撃は全て吸収されてしまう。大気中のマナを結合して取り込むことで、例え穴が空いたとしても、即座に塞いでしまう。そうよね、カスパー」


 カスパーの千里眼で観測した結果であろう、彼は青ざめた表情でそれを肯った。煙を相手にしているので剣では切れず、魔法は煙に干渉できるものの、すぐに取り込まれる。おまけに大魔導師のような魔力量の多い人間が近づくと、その魔力に反応して襲いかかってくるという。八方塞がりのように思えた。


「魔法具ならどうなんです?」


「大打撃という訳にはいかないね、なんかいい作戦ないの?」


「煙相手では……、さしずめ、厄介な包囲戦ということかな」


「風を起こせば飛ばせないかな?」


「……貴方、真面目にやるべきなのだわ」


 会議は、堂々巡りである。光を見失いかけていた人々の中、押し黙っていたイーリスが口を開いた。


「あの、テロメアの聖杯を使うのはどうでしょうか……」

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