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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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大魔導師の小手先

 黙考の最中、いきなりアテナに突き飛ばされたヒカルは、受け身を取り損なって、派手に土煙を上げて転んだ。恐らくは、魔法による攻撃が放たれて、その軌道の延長上にヒカルがいたのだろう。擦りむいた肘からは血が出ていたが、もし直撃していれば、大怪我を負っていたところである。礼を言いたかったが、そんな暇はない。


「できることなら、僕は君たちを傷つけたくはないんだ。頼む、多くの人を救うためだ」


 頭のどこかでは、彼女の言い分は正しい部分もあるのだと分かっているのだが、それを承服することを、身体の奥底、記憶の奥底の何かが拒むのだ。そしてそれは、相手も同じことだろう。


 ヒカルは、ちらりとアテナの方を見た。アテナは、再び攻撃が飛んでくるのではないかと身構えている。だが、彼女が本来の力を発揮すれば、その努力も無駄となるだろう。


 アルジェンタの背後にいる騎士団員たちは、逃げろ、もしくは自分の考えは捨てろと、目で訴えてくる。締め上げられて、声を出すことすら困難なのかもしれない。すなわち作戦は、短期決戦志向となる。速攻によって、相手が大魔導師としての能力を開放する前に、決着をつけねばなるまい。


「アテナ、この墓石に名を刻まれた人の家族をこれ以上悲しませずに、事件を解決する、そんな結末を迎えること、俺たちにできるのかな……」


 アテナは、真剣な表情を崩さなかった。そのまま、力強く首を縦に振った。


「絶対できるはず……、その方法を残さない程、神様は意地悪じゃないもの」


 それこそ、アルジェンタのような人間から見れば、不合理の塊のような台詞だったかもしれない。しかし、ヒカルはその言葉に、僅かに残された可能性でも、信じて疑わない、アテナの芯の強さを見た。


「理想論を語るのは自由だ、だけど、実行するのとは話は別だ。多くの血が流れる結果を招くことになっても……」


「させない!! そんなことには、絶対に!!」


 そして、アテナの意志はヒカルにも伝播した。説明のしようもない、確信めいたそれが、ヒカルを突き動かしていた。口に出してみて、本当にこれが自分の言葉かとヒカルは耳を疑ったが、正直を突き詰めた結果だった。


 鯉口を切ると、アルジェンタの表情が変わった。そしてアテナも、小さく声を上げる。どうしたのかと、傍らのアテナに目で問うと、この刀から、とてつもない魔力を感じるのだと告げられた。


(そういえば、ショーンさんも凄まじい気配がすると言ってたな。あの人は魔法を使えないそうだけど、何かを感じとったんだろう)


 ヒカルは長く息を吐き、刀を構える。アルジェンタもまた、ヒカルが剣術を習っていたと知っているので、一歩引いて身構え、攻撃に備える。


「アルジェンタさん、すごい数の剣を持ってる……」


 アテナが、魔法によって生成された武器の情報を耳打ちする。幸いなことにヒカルも、この刀を持っているからか、その剣の概形がぼんやりと見えてきた。アルジェンタは、背後に十数個の剣を浮遊させ、ヒカルに正対しているのだった。


「見えてきた。……この刀もあるし、一か八か、やってみる」


 この刀は、人を傷つけるためのものではない。人を守るためのものである。……ここでアルジェンタを切っている場合ではない、同士打ちは避けるべきなのであるが、勝負がつかない限りは、彼女も止まらないだろう。ヒカルは少し考えて、刀の握りを少し変えた。



 ヒカルが上体を倒すと同時に、アルジェンタの腕が振るわれ、彼女の剣の内の一本が放たれる。剣は大きく弧を描かきながら、ヒカルを目指す。しかしヒカルは、その軌道を見たかっただけだ。身体を少し引くと、腹の辺りを剣が掠めた。次に一歩前に出ると、扇状の軌跡をつけて、剣が地面に突き立ち、霧消した。


(軌道は半円、剣筋は読み難い訳じゃない)


 それが彼女の手癖なのか、二度三度と試したヒカルは、覚悟を決めた。


 大きく踏み出して、アルジェンタとの距離を詰める。いきなりの接近に慌てたアルジェンタは、一気に数本分の剣を攻撃に当てた。だがしかし、それらの軌道は変わらず、全て同じ一点を目指して進んでいくものだった。左に飛べば、それら全てを回避できる。


「くそぅ……」


 アルジェンタは浮遊する剣を前面に突き出し、ヒカルの刀を受け止める。それを読んでいたヒカルは身を翻し、砂を掴み上げて目潰しを狙う。流石にこれはかわされたが、アルジェンタに、徐々に焦りが見えてきた。


 とはいえ、まだアルジェンタの剣はいくつもある。これらを出鱈目に打ち出されたら、必ず誰かに当たってしまう。慣れれば避けやすい剣も、初見で食らわないようにするのは難しかろう。


 その剣にのみ気をとられていたせいであろう。アルジェンタが何かしらの呪文を唱えたという重要な事実を、ヒカルは見逃した。彼が反応するかしないかの内に、背後の土が盛り上がった。


「危ない!!」


 ヒカルは、振り向きざまの視界の端に、無数の鎖と鋭い剣が、まるで蛇のように鎌首をもたげて、自身に襲いかかろうとしているのを見た。万事休す、刀を構え直す時間もないヒカルは、やけにゆっくりと時間が流れていくのを感じていた。

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