表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
32/231

兆し

 ヒカル、アテナ、ジャックスとガリエノにアルジェンタを加えた五人は、詰所を出て墓所を目指した。前回の調査で発見した墓石の彫り込みは、参謀本部のショーンによって解読され、失踪事件に関係があるということは、ほぼ確定であった。


「ですから、アルジェンタさんが墓所に行けば、何か分かるんじゃないかと思って」


 先頭を歩くヒカルが、後ろのアルジェンタに呼びかける。しかし、返事は返ってこない。聞いているのかと振り返ると――。


「……何故いない!?」


 ヒカルの叫びに、道行く人が何事かと足を止める。だが、そんなことに気を取られている場合ではなかった。一番後ろを歩いていたために、消えたことに気がつかなかったのか、いや、それには少し無理がある。


「多分、気配遮断の魔法具を使ったんっすよ!」


 魔法具、ヒカルには、聞き慣れない単語であった。ジャックスが言うには、魔力鉱石等を用いた、様々な効果を持つ道具の総称であるらしい。


「滅茶苦茶だな……、一体どこに行ったんだ」


「ヒカル、あそこ……」


 アテナの指差す方、小洒落たカフェの中から大きなざわめきが聞こえてくる。確かにその店の雰囲気には似合わない光景ではあるのだが――。アテナは、自信なさげに言葉を紡ぐ。


「何か、光ってる影みたいなのが見えるんだけど……」


 光る人影ということか、しかしヒカルには、少し薄暗い店内に、外に漏れるような強い明かりを見とめることができなかった。


「ヒカル、見えてないの? どうして……」


 その答えに二人が辿り着く前に、尋ね人のアルジェンタが、件の店から姿を現したのだった。これは勘だとか、本能といった類いのものではないと、ヒカルは直感した。


 さて、皆の心配を他所に、アルジェンタは飄々として歩き出す。どうやら逃げ出したという訳ではなく、腹が減ったのでふらりと店に立ち寄ったということらしかった。


「あっ、これウマいな。よし、今度行く時はもう少し大きいのにしよう」


 彼女の性格を知ってしまったからだろう、最早つっこむ気すら起きなかった。そして今のヒカルには、それ以上に確かめておきたいことがあったのだ。


「あの、アテナがさっきの店の中に光る人影みたいなのが見えたって言ってたんですけど……」


 薄皮に包まれたクリームを頬張り、口の周りを白くしたアルジェンタは、それはいい兆候だね、とどもりながら言った。


「多分、僕の放つマナの光が見えたんだろうね。白けてたでしょ? 僕、金の大魔導師だから」


 アテナは頷いた。魔法使いの放つマナを感受できたということは、能力の元となる輝石が成長したということ。つまり、能力の開花に一歩近づいたということだ。皇帝、イヴァンは、ヒカルとアテナを共に行動させることで、能力の開花を狙っていたのだが、それが実ったか。或いは、大魔導師の二人の登場に触発されたか。ともかくとして、アテナは大きな一歩を踏み出した訳だ。


「それなら、さっきジェームさんが言ってた煙も見えるんじゃないか?」


 アルジェンタは目を細め、建物の群れの上に広がる空を見回す。そして墓所の上空に、細い煙がたなびいているのを見つけ、その辺りを指差す。


「あそこにあるんだけど、見えるかい?」


 方角的にそこにあるのは分かるのだが、ヒカルや騎士団員たちに見えるのは、何の変哲もない青い空だった。一方アテナには、大魔導師の見る煙程に濃くはないが、影のように薄い筋が、空に伸びていく様子が見えたようだった。


「面白いね。君は魔力組成も丁度いいし、もしかしたら五つの属性、全部の魔法を使えるようになるかもしれないね」


 アルジェンタは、アテナの胸元、身体の奥深くにあるであろう輝石の辺りをまじまじと見ながら、そう呟いた。彼女はアテナに、五属性全ての魔法を使える人間は近衛兵団にいるから、今度紹介してあげるよ、とこっそりと耳打ちした。



 さて、寄り道を挟んだために時間はかかったものの、一行は墓所に到着した。以前と同じように、虫の気配すらもしない、閑静な場所であった。しかし、アルジェンタは違和感を抱いたようだった。


「うーん、いつもよりマナが薄いな……、黒魔術に使われたのかもしれないね」


 アルジェンタはそう言って、草木の末端部を観察する。末枯れの雑草を摘み取っては、懐の鉱石を取り出して、翳したり、擦ったりと、様々なことを試した。そうしてアルジェンタは、この草木の枯死が黒魔術の影響であるのだと断定した。


「黒魔術師は、この墓所のマナも利用したのかもしれないな……」


 金の大魔導師は、ぼんやりと見解を述べた。それにアテナが、不思議そうに質問する。


「えっと、それならジェームさんが言ってた、鉱石を運ぶ必要がなくなっちゃうじゃないですか」


 アルジェンタは、そんなこと言ってたのか、と意外そうな顔をした。アテナの疑問は的を射ていたらしい。


「それでも、話を聞く限り、その二人組は黒魔術なんてできないよ。誤解がないように言っておくけど、五属性のマナはいたるところにあるんだ。ただ、それを使えるかどうかは、本人の適正次第ってことさ」


 この墓所には、五属性全てのマナが湧出している。アルジェンタは、鉱石運搬に関する議論は、本質的に必要ないものだと結論づけた。恐らくジェームは、ハルシュタインを言いくるめて、無実の二人を早く開放したかったのだろうと、彼女は推察した。


「まぁ、あれで結構優しいんだ。僕には全然懐いてないけど」


 アルジェンタは、自嘲気味に笑った。それでも、自身の性格を改めるつもりはなかったようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ