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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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苦手な部類

「なんとか丸く収まってよかった。一時はどうなるかと思ったけど……」


 独特の緊張感から開放されたヒカルは、安堵のため息を漏らした。同時に、自分たちの持ち込んだ証拠のせいで、メリアとロロを巻き込んでしまったことを反省していた。


「ホントに……、ジェームさんと、ハルシュタインさんでしたっけ。その、お二人の仲って……」


 アテナは、躊躇いがちに二人に問うと、両者は顔を見合わせ、直後に何かが弾けたように笑い出した。目をじっと見つめるのが、少し気恥ずかしかったのかもしれない。


「ふふふっ、ごめんなさい。でも私たち、似た者同士かもしれないのだわ」


「高圧的で気が強いところもですかね」


 どうやら、互いに意見をぶつかり合わせたことが、かえって上手く作用したらしい。指導者気質で責任感が強いことを始めとして、二人は共通点が多かったのである。


「それで、お互い譲らなかったんですね。似た者同士は、よく好敵手になるって言うですもんね」


 アテナの笑みに、場の面々の凝り固まった心も解きほぐされていく。大団円でこの小さな騒動は収束した。しかし、それはまた新たな騒動の幕開けに過ぎなかったが――。



 ジェームが入ってきた時と同じように、いや、それ以上に激しく音を立ててドアが開いた。同座する面々の注目を浴びているのにも関わらず、部屋に入ってきた人物はまったく動じる様子を見せない。その人物は、自分に注がれる視線の中からジェームのものを見つけると、いきなり飛びついた。体勢を崩したジェームは、その人物とともにもんどり打って倒れる。


「ジェームぅぅ!! 僕はすごく心配したんだぞおぅ!! いきなり鉱山からいなくなったから!!」


「あぁぁ……、いつまで経っても慣れない、やっぱり貴女、苦手な部類の人間だわ」


 自分のことを僕と呼ぶ、背の高い女性が、ジェームに頬擦りをする。力で劣るジェームは、特に抵抗することもなく、なされるがままにされている。その様子は、ほとんど襲っているといっていいかもしれないが、目の前で繰り広げられているこの襲撃に呆気に取られて、誰もそれを止めることはできなかった。


「ジェームさん、この人は一体……」


 ヒカルがおずおずと問うと、ジェームは頬の皮を左右に引き伸ばされながらも答えた。


「これはアルジェンタ・カルム、私と同じ大魔導師なのだわ」


 くすんだ銀髪を大きく揺らし、アルジェンタは頷いた。ヒカルは大魔導師の二人を見比べて、大魔導師というのは、こんな異質な人間の集まりなのだろうかと考えてしまった。そしてその直後、その考えを読まれたかのように、アルジェンタと目が合った。


「キミ、もしかして何か失礼なこと考えてないかい?」


 その鋭さに、ヒカルは舌を巻いた。ジェームは一目でヒカルやアテナの能力の状態を判断したが、彼女は感情や意識までも読み取ったのか、それとも、思考がマナに影響を及ぼしたりすることがあって、それに気づいたのだろうか。いずれにしても、あまり深く考えない方がよさそうだと、気を逸しておくことにした。


「それにしても貴女、随分と早く帰ってきたわね。他の大魔導師たちはどこに?」


 ジェームがふと思い出したかのように尋ねると、アルジェンタはあっけらかんとした態度で言った。


「まだ鉱山だよ」


「……じゃあ、貴女一人で帰ってきたの?」


 驚愕の表情を浮かべたジェームに、アルジェンタは、元はといえば君のせいなんだよ、と応える。


「君がいなくなったと思って確認を取ったら、ゲレインに戻ったと聞いてね。一人で迷子になるといけないと思って、すぐに飛竜で飛んで帰ってきたんだ」


 そうして胸を張るアルジェンタに、唖然とするジェームだったが、やがて諦めたように長い嘆息をした。


「それじゃ、貴女が迷子じゃない。だいたい全部、調査が面倒になったから帰りたいがために吐いた嘘でしょう?」


 アルジェンタは、バレたか、と舌を出した。これまでの彼女を見るに、相当にずぼらでいい加減な人間と見える。確かにジェームやハルシュタインとは真逆の人柄である。



「あっそー、帰ってきてすぐに事件解決したんだ。流石ジェームだね。お婆様も鼻高々だと思うよ」


「ふ、ふん。まったく貴女は太鼓持なんだから……」


 アルジェンタの希望に応えて、これまでの経緯を説明すると、彼女はさも感心したという風で、ジェームを褒め称える。ジェームも、それを満更でもない様子で受け取る。だが、アルジェンタの褒めそやしが終わると、今度はジェームが攻勢をかける番であった。


「…………ともかく、私はハルシュタインに色々と教授したり、ここに持ち込まれる問題に対処しないといけないから、貴女は事件の調査を手伝ってあげて頂戴」


「あっ、そうなるかぁ。……はい、善処します」


 いつまでも詰所にいる訳にはいかない、きびきびと指示を出すジェームの切り替えの速さに、なんとか機嫌をとって、面倒な事から逃れようとしていたアルジェンタは、なす術がなかったのであった。

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