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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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土の大魔導師

「……お邪魔するわよ」


 そう言いながら、女性が部屋に入ってきた。服装から見るに、明らかに騎士団の人間ではない童女、短いツインテールと丸い頬、ぱっちりと開かれた目が、幼さを際立たせている。この一見何の変哲もない童女の登場にハルシュタインの表情が固まった。


「何ですか、大魔導師様。ここは貴女のような貴種の方が来るような場所ではございませんが」


 大魔導師、その単語には、ヒカルも聞き覚えがあった。皇帝を始めとして、この国の人々は、ヒカルやアテナの魔力量を、大魔導師級だと評していたからである。しかし、この童女からは、そのような実力を有する気配は感じられなかった。


 彼女は名をジェームといった。そして自分が、ワルハラで新たに見つかった大規模な魔力鉱石の鉱床の調査のために東方に出向いていたものの、自身の土属性の鉱石が見つからなかったために、先んじて帰ってきてしまったのだと説明した。その後、皇帝に謁見し、ヒカルとアテナのことを聞いたという。


「確かに、魔力量は桁違いだけど、能力が開花してない以上、ただの人間と変わらない。それに、魔法も使えないみたいだし、平均以下かもしれないのだわ」


 二人を一瞥したジェームは、そう断言した。平均以下とまで言われてしまったヒカルだが、別段腹が立った訳ではない。むしろ、見ただけでそこまで分かるのかと、感心していた。


 大魔導師の突然の登場に、皆が皆、彼女に注目する。そんな様子を見ていたロロが、同座する面々の顔を見上げながら吠えた。


「ちょっとアンタたち、私のこと忘れてない!?」


 大魔導師にとっても、生き人形は珍しいものであったらしく、しゃがんで目を合わせる。童女の顔が迫り、ロロは気圧された。


「ふぅん、魔法が使えるのね、お前は。……何故縛られているのかしら?」


「実は、かくかく云々で……」


 今更の質問に、メリアは真摯に、ロロが幽霊を見たと言ったところから、先程の捕物劇まで細かく答えた。自分たちが無実であることを切に訴えたのだ。そしてそれは、ジェームにはっきりと伝わったようだ。


「そう、……ねぇ、ハルシュタイン」


 大魔導師、ジェームに名を呼ばれ、ハルシュタインは身を固くした。一体彼女は、何を言い出すのだろうか。ジェームはゆっくりと口を開いた。


「貴女、頭が回っていないのではなくて?」



 暴言の類いの言葉だった。指摘というより、嘲りに近い響きの言葉に、ハルシュタインの感情はにわかに沸騰した。といっても、それは表には出てこない、内面に怒りを圧し殺しながら、ハルシュタインはゆっくりと言葉を選びながら対抗する。


「…………そうですか。では具体的に、私の頭のどこが回っていないとおっしゃるのですか?」


 握られた拳の内側では、爪が掌に食い込まんばかりになっているのだろう。隆起した血管を見止めたヒカルは、ハルシュタインの心情を推察しながら、この嵐に巻き込まれないように、静かに成り行きを見守る。しかし、ジェームの紡ぐ言葉は、一つ一つが大きな風となって、嵐をさらに強めていく。


「そうねぇ……、一言でいうと杜撰だわ。魔法の基礎すらまともに考えていない人間が、黒魔術絡みの事件を解決しようとして、失敗している……。それとも貴女は、剣を習うために青物屋に行くのかしら?」


 あくまでジェームは挑発的だった。いや、これが彼女の素の状態なのかもしれないが。ともかく、魔法のことは魔法使いに聞く方がいいということらしい。


「では、お聞かせ願えますか、大魔導師様の見立てを」


 ハルシュタインの言葉を、待ってましたと言わんばかりに、ジェームは人差し指を立てて、自説を語り出したのだった。



「まず前提から入りましょう。そこの婦人、名は?」


 縛られた状態のメリアは、自分の名を名乗った。それに続いて、聞かれた訳ではないが、ロロも名乗りを上げた。それぞれの名前を口内で復唱したジェームは、次の質問をする。


「ではメリア、貴女は魔法が使えないようだけど、過去には使えたのではなくて?」


 メリアは、驚いたように頷いた。確かに彼女は、つい数年前まで魔法が使えたのだが、ある時期を境に、まったく使えなくなってしまったのだ。丁度、ロロを作った時から――。


「……それで、貴女おかしいとは思わなかったの? 琺瑯の目の乙女(コッペリア)が動き出すなんて、普通はあり得ないでしょう」


 特徴的な言い回しが気にはなったが、メリアは一応頷いた。


「私の家は代々人形師で、一族の中には、まるで生きてるみたいな人形を作る人もいたので……、たまたま魔法を代償に、上手く作ったんだとばっかり思ってました」


 そんな訳ないでしょう、とジェームは一蹴する。特殊な背景があったにせよ、人形が生きているというのは、あまりに異常だ。当人が魔法を使えないことも考えると、事情はさらに複雑になってくる。


「恐らく、彼女は元能力者、人形に魂を吹き込む輝石を有していたのだと思うわ。製作の過程でマナが徐々に移動していった。そしてその輝石は、ロロの完成と同時にロロの体内に再形成されて、人形を動かす力となっている……。こんなところかしらね」


「それで、それが一体何だっていうんです」


 ハルシュタインが、焦れったく思って身を乗り出して尋ねる。ジェームはその様子にため息をつくと、弁護の続きを語り出した。

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