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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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人形店の秘密

 ドアが開き、けして広くない部屋に五人の人間がすし詰めになる。騎士団員に間近で睨まれたメリアは、震え上がった。その様子を、ロロは寝台から観察する。


(メリアには見えてないだろうけど、私は子ども二人のが怖いよ……。何あれ、バケモンじゃん)


 異様な魔力を放つ少年少女を、どう倒すか、というか自分たちに倒せるのか。彼らは、失踪事件に関わっている可能性が高い、つまり、何人もの人を消してきているということだ。魔法の使えないメリアと微力な自分では、到底逆らい得ない。


(ま、微力なりに考えてやってみるか)



 メリアを追い詰めたと思っていた四人は、突如として彼女の背後の寝台の上のシーツが捲れ上がったので、そこに目を奪われた。しかし、打ち合わせなしの挙動には、メリアも驚いていたが。舞い上がる布をポカンと眺めるメリアに、ロロが発破をかける。


「何ぼさっとしてんの!? こいつら失踪事件の黒幕なんだよ!?」


 空中のシーツが、突然軌道を変えて、前に立つ騎士団員たちを襲う。咄嗟に対応できなかった二人は、視界を遮られたために、狭い室内で派手に転んで気を失った。


「よし、逃げるよ!」


「う、うん!」


 ロロは、倒れた二人を踏み台に、戸口を目指す。しかし、そこにヒカルが立ち塞がった。彼に自覚はないものの、凄まじい魔力を放つ男に、思わずロロはたじろいだ。それでも精一杯の虚勢で、声を張り上げて威嚇する。


「どけよ!!」


 しかし、ヒカルの表情は冴えない。先程のハルシュタインとの演武に比べると、締まりがないのだ。ヒカルは、ロロのために目線を下げながら、警戒こそ解かないものの、さも不思議そうに言った。


「人形が、動いてる……?」



 ロロは、誇らしげに左手の人差し指を伸ばした。その指は、人間のような素肌ではなく、球状関節の目立つ粘土質であった。


「そうよ! メリアによって作られた最高峰の人形(ドール)、それが私よッ!!」


 ロロはそう言い放って、右手に握った杖に精神を集中させる。杖先が熱を帯び、部屋のマナが集合する。


「ヒカルっ! 魔法がくる!」


 アテナの叫びに、ヒカルは歯噛みした。――魔法。ヒカルが視認できないために、彼の弱点の一つとなっているものである。刀を抜こうかとも思ったが、狭い部屋ではそれも叶わず、ロロが何か唱えると同時に、不可視の衝撃とともに壁に叩きつけられた。肺の空気が一気に押し出され、声にならない声が出る。口の中で、どろりとした血の味がする。勝てない、ヒカルはそう判断した。


「逃げろっ、アテナ!」


「で、でも、血が……」


 アテナがすぐには(うけが)わないだろうということは、頭が回っていないヒカルにも簡単に想像できた。人を動かすためには、勝ちの目につながるような、合理的な理由が必要なのだ。


「アテナしかいないんだ。助けを呼んできてくれ……」


 苦し気に絞り出されたヒカルの言葉に、アテナもようやく頷いた。アテナが部屋を出たのを確認したロロは、メリアに鋭く言った。


「私は目立たないよう屋根伝いに逃げるから、いつものお店で合流するよ」


「分かった、でも、この人たちは……」


「放っとくよそんなもん。……後でしょっ引いてもらおう」


 そう言いながら、ロロが小窓の枠に足をかけて、外に出ようとする。メリアも、部屋の中で倒れる三人の男を踏まないように、気をつけてドアを目指した――。



「んで、すぐやられちゃったんだ……」


「何だよ、メリアだってソッコーで捕まったんじゃん」


 ここは騎士団の詰所。捕縛されたメリアとロロが、関係者たちに取り囲まれている。メリアは、ヒカルが起き上がって押し倒したために、ロロは、アテナが靴を投げて屋根から落としたために、逃亡することは叶わなかった。


「でも、アテナすごいよ。魔法使いの人形を捕まえるなんて。……本当に怪我してない?」


「うん、ヒカルのことがやっぱり心配だったから、ちょっと立ち止っちゃった。でも、そこでロロさんの声が聞こえて……」


 ヒカルの怪我も軽く、アテナも危なげなく、厄介な魔法を使うロロを捕まえられた。……ジャックスとガリエノは、不甲斐ないとハルシュタインに罵られていたが。ともかく、ヒカルたちは見事、失踪事件の容疑者を逮捕したのだった。


「さて、何か申し開きは?」


「私たちじゃないよ! こいつらが墓所に行くところ見たもん!」


 ハルシュタインの尋問に、ロロが吠える。しかし、リボンという物証がある以上、彼女たちは不利であった。そのことを自覚している二人だったが、少なくとも自分たちが事件の犯人ではないことを知っていたために、引き下がることはできない。


「墓所に行く理由はいくらでもあります。それに、騎士団員が訪ねた時に、逃げ出そうとしたそうですね」


「それは……、あの二人が事件の犯人だと思ったから、怖くて……」


 そうは言うものの、彼女の行動は、彼女の推測に依るものなのだ。客観的に見ても、非があるのは彼女たちであった。このままでは、彼女たちが犯人として処罰されてしまう――。


 その時、破滅的な運命を変える人物が、足音を高らかに響かせながら、騎士団の詰所を訪れたのだった。

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