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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第一章・死霊編
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墓所の調査

 話は少し遡る。


「ねぇヒカル、墓所ってどこにあるの?」


「多分、地図によるとこっちだと思うんだけど……」


 噂のせいであろう、城下の人通りは少なくなっているようだ。閑散とした町並みの中、石畳の道を、猫が我が物顔で闊歩する。そんな様子を横目に、ヒカルとアテナは墓所を目指していた。王都ゲレインの北東にある墓所は、その入り口の藪からして、人を立ち入らせないような隔世の感があった。



 静かだ……。小道を行く二人には、木々の葉のざわめき以外に何も聞こえない。そのざわめきが、自分たち外敵の侵入に逆らっているかのようである。或いは自分たちは、招かれざる客ということか。


「だけど、何もないな。静かすぎる……」


 虫も小動物もいない、『無』の怪物が横たわるかのような空間は、ワルハラ帝国の首都の一区画としては、あまりに異質だった。しかし、アテナはまったく違った感覚を抱いていたようだった。


「……違う。きっと、マナがたくさんあるんだよ」


 アテナは、虚空を見つめながら、そう呟いた。アテナが近衛兵団の詰所を訪れた時に聞いたそうだが、この墓所は地下からマナが吹き出している泉のような場所であり、古来から異界、冥界への入り口として、人々に崇拝されてきたのだという。


「この墓所全体に、マナが満ちてるんだって……。そのマナが濃すぎるから、動物たちが寄りつかないんだと思う」


 マナが充満しているのか。そう考えると、この清浄な空気にも納得がいく。深呼吸をすると、穢れのない空気が肺に入ってきて、マナが全身を巡っていくのだろう。そう分かってからは、心なしか身体が軽いような気がする。



 さて、墓石の乱立する区画に来てはみたものの、特に変わったところはない。よく手入れされて、花が生けてある墓もあれば、人が立ち入らず、荒れ放題となった墓もある。――ヒカルは、墓所の奥の方にある墓石のところで、何か大きなものが動いたのを見止めた。


「……アテナ、誰かいるみたいなんだけど」


 その声を聞いて、怯えの色がアテナの瞳に射す。人目のつかない墓所の最奥で、一体何をしているのか……。事件のことは噂になっているために、人が寄りつくとも思えず、事件に何らかの関係があるのでは、という予感が、二人の脳髄をかすめた。


「どうしよう……、助けを呼べるかな?」


 ヒカルは首を振った。ここで叫んでも、わざわざ墓所に助けに来るようなお人好しがいるとは思えない。声を出せば、あの人間に気づかれてしまう。脳内の天秤は、静観に傾いた。



(うーん、二人組の能力者……、じゃないな。まだ開花してないから。極度の緊張状態、そして僅かな恐慌と勇気、か)


 何故二人はそんな状態に陥っているのか、考えるまでもないが、自分のせいであろうな、と墓地の最奥に佇む男は思考を自己完結させた。男は立ち上がり、両の手を広げて、敵意のないことを示すことにした。


「武器は持ってないみたいだし、本当に、ただのお墓参りなのかも」


「いや、罠かもしれない。油断させて、誘拐してるとしたら……」


 ヒカルは、腰に下げていた刀に手をかけた。もしかしたら、これを抜く時は今かもしれないのだ。相応の覚悟を決めたヒカルは、汗ばむ手で鯉口を切った。


 対する墓所の男は、高まる敵意に目を細めた。先程の行動が、返って怪しまれてしまったらしい。まぁ、それ以外に上手い手があったかと言われれば、否といわざるを得ないのであるが。


(抜くのか、彼は……)


 男の目に、一瞬、凄まじい煌めきが映った。そして、次の瞬間には、茂みを飛び出したヒカルが、抜き身の刀を手に、男との距離をどんどん詰めていたのだった。



 傍らにいた少女を茂みの中に残し、ヒカルは怪人物目がけて猛進する。視界が開け、その人物の全体が見えてくる。


(…………!?)


 黒い巻き毛に、憂いを帯びたような目元。高貴さすら感じる造形だが、何よりヒカルの目を引いたのは、その服。……それはヒカルもよく知る、ヨハンと同じワルハラ陸軍の軍服であった。


「――――ヒカルッ!!」


 アテナの声が遅れて聞こえてくる。恐らく静止を求めている呼びかけであろうが、そう簡単には止まれない。結局、ヒカルの刀がその軍服の男の首にぶつかる目前でやっと止まった。男は、刀身を目線でなぞって、合点がいった。


(なるほど峰打ちか。この少年が考えに考え抜いた結果だろうな)


 刀を鞘に収めたヒカルは、肩で息をしながら、男に問うた。


「ハァ、ハァ……。あなたは、一体……」


 男は、ヒカルと、茂みから抜け出してきたアテナを交互に眺めて、これがヨハンの言っていた能力者の卵か、と納得した。確かに二人が失踪事件調査本部を立ち上げたというのは聞いていたが、この状況の王都で、墓所にまでわざわざ出向いて来ることは、予想外であったが。


「君たちが、ヒカルくんとアテナさんだね。ヨハンから話は聞いているよ。僕はワルハラ帝国陸軍参謀本部所属の、ショーンという者だ」


 ヨハンの友人だと名乗るショーンという男は、自分もまた個人で失踪事件の調査を行っているのだと説明した。

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