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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第五章・強欲編
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俺にはできないこと

「上手く、いった……!! いったよね!?」


 囲まれた黄金像の一団は、台地の列石のように固化して、微動だにしない。恐らくどこかにいるであろう裁き人は、繋がっていた糸を手繰っては、首を傾げているかもしれない。アテナは、辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、ゆっくりと要塞に近づいていった。


 苦悶する、人であったモノたち。昨日までは、溌溂とした肉であり、血の色の透けた肌であり、光を受けて輝く瞳であった組織が、今は等し並に黄金になっている。顔の形はかろうじて判別できるが、黄金として、溶かし、混ぜられているのである。形としては一人であるが、その実は一人ではないであろう。アテナは、彫像の中に、見知った顔がないことに胸を撫で下ろしかけて、不埒な考えであると思い直した。


(でもこれで、少なくともこれ以上の被害の拡大は防げる……。きっと……)


 そうなれば、皆が避難している王宮の前を守った方が良いであろう。自分が、防御魔法に対抗術式を編み込むことのできる自分が走るしかない。幸い、まだ魔力には余剰がある。アテナは踵を返して、王城の門を目指して走り出した。



「ふんふん、へぇ~!! やるなぁアテナちゃん!!」


「……アテナ、どうかしたんですか!?」


 近衛兵団は王都中を走り回り、人命救護に努めている。前線を守るのは、上に立つ者の責務であるといわんばかりのリリアンは、干戈を交える中に、一つの連絡を受け取った。


「いや、この黄金の兵隊を無効化できる方法、彼女が見つけたんだってさ」


「……!? それは、すごいですね……」


「そうと決まれば、逃げよう!! 王宮に入って戦った方が都合がいい。だろう?」


 マナの伝達が阻害される中、矢のように突っ切ってくる伝送鉱石のための魔力に、リリアンは力を奮い立たされたようで、素早い動きで元来た道を引き返し始める。


「あっ、ちょっと待ってください!?」


 慌てて追いかけるヒカル。急に相手が背を向けたことで、黄金の一群は戸惑ったような素振を一瞬だけ見せたものの、すぐに追いかけてきた。決して足が速いということもないが、一糸乱れぬ動きは、まるで壁が押し寄せてくるかのようである。ヒカルは自分のすぐ後ろで、何かが風を切って飛んでくる音を聞いた。あの集団の誰かが持っていた槍だと、ヒカルは直感する。


(軌道によっては、俺にもリリアンさんにも当たるかもしれない……)


 咄嗟に足を組み替えて、腰を低くし、刀を振るう態勢を取る。振り向きざまに払えば、槍を砕くことはできるだろう。無理な態勢にさえならなければ、そのまま逃げることもできよう。


「――っ!!」


 と、振り抜こうとした時、飛来物と目が合った。小さな顔に、ぱちりと開かれた大きな目が、ドレスの中でひときわ光り輝く、手のひら大のお姫様、である。


「うわぁーーっ!? 馬鹿馬鹿、死ぬ、死ぬ! しいぃーーっ!?」


 ぎりぎりのところで刀を傾け、刃はドレスを掠めていった。空中で顔を押さえた人形は、そのままヒカルの空いた左腕に収まった。


「……ロロ? どうしてここに……、メリアさんは……」


「それどころじゃないでしょ!? さっさと逃げなさいよ!!」


 目線を上げれば、軍勢は最早目と鼻の先である。これでは、周りを囲まれて致命傷を負いかねない。ヒカルはロロを抱え直し、城門へとひた走る。



「……あっ、ヒカル!!」


 少女は、自分の逃げてきた方向と、大通りの方を交互に見回しながら、不安げな目を泳がせていたが、どうやらヒカルの姿を見つけると、いくらか心が凪いだと見える。しかし、それに応える余裕は、ヒカルにはない。すぐ後ろに、濁流のような金が迫ってきていた。


「アテナちゃーん!! 例の防ぐやつ、頼むー!!」


「は、はいっ!!」


 アテナは再び呪文を唱え、そして腕を突き出す。放たれた淡緑の光弾は、ヒカルとリリアンの脇を抜け、黄金色の一団に命中する。その衝撃で砂煙が上がった。


「これは……」


「何でも、裁き人とのマナのやり取りを妨害するらしいよ」


「すごいな。……俺には、できないや」


 やがて砂煙が晴れ、静止した兵士たちと、それを檻のように囲む半透明の要塞の姿が現れる。実際、こんな芸当をやってのけることができるのは、対抗術式を持ち、かつ防御魔法を操ることができるアテナただ一人である。ヒカルは、自分にも魔法の才能があれば、同じように活躍できたはずだと、唇を噛んだ。


 しかし、こんな巨大な魔法を、何度も行使することは、病み上がりのアテナにとっては堪えるものである。いや、それだけではない。魔法による負荷以上の圧力が、指先から、這い上がってくるのを、アテナは一人感じていた。例えば、冷水に手を浸し続けているように、逆しまに、熱湯に手を浸し続けているかのように、最初の痛みに手を引かなかったために、徐々に、取り返しのつかない傷を負っているようである。


 この一大事、自分は絶えねばならない。ヒカルは僅かにマナを感知できるだけで、防御魔法を使うことはできず、ロロの小さい体では、マナの遮断ができる程の壁を作り出すことはできない。自分が頑張らねば、自分が――。


 プツ、と音がして、視界が暗転した。

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