09 見せられた強さ
「良いよ、ユーラル・ハート! その調子!」
「は、はい!!」
チーム・グレイスのピンク色の魔法少女、グレイス・キルシェ先輩の訓練に私は必死に喰らいついていた。
魔法少女ランク3位のチームのエースだけあって、本当に強い。私がいくら全力で攻撃を放っても、涼しい顔でいなされる。変身前の姿である首藤桃華先輩は高校3年生で、私とは3学年違い。
スカウトされたのは私と同じ時期だというので、たった3年でこんなに強くなったということだ。私は果たして、このレベルまで辿り着けるのだろうか。
「ふふっ、やるね。なら一つ、魔法少女の取っておきを見せてあげようか」
「え?」
「皆も見てて!」
キルシェ先輩は私だけでなく、他の魔法少女達にも叫んだ。周囲で行われていた訓練が一時中断され、視線が私達に集まる。
キルシェ先輩が合図をすると、一人の男性が頷いた。チーム・グレイスの導き手の人だ。
「導き手と連携すればパワーの補充や増幅ができる。それは知っているよね?」
「ただ、それの強化版として、こういうこともできるんだ」
導き手からの光がキルシェ先輩に伝わり、ピンク色に光る。しかし、それだけでなく、光は一層強さを増して、あまりの眩しさに私は目を閉じた。
目を開けると、キルシェ先輩の姿が変わっていた。服装の色の基調は変わらずピンクだが、形状が変わって白さが増している。髪の色も同様に白さが増してより神秘的になっている。
溢れる魔力が風となって周囲を揺らしていた。
「魔法少女と導き手の究極連携、アルティメットフォームだ」
「アルティメットフォーム!?」
「これができるようになるには、魔法少女にも相応の訓練が必要だし、何より導き手との絆も重要なんだ。魔法少女になってたった3年でここまで辿り着いたグレイス・キルシェは、歴代にもそうはいないレベルの魔法少女だよ」
周囲のそれぞれのチームで説明が行われる。
「さあ、ハート! 最大出力で一発撃ってみなさい!」
「最大出力で!?」
「ええ! あなたの全力を!」
私は横目で理人を見ると、真剣な顔で頷いた。最大出力で撃っても問題ないということだ。
理人からのパワーの供給を受け、私は両手のパワーを集中させた。指先にピンク色の魔法光が集まり、それを解放。ビーム形状となり、キルシェ先輩に飛んでいく。
しかしキルシェ先輩は何の動作も行わない。防御態勢すら取らなかった。それで十分だった。ビームがキルシェ先輩に当たっているのに、キルシェ先輩には何も影響を与えず、ビームだけが四散した。
「えええ……」
私は驚きと共に尻もちをついた。さらに、キルシェ先輩が海に指先を向け、極細のピンク色の光線を発射すると大爆発が起きた。今の軽く撃っただけの攻撃で私の最大出力を軽く超えている。
「は、初めて見たけど……!」
「こ、こんなに凄いんだ!」
トパーズとラベンダーの呟きが聞こえた。アクアは口笛で音を立ててキルシェ先輩の起こした結果を囃し立てている。
「これができたらランク入りは硬いよ」
「ちなみに、うちのチームは全員アルティメットフォームできるからね」
チーム・グレイスの他のメンバーが皆に向けて言った。
物凄いものを見せてもらったと感じたが、他のチームも同じだったようで、拍手が巻き起こった。
◇
訓練が終了し、誰もが変身を解いた。成り行きだがグレイス・キルシェ先輩のアルティメットフォームの相手を務めた私に声をかけてくれる娘も少なくない。
「桜乃、どうだったよ?」
「紅一。いやもう凄かった!」
紅一に話しかけられ、私は素直に感想を述べた。思えば、紅一が魔物に襲われるのを助けたのも私の魔法少女としての活動の始まりだった。紅一も、何も知らない普通に暮らしている人たちも、皆を助けるために私は強くなりたかったんだ。だから、
「私もああなりたい!」
「そう言うと思った。ただ、無理はしない程度にな」
「うん、ありがと!」
紅一はいつもの様子で私に芽生えた感情を肯定してくれた。そのいつも通りさには毎回助けられている。
そして、私は早速理人の元に出向いた。
「その様子じゃ、刺激になったようだね」
「うん! 大きな目標ができたよ! 何から始めれば良い!?」
「君自身の訓練は今まで通りで良いさ。何なら少し飛ばしすぎだとも思う。きっと、桜乃に比べたら頑張らないといけないのは僕さ」
「え?」
「アルティメットフォームを完成させるのは魔法少女だけじゃない。導き手もその域に達する必要がある」
「そ、そっか……」
私だけが頑張ってもダメ。確かに言われてみればその通りの仕組みだったかもしれない。
そんな会話をしていたら、ユリールが話しかけてきた。
「理人が頑張っていないわけじゃないよ、桜乃」
「ユリール?」
「何なら、一度理人の訓練を見てみたらどうだい?」
「え?」
理人は苦笑して断ろうとしていたが、そう言われてみると私も見てみたかったので、ユリールと一緒になって説得し、夜にやっているという理人の訓練を見学することになった。
◇
夕食が終わると、浅黄と紫帆は疲れたのか早くも寝息を立てていた。リゼは持ち込んだノートパソコンを開いて何やら夢中になっている。何をやっているのかも若干気になったが、理人との約束があったので、私はロビーに急いだ。
「ちょっと早かったかな」
私はロビーのソファーに座ろうとした。すると、声をかけられた。
「あ、桜乃」
「桃華先輩!」
話しかけてきたのはグレイス・キルシェこと桃華先輩だった。
「聞いたよ、魔法少女になってまだ3ヶ月なんでしょ? 凄いよ」
「い、いいえ! さっきの先輩の姿を見ていたら凄いなんてとても言えません!」
「そんなことないって。多分、桜乃は私の3ヶ月の頃より遙かに強い」
「え……?」
そう言われると戸惑ってしまう。私はそんなに強くなったのだろうか。
「だいたい、この合宿中の伸びだって一人ぶっちぎりだもん。桜乃はまだまだ強くなるし、他のメンバーも必死だったから、チーム・ユーラルは本当に良いチームになるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「まあ、あのリゼって娘は必要以上のことはしない主義っぽいけどね」
「あ、あはは……。でもリゼって頭が良いんですよ」
「うん、それは分かる。ああいう娘が広い視野で思わぬ所を見ていたりするから、それも大切にすると良いよ。力ばかりが強さじゃないことだってあるんだから」
「なるほど」
「ふふ、頑張ってね! それじゃ!」
そう言うと、桃華先輩はチーム・グレイスのメンバーと共にホテルを後にした。合宿に参加してくれるのは今日までなのだ。
「凄い人だなぁ」
私はふと呟いた。




