08 夏季訓練
「魔法少女合宿?」
理人の拠点に集まっている時、そんな話を聞かされた。
「ああ、夏休みの内にね」
「新しめの魔法少女が集まって合同訓練ってわけさ」
「泊まりか~。他のことできなくなるなぁ」
理人とユリールの説明に、リゼがぼやきを入れる。
◇
「海だーー!!」
しかし、いざ現地についてみると、真っ先に大はしゃぎしたのはリゼだった。海に隣接したホテルが拠点になっているため、バスで到着するなりすぐそこにある海水浴場にリゼが走り出した。
「おおーい、遊びに来たわけじゃないぞ!」
ユリールがその後を追って飛んでいく。
「まあ、気持ちは分かるよ!」
「この解放感!」
「理人、私達も少し良い!?」
「ああ、行っておいで」
その言葉を最後に、桜乃も浅黄も紫帆も走り出した。見れば、4人とも荷物を放り投げ、素足になって海の中にいた。
休息日は用意してあるし、そのために水着を持ってきてもいるのだが、
「でも確かに気持ちは分かる!」
「僕達も行こうか」
理人の言葉に反応し、俺も小走りで海の方に向かった。
◇
海で遊んだ後、ホテルで荷物を整理し、集まった先もなんと海だった。人払いの結界を使い、魔法少女関係者だけが砂浜にいる状態になっている。
「しかし、同年代ばっかりだな」
「なんでも、魔法少女としての能力が一番伸びるのは14歳前後らしいよ」
「そうなのか」
「うん。理人が言ってた」
「確かに桜乃も今14歳だもんな」
「だよね。スカウトされやすい年齢みたい」
魔法少女連盟の幹部がスピーチを開始しようとする中、俺と桜乃は小声で話した。
スピーチはまるで学校の校長かと思わせるような退屈さだったが、最後にゲストが紹介されて魔法少女達から歓声が上がった。
「今回の合宿で指導に加わってくれるチーム・グレイスです。知っている者も多いでしょうが、魔法少女ランク3位の強豪チームです」
チーム・グレイスはチーム・ユーラルと同じ4人編成で、各魔法少女のカラーは若干異なり、ピンク、青、緑、オレンジのようだった。変身前の姿は、大学生と高校生の混合だ。
「高校生が混じってるんだね。なんかランク3位って言われるともっとベテランのような気がするけど」
「その感想は間違っていないよ、桜乃。チーム・グレイスが努力したってことなんだけど、高校生混じりのチームが3位まで駆け上がるのは異例だよ」
ユリールがチーム・グレイスに羨望の眼差しを向ける。
「そっか。なら私達も頑張らないとね」
「その意気だ、頑張れよ桜乃。じゃあ、俺はあっちだから」
「ありがと紅一! いつも手伝いばかりでごめんね」
「それが俺の役目だから問題ないよ」
桜乃はユーラル・ハートに変身して訓練に、俺は連盟の係に混じっての雑用に向かった。
◇
「凄い光景だったな……」
訓練が終わり、ホテルに戻る途中で俺はふと呟いた。
あれだけ多種多様な色の光線やら爆発やらが起きていて、本当に一般人に気づかれないのか。魔法少女連盟の隠蔽技術は本当に凄い。
「あー、終わった終わった!」
「リゼ! 君って奴はこんな大切な機会にも手を抜いて!」
「何を見てそう言うんだよ! ちゃんとやってる!」
ユリールの愚痴を聞くに、ユーラル・アクアことリゼは相変わらずのようだ。メニューをこなしているのは間違いないのだが、チーム・ユーラルの他の面々の様子を見ていると、ユリールの感想も分からなくはない。
「桜乃、大丈夫かい?」
「平気。私なんてまだまだだからもっと頑張らなきゃ」
歩くのもしんどそうな桜乃を見かねた理人が声をかけている。俺も訓練をチラ見していたが、ユーラル・ハートの頑張りは凄かった。トパーズとラベンダーにもその熱量が派生したので、浅黄と紫帆も相当に疲れている様子だ。
俺は3人に飲み物を持っていった。
「ありがと、紅一」
「サンキュー」
「助かる」
ここまで自分を追い込んでいる3人と比べると、確かにリゼは元気すぎる気はした。
女子4人は同じ部屋だったが、俺は当然別だ。理人は理人で、他のチームの導き手と同部屋らしく、俺は他の連盟の人達と同部屋だった。
正直年齢差がかなりあり、「ごめんね」と一応断られたものの酒を飲み始めてしまったので、居心地が悪くなった俺はふと部屋を抜け出した。
ホテルをぼーっと歩いていると、声をかけられた。
「あれ、紅一君じゃない?」
「え、美月先輩!?」
それは軽スポーツ部でお世話になった一個上の先輩だった。今年うちの中学を卒業した現役女子高生だ。しかし、魔法少女とは関係がないはずなので、一般人としてここにいたということだ。
「奇遇だね、こんなとこで会うなんて」
「何でこんなとこにいるんですか?」
「部活の合宿」
「え、軽スポ部の美月先輩が合宿があるような部活に!?」
「高校ではしっかりやってみようと思ってさ」
思いがけない再会に、俺と美月先輩はしばらく話し込んだ。
「で、君は桜乃ちゃんとは進展したのかしら?」
「絶対に聞いてくると思いましたよ……。いえ、進展なしです」
「あら、随分素直になったね。前は意地でも否定してたのに」
「無駄に否定するエネルギーは尽きました。そう言う先輩はそっち方面はどうなんですか?」
「うしし、私は彼氏できたよ!」
「え、嘘!? いつ! 誰と!」
「二個上の先輩! 先月から!」
「うええ、そうだったんですか!」
「違う部活なんだけど、まだ引退してなくて、ここにも来てるんだ」
美月先輩は嬉しそうな顔をしてそう言った。
「じゃ、そろそろ行かなきゃ! じゃあまたね! 紅一君も頑張りなよ!」
怒涛の勢いで美月先輩は去っていった。
「あの美月先輩がねぇ。人は、変わっていくんだな……」
◇
夕食を済ませ、チーム・ユーラル内でのミーティングを終えると、俺はふと外に出て海でも見ようかと歩いた。すると、道中で再び美月先輩を見かけた。ベンチに座っている。
「隣に座っているのは、さっき言ってた彼氏さんか」
覗き見するのもどうかと思ったので踵を返そうとしたら、その男子生徒は美月先輩の肩に手をかけ、そのまま
「あっ!?」
声が出てしまった瞬間に、俺は慌てて自分の口を塞いだ。
キスしたよ、ちょっと!
見るのをやめようとした所だったのに、思わぬ行動を見せられて動きが止まってしまった。しかも、男子生徒の手が美月先輩の肩からそのまま下に降りていくもんだから、
「っ……!?」
俺は今度こそ身体を回転させ、脚を動かし、その場を離れた。
「ビ、ビックリした……」
あまりのことに、美月先輩と男子生徒の光景が頭から離れない。そのまま息切れをしていると、別の声が聞こえた。
「紅一? 何やってんの?」
「桜乃!? 何でここに!」
「外の空気を吸いに来ただけだよ。どうしたの? そっちに何かあるの?」
「いや、やめとけ! 人のプライベートはプライベートなんだ!」
「ち、ちょっと!」
俺は桜乃の背中を押し、別方向へと誘導した。
「本当に何よ、もう」
「悪い、説明が難しい……。向こうに俺達が見るべきでない光景があったとだけ言っとく」
「ふぅん」
桜乃はそれ以上追及してこず、そのまま二人で浜辺を歩いた。
「それより、体調はもう大丈夫なのか?」
「平気平気。疲れてただけだもん。少し休んでご飯食べたら元気出たよ」
桜乃はガッツポーズをしてみせた。
「そう、か……」
頑張っているな、本当に。
しかし、俺は美月先輩のあんな光景を見た直後だけに、余計なことを考えてしまう。美月先輩は俺とは距離のある人だけれど、目の前の少女は別なんだ。
夜になったとはいえ蒸し暑い日本の夏だけあって、桜乃は薄着をしている。涼しげなノースリーブにショートパンツ。腕も脚も健康的で引き締まっているし、先ほど美月先輩が触られそうになっていた膨らみもいつもより存在感があるように見えて、やたら目に入ってしまう。
そして、にこやかに笑う表情に映える桜色の唇。何を見ても扇情的な想いに突き動かされ、俺はため息をついた。
「くそっ、美月先輩のせいだ」
「え?」
いつもと変わらぬ距離感で俺を惑わせてくる桜乃に動揺し、心臓の鼓動が上がるのと頬がほてるのを感じた。染まった頬は、暗いから分からないはずだと信じるけれど。
桜乃も一緒にさっきの光景を見ていたら、一緒になって動揺してくれたりしたのだろうか。
ふいにそんなことを思った。
最近、立て続けに見聞きした二個上の想い人。どこか嫌な予感のする予兆だったのに、その時の俺は何も気づいていなかった。




