07 夏休み
『俺だって自分で身を守れるよ』
桜乃に俺が言った言葉だ。その浅はかさに自分で嫌気がさす。
桜乃から見れば俺は一般人なのだから、馬鹿なことを言うなと返されるに決まっている。
「……」
しかし、訓練を怠る事はせず、俺は人里離れた場所に転移して魔物相手に訓練をしていた。両手に赤い光刃をまとい、魔物を5体切り捨てる。
威力だけならユーラル・ハートにも全く負けていないだろう。ただし、持続力はない。人間が闇の力を使いすぎると、身体と心が闇に侵食されるからだ。正直、短時間しか戦えないから、総合力で見れば魔法少女の足元にも及ばないと思う。
それでも、訓練とノウハウを蓄積させ、奈雲一族は戦える時間を少しでも伸ばし続けてきた。俺もそれを引き継いでいる。一族の悲願のために。
「今日はここまでだな」
その日の訓練は終了させ、ひと息つく。
魔法少女の出動機会が多いことに俺は驚いていた。魔法少女の仕組みは元々知っていたし、邪気や闇の絡む事故が起きる確率は交通事故より低いと認識していたが、実際は違うようだ。実のところは、事故とされるレベルの事態にならない内に魔法少女に潰されていたということだ。
物思いにふけりながら、転移を使って家に戻る。ふと、一つの棚の前に立った。中に入っているのは変装を兼ねる戦闘スーツだ。
要は魔法少女関係者に俺の正体がバレなければ良い。バレないようにすれば、桜乃を援護しても問題ないはずだ。
「これを使うことも、考えるべきなのかもな」
◇
その後も何度かチーム・ユーラルの出動機会に協力した。しかし、
「はぁぁぁ!!」
ユーラル・ハートの掛け声と共に、魔物が一閃される。
もちろん全てを一人でこなしているわけではない。他の3人の魔法少女も自分の役割をこなしての結果ではあったが、ユーラル・ハートの攻撃の威力は戦いの度に増すばかりだった。
「桜乃、お疲れ様!」
「頑張ってるね!」
変身を解いた後で、浅黄とリゼが桜乃を労う。
紫帆は理人に話しかけていた。
「桜乃、勢いが凄いけど、何かあったのかな?」
「身近な人に危害が及んだのを見て、強くなるって決めたんだ、彼女は」
「そうなんだ。純粋で良いと思うけど、何か心配にもなるね」
「そうだね。だから、僕は可能な限り、彼女のケアをしないといけないと思っているよ」
「うん……」
紫帆と理人も桜乃達の元へ歩いていった。
「どうだい、君の幼馴染は凄いだろう? なんたってボクが見出したんだからね!」
「聞き飽きたよ、その自慢は。妖精はスカウトで序列でも決まるのか?」
「失敬な言い方だな! まあでも自慢の種にはなるよ」
「嫌な言い方」
ユリールの話にも付き合ってやった。
◇
魔法少女の活動をこなしつつも、終業式を終え、夏休み中に桜乃の中学生活最後の大会が終わった。部活も手抜きせずに頑張ってきた姿を見ていたので、俺は心からの声援と拍手を送った。
桜乃が部活のメンバーや後輩に囲まれているので、俺は共に応援に来ていたチーム・ユーラルの面々と一緒にいた。
「日本の部活道も良いもんね。あたしも高校になったら何かやろうかな」
リゼのその言葉は、どこか適当さがある。良いとは思ってくれたようだが、本当にやるのかは怪しかった。
「リゼは高校でも日本にいるんだな」
「うん、そのつもり」
「リゼが抜けたらチーム・ユーラルの存続が危ういよ」
俺、リゼ、ユリールが順に言った。
ふと俺は飲み物を買いにその輪から離れた。
「えーっと自販機はどこかな、……って、あれ?」
自販機を探してうろついていると、ベンチに理人と浅黄が座っているのが見えた。浅黄は黄色の魔法少女ユーラル・トパーズでもあるわけだが、どういうわけか私服の基調もどことなく黄色だった。
「何を話しているのかな?」
盗み聞きをする気はなかったが、ふと俺はそんな二人を見ていた。
浅黄は笑顔で軽くボディタッチをしながら理人と話している。きっと俺や同級生ぐらいの男子があんなコミュニケーションを取られたらドギマギしてしまうところだろうが、二個上なだけのはずの理人は臆した様子もなく堂々と会話を続けているようだった。
「紅一君、何やってるの?」
「紫帆?」
俺のところに紫帆が合流してきた。紫帆も紫帆で、私服がどこか紫だ。
「ああ、浅黄と理人……」
「いや、特に意味はないと思う……けど?」
「……」
何でもないことだろうと返そうとしたら、紫帆は黙ってしまった。
「紅一君は、どう思う?」
「何が……って、そりゃあの二人のことだよな?」
「ええ」
「そういう聞き方をするってことはつまり……」
つまり男女の仲として、ということだろうか。
急にそんな情報を入れられても戸惑ってしまうが、俺は改めて浅黄と理人を見た。
「うーん……」
浅黄は美人とはいえ俺達と同級生。一方の理人は異様に大人びている。理人が本当は20代中盤だというなら釣り合わないと思うのだが、信じられないことに理人は高2だそうだ。二つしか違わないのなら急に現実味を帯びてくる。
浅黄は理人との会話に夢中になっている気がする。一方、理人はいつも通りだ。なら、好意を寄せているのは浅黄の方だということか。
「浅黄が理人のことをって、そういうことなのか?」
「……」
「俺は新参者だし知らなかったけど、そんなことになってたんだねぇ。理人は最初大学生かと思ってたし、それなら難儀だったんじゃないかと思うよ」
「あはは、理人、大人びて見えるもんね」
「うん、今でも高2って嘘じゃないかと思ってる。でも、二個上なら割とあり得る話なんじゃない? 俺はあの二人のことまだよく知らないからそのぐらいしか言えないけど」
「そう……だよね!」
俺の言葉を聞くと、紫帆は何故か嬉しそうな顔をした。
「紫帆?」
「二個上ならあり得るか。うん、そうだよね!」
紫帆は俺の背中をバンバンと叩くと、そのまま行ってしまった。
「なんなんだよ……」
浅黄が理人に片想いをしていて、紫帆もそれを知っていて応援しているとか、そういう事なのか? だから二つしか違わないんだから行けるという言葉に気を良くした?
「ダメだ、分からん」
俺は諦めて自販機探しを再開した。




