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59 因縁への終止符

 赤と青の光に貫かれたネクロズガカは動かなくなった。やがて、前の形態の時に触手が砂のようになったのと同じように、足元から砂になっていく。


 崩壊はネクロズガカの身体全体に及び、最後に色のない球体が残された。その球体に穴が空き、中から様々な色の光が溢れ出す。


「これ、もしかして……?」

「今までの魔法少女達の色?」

 紅一(こういち)とリゼが呟いた。


 複数の色の光が紅一達の前にやってくる。それらの光が次元に穴を開けると、裏の世界から色のない魔法少女が出てきた。


「亜紀(あき)さん……」

 姿を見せたのは紅一が夢で見てきた、先祖龍一(りゅういち)の想い人である亜紀だった。生きているはずはない。それでも、ピンク色の光に導かれるように飛んできた。光が亜紀に宿ると、魔法少女の姿に色が戻った。


 亜紀のチームメンバーや、草太(そうた)の姿もある。他の位置でも歴代に生贄になったであろう魔法少女達が姿を現し、元の色を取り戻していく。ただし、誰もが半透明だ。


 亜紀と草太は紅一に微笑みかけた。


「終わったんですね……」

 紅一の言葉に亜紀が頷く。言葉を発することはできなかったようだけれど、亜紀達の口が『ありがとう』と動いたように、紅一にもリゼにも見えた。


 亜紀達は紅一とリゼに背を向けて歩き始め、そのまま姿が消滅した。


「亜紀さん、皆さん。どうか安らかに」

 紅一が祈りの姿勢を取って言った。



    ◇◇



 凜香(りんか)は、研究部門の施設で、孫であるリゼとその仲間達の無事を祈る。しかし、思いがけない来訪者に驚いた。


「風香(ふうか)!」

 凜香の前に風香が魔法少女の姿で現れた。別れた時と変わらない姿。しかし、半透明な状態で、もう行ってしまうのだと理解させられる。


「リゼ達が……、やってくれたのね……!!」

 風香は頷き、凜香の前に移動する。


「終わったのね。風香、もう苦しくない?」

 風香は凜香に抱きつく。そのまま、風香は何度も頷いた。


 やがて風香は凜香の前で、姿が消えていった。最後に、その口が『ありがとう』と動いたことに、凜香も気づいた。


「さようなら風香。私もすぐにそちらに行くでしょう。私や皆やリゼが頑張った話を、聞かせてあげる」



    ◇◇



 倒れているガーベラの前にも、半透明の魔法少女達と導き手(ビーコン)が姿を見せる。


「皆……」

 ガーベラが魔法少女だった頃の仲間達だ。共に生贄に選ばれ、仲間達は色を吸われて苦しんでいる中、ガーベラだけが逃げた。


 ガーベラには逃げたことに負い目はあった。しかし、彼女の憎しみは、元凶であるネクロズガカよりも魔法少女そのものに向いてしまった。


 半透明の魔法少女達がガーベラに手を差し出す。


「バカね、まだ私を仲間だと思っているの? 私は魔法少女を裏切った。皆とは違うのよ」

 ガーベラがそう言っても、魔法少女達はガーベラに手を差し伸べる。口が『もういいんだよ』と言っているようにガーベラには見えた。


「そうね、もう終わったんだもんね。私も、あの子達みたいに妄執をネクロズガカに向けていれば良かったのかな」

 ガーベラは紅一やリゼを遠目に見ながら呟いた。


 そして、魔法少女達の手を取ると、ガーベラも半透明になり、仲間達と共に消滅していった。



    ◇◇



 戦場だった空の至る所で、色のない魔法少女や導き手(ビーコン)が姿を現し、色を取り戻しては消えていった。紅一とリゼはそれを見届けた後、力尽きたように膝をつく。


「終わった……」

「うん。やったね」

 紅一とリゼが、自然とハイタッチをした。


 高揚感はあった。長きに渡る因縁に終止符を打ったのだから。それでも、紅一ははしゃぐ気にはなれなかったし、それはリゼも同じようだった。


「終わっちまったな」

「ダリヴァー」

「お疲れ様」

 ダリヴァーが紅一とリゼの前にやってくる。紅一もリゼも右手を差し出し、意図に気づいたダリヴァーは順に握手をした。


「最初はオレ一人で戦うつもりだったが、これはこれで楽しかったぜ」

「ありがと、ダリヴァー。本当に助かった」

「リゼこそ、よくここまでやり切ったもんだ。共に戦えて光栄だった」

「うん」

「で、お前らは素直に魔法少女連盟に出頭するんだろ? ならオレはもう行くぜ」

「ああ。ありがとう、ダリヴァー。いつかまた会おう」

「その時には、リベンジさせてもらうから、しっかり鍛えておけよ、紅一」

「前言撤回したくなる発言をやめろ……」

「あはは」


 ダリヴァーはそのままハヤテの所へ向かう。


「ハヤテ、お前もしっかりな」

「はい。ダリヴァーさん、お元気で」

「おう」


 ダリヴァーは黄色い残光と共に飛んでいってしまった。


 ハヤテが紅一とリゼの元にやってくる。


「紅一さん、リゼさん、やりましたね!」

「ああ。ハヤテもよくやったな」

「ハヤテもありがとう。あたし達の因縁に付き合ってくれて」

「皆さんには恩がありますし、僕もあのネクロズガカは放っておけませんでしたから」

 紅一とリゼは、ハヤテと握手をした。


「さて、と」

「あたし達の今後は、ちょっと大変だね」

 紅一達は周囲を見渡した。魔法少女達が飛び交い、近づいてくる。勿論、紅一もリゼも仲間達も、逃げるつもりはなかったのだが。



    ◇◇



 魔法少女連盟の飛行船が拠点に引き上げる。リゼの会社の研究部門の飛行船もそれを追うように移動した。


 紅一とリゼとハヤテが並び、さらに飛行船に乗っていたリゼの会社のスタッフ達も続いた。


「分かっていると思うけど、闇の力は魔法少女の逮捕案件」

 魔法少女達を代表してランク1位のチーム・ブレイブのエースが告げた。


「分かっているよ」

「やり遂げることはできた。後の処遇は、何なりと」

 リゼと紅一が言った。


 魔法少女達が見守る中、チーム・ブレイブのメンバーが紅一達の前に立ち、護送を担当する魔法少女連盟の職員達を呼ぶ。


「さあ、行くよ」

 チーム・ブレイブのエースが言った。歩き出そうとしたその時、魔法少女達の中から飛び出してくる者がいた。


「リゼ!」

「おわっ!」

 チーム・グレイスのエース、グレイス・キルシェが飛び出してきて、リゼに飛び付いた。


「キルシェ先輩……」

「リゼ、ありがとう……」

 キルシェは感極まったのか、リゼに抱きついたまま涙を流す。リゼはそんなキルシェの背中に腕を回し、優しく叩いた。


「だから言ったでしょう、頑張りすぎないようにって」

「うん……!!」


 そのままチーム・グレイスの他のメンバーも走ってきて、リゼを囲む。さらに生贄の事情を知るチーム・ユーラルもその輪に加わった。


「紅一君も、ありがとうね……」

「うえっ……!?」

 キルシェは勢いが止まらず、紅一にも抱きついた。紅一は思わぬ展開に、顔が真っ赤になって目を回してしまった。


「キルシェ先輩、お手柔らかにしてやってくださいよ」

 リゼが笑いながら言うと、キルシェが紅一の身体を離す。


 紅一は脳がフリーズしたかのように立ち尽くし、プルプルと震えていた。


 すると、紅一は背後から頭にチョップを受けた。


「バカ……」

「え!? あ、ハ、ハートか……」

 紅一はすぐには衝撃から回復しなかったものの、ユーラル・ハートと向き合う。


「紅一、ありがとう。皆を助けてくれた。本当に凄いよ」

 ハートはキルシェのような行動は取らなかった。チーム・グレイスの生贄を阻止し、元凶を倒してくれたことに感情は高ぶっていたが、これまでのことを考えると、紅一に対して迂闊な行動は取るべきではないと理性が働いたのだ。


「皆がいたからできたことだよ」

「勿論、リゼも、皆、凄い。私には、とてもできなかった」

 ハートが寂しげな笑みを浮かべる。


「魔法少女は、今後も頑張るんだろ?」

「私はそうだけど、紅一はこれからどうするの……?」

「処遇は、成り行き任せだ」

「そう……」


 魔法少女連盟の職員がやってきて咳払いをすると場が静まり、紅一やリゼ達はその前に立った。職員に連れられて歩いていく。


 ふと、誰かが拍手を始めた。その数が、少しずつ増えていく。拍手の輪は、魔法少女達全員に伝わっていった。


 バツが悪そうな顔をしている魔法少女連盟の職員達を、チーム・ブレイブのメンバーがなだめていた。

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