53 古の要塞
裏の世界に侵入し、俺達は飛行船に乗り込んだ。
元の世界と地形は同じ。ただし、空の色は薄く、邪気を帯びた雷鳴が響いている。ネクロズガカが上空に浮かんでいるのは同じだが、元の世界より大きい。少しずつ、元の世界に這い出ようとしている。
もし封印の儀式が行われたら、この世界自体をネクロズガカごと、元の世界から遠くに追放することになる。そうしたら、元の世界との接点が遠くなって行き来は難しくなる。結社アルコに封印を解かれなければ、この世界はまだ次元的に遠い場所にあったはずだ。
飛行船でネクロズガカに接近すると、空に浮かぶおかしな施設も一緒に見えてきた。
「何だあれ?」
「要塞って感じだね」
「ネクロズガカを創っていた施設なのかもしれないな」
ネクロズガカの身体がその要塞から生えだしているように見える。古代に、何者かがこの裏の世界でネクロズガカを創ったのだろうか。
「封印の儀式では、逆にあのヒビからこっちの世界に侵入していたわけだな」
「もし色を吸う機能自体を潰せれば、魔法少女も戦えるようになるかもしれませんね」
「いずれにしても、まずはあの要塞に行ってみるべきだろう」
飛行船は空を行く。邪気の雷鳴を避けつつ、要塞に接近した。
「ここまででいい!」
「後は飛びます!」
「もしもの時は子竜の力で元の世界に逃げてください!」
「分かった。皆さん、ご武運を!」
リゼ、ダリヴァー、ハヤテとともに船を飛び出し、要塞に飛び移る。その時に使う闇の力のため、リゼは既にサイファーギアを起動していた。
馬鹿正直に入口らしきところから入ることはせず、ネクロズガカが生えだしている部分に近い所から侵入した。
「要塞内にも魔物が!」
俺達の姿を見ると、魔物達は次々と襲いかかってきた。ネクロズガカの影響なのか、どれも色がない。
「ぶちのめしていくまでよ!」
ダリヴァーが黄色い光を帯びながら攻撃する。その威力に対抗できるような魔物はおらず、俺やリゼやハヤテも赤青紫の攻撃で蹴散らしていった。
やがて壁沿いに、ネクロズガカの肉体が並行して走っているような場所に出た。さらに進むと、徐々に触手形状のものが見え始める。
「これ、魔法少女特攻の触手っぽいね」
「いたる所から生えている。これでは、魔法少女が勝てないわけだ」
リゼの言葉に俺が続く。
「ちょっと、あれって……」
「ああ。過去の積み重ねって奴だな」
ハヤテとダリヴァーが言う。
その先にあったのは、色のなくなった魔法少女達だった。色を吸われ尽くした後のようで、ネクロズガカの肉片に埋まっていたり、硬質化した触手に拘束され続けていたりする。
「酷い……」
「何なんだよ……」
リゼと俺が呟いた。
今までに生贄になった魔法少女達に違いなかった。もしかすると、生贄以外のネクロズガカに挑んだ魔法少女もいるかもしれないが、遺体が朽ち果てることもなく、色をなくした状態で魔法少女の姿だけが残り続けていた。
中には、導き手と思わしき男性の姿もある。魔法少女のアルティメットフォームを維持するため、ギリギリまで生かされたのだろう。
ネクロズガカの色を吸う能力は導き手にも及ぶようで、彼らもまた、色をなくした状態で残り続けていた。
妖精も生贄にされたと聞いているが、その姿はない。消滅してしまったのだろうか。
目に映る光景の異常さから、一体どんな地獄があったのかを想像せずにはいられなかった。
「こんなの、人の死に様じゃない!」
リゼはサイファーギアを操り、魔法少女の遺体を拘束しているものを断ち切る。
俺やハヤテも続いたし、あのダリヴァーまでもが敬意を払って拘束を破壊した。
そして俺は、知っている顔を見つけてしまった。
「ああ、ついにお目にかかれましたね、亜紀さん、草太さん」
奈雲一族に残る過去の記憶の夢に出てくる人達。祖先である龍一さんの想い人とその恋敵でもある導き手。二人の近くにいる魔法少女は、同じチームの者に違いなかった。
俺の祖先達も、この人達の夢を見たはずだ。誰もここまで来ることはできなかったけれど、ようやく龍一さんの想いを連れてくることができた。
「今、降ろしてあげますからね」
俺は赤い光を使い、亜紀さん達を拘束している部分を破壊した。亜紀さん達だけでなく、拘束されていた魔法少女や導き手の遺体を丁寧に寝かせていく。
ふと、リゼが神妙そうな顔持ちで一人の遺体と向き合っている。
「はじめまして、風香さん。おばあちゃんに変わって、来たよ」
リゼは、彼女の大叔母を見つけたようだった。前回の封印の儀式で生贄となった魔法少女。
拘束を解き、静かに横たわらせた。
まだ丁重に葬ったとはいえない状態だったが、寝かせたことで、少しは楽になってくれただろうか。
遺体が朽ちないというのは異常で、何か処置をしなければならないと思わされる。しかし、今は元凶を倒すことが先決だ。
「行こう」
「うん。皆、それを望んでいるはず」
「そうですよね」
「ああ、行くぜ」
横たえた魔法少女と導き手の方に向かって4人で一礼し、俺達は先を急いだ。




