05 チーム・ユーラル集合
魔法少女には色がある。チーム・ユーラルで言えば、ピンクを司るユーラル・ハートと、青を司るユーラル・アクアがいる。
そうなれば、当然他の二人の魔法少女にもそれぞれ特徴となる色がある。
黄色の魔法少女ユーラル・トパーズ。
「乾浅黄よ」
浅黄と名乗った制服姿の少女は、俺と桜乃に挨拶をした。
そして紫の魔法少女ユーラル・ラベンダー。
「国木田紫帆です」
紫帆は浅黄と同じ中学で、同じ制服を着ていた。
理人の拠点で、ついにチーム・ユーラルの全員が顔を合わせることになったのだった。
「浅黄に紫帆! よろしくね!」
桜乃は初対面でも物怖じすることなく黄色と紫の魔法少女に突撃していった。どうやら気も合うようで、3人はキャッキャとはしゃいでいる。
「ついにうちのチームも4人か。てか浅黄に紫帆も、例外だけどもう一人メンバーが増えてるからさ!」
リゼはそう言うと、俺を浅黄と紫帆の前に立たせた。
「奈雲紅一です。成り行きで魔法少女の活動を支援することになりました」
「あー、聞いてるよ奈雲君。記憶操作とかが効かない体質なんだよね?」
「魔法少女連盟には男のスタッフもいるけど、チーム内に導き手以外の男の子が入るのは新鮮だわ」
浅黄と紫帆は俺のことも歓迎してくれた。
しかし、桜乃は言わずもがな、リゼも信じられないぐらいの美形だが、この二人も相当だ。選び方に偏りがあるのではないかと疑ってしまう。何なら理人もイケメンだからビジュアル面では俺が浮いている。
歓迎のため、ジュースやお菓子類が用意されていて、歓談の時間はしばらく続いた。
何と言っても浅黄や紫帆と、桜乃が打ち解けることが大事だと思ったので、俺は少し遠慮気味の位置にいた。すると、リゼが俺に話しかけてきた。
「幼馴染の少女は上手くやっているようですな」
「だから幼馴染というわけでは……。いやもう言葉の定義なんてどうでもいいか」
「まあ、あんたも桜乃の事ばかり優先してないで気楽にやってよ」
「ああ、そうだな」
そう思いながら桜乃が浅黄や紫帆と会話しているのを見ると、話題が俺に移っているようだった。
「へぇぇ、ご近所さんなんだ!」
「一緒にバーベキュー! なにそれ! 幼馴染の男の子とそういうイベントが発生することって本当にあるのね!」
どうやら浅黄も紫帆も興味津々になってしまい、桜乃に呼ばれて輪に入ることになった。リゼにも当然、過去の話をたくさん聞かれる場となった。
「これならチームも上手くいきそうだね」
「当然だよ! 才能はもとより相性も考えてボクが選んだんだから!」
理人とユリールは、輪から少し離れてそんな事を言い合っていた。
◇
「さて、桜乃が加わったから改めて説明しておくと、魔法少女は基本的にチームで動く。桜乃が魔物に遭遇した時のように突発的な事態では少人数で対応することもあるけどね」
「ボク達は、本来は邪気があそこまで大きくなる前に摘み取ることがメインなんだ」
「それ、ちょっと聞きたいんだけど、桜乃が最初に戦ったあの魔物を放置していたのは桜乃の勧誘のためだったのか?」
「ああ、そうだよ。ユーラル・ハートの力なら簡単に倒せる範囲だとボクが判断したからね!」
「おいおい、この猫野郎、随分はっきりとんでもない発言をするなぁ! 何かあったらどうする気だったんだよ!」
「そうならないように動くのもボクの采配なのさ。実際、大丈夫だったろう?」
「うわ、妖精こっわ……」
ユリールはもっとはぐらかすかと思ったが、はっきりと俺に告げてきた。ここまで堂々と言われると怒る気もしない。
「そこでだ、仕事を貰ってある。桜乃にとっては初めてのチーム戦だけど、そこまで危険ではない闇払いだ。今日、早速行ってみようと思う」
◇
移動にはリゼが手配した車を使った。魔法少女用の移動手段もあるらしいが、リゼが任せなさいというので頼ることになったのだ。
俺は大してできることもなかったので、いつもは理人がやっていたらしい荷物の整理を行ったり、連絡係等を引き受けたりした。
現場は森の中だった。ユリールが何やら呪文を唱えると世界が歪み、邪気がはっきりと感じ取れるようになった。
「こ、これは……!?」
既に魔法少女に変身していたユーラル・ハートが邪気を感じ取ったのか呟いた。
「邪気を放っておくと一般人が感じ取ってしまうケースもあるんだ。だから祓うまではこうして封印して周囲から分からなくしておくことも多いんだよ」
「そ、そうなんだ!」
ユーラル・ハートのその言葉は、そっくりそのまま俺が言いたい言葉でもあった。魔法少女連盟がそんなことまでしていたとは。
俺が世界から感じ取っている邪気や闇の波動など、隠されていない一部に過ぎないのかもしれない。
森で育ってしまった邪気だけあって、その闇は大木の姿をした魔物に変わった。枝を伸ばして魔法少女達を攻撃し始める。
「うわっと!」
ユーラル・ハートは、迫りくる枝の数々を上手く避けた。
「まずは私達が!」
「先陣を切るよ!」
そう叫んだのはユーラル・トパーズとユーラル・ラベンダーだ。黄色の光と紫の魔法光線が交互に枝を斬り飛ばしていく。
「ひゅー、流石はトパーズにラベンダー。相変わらずやり手だなぁ」
そんな事を言いながら、一歩下がって青い光で枝が俺や理人に向かわないように牽制しているのはユーラル・アクアだ。なるほど、トパーズとラベンダーが前線に出たがりなのも、アクアが引き気味になる理由の一つなのかもしれない。
「なら私は!」
ユーラル・ハートはピンクの光を凝縮させ、大木の本体に投げつけた。本体から絶叫が上がり、身体の8割ほどが消滅する。
「えぇ、凄い!」
「本当にこれで3戦目なの、ハート……」
トパーズとラベンダーが感嘆の声を上げる。ユリールが自慢していた通り、ユーラル・ハートは本当に才能のある魔法少女らしい。
「ハート、アクア! この機会に導き手との連携、やってみよう!」
ユリールは戦況を見ながらそう告げた。
「う、うん!!」
「えー、そこまでしなくても倒せそうじゃん」
「君は本番での成功事例を欲しがってただろ! ならこういう機会にやらないといつまで経ってもやんないじゃんか!」
「へいへーい」
ユーラル・ハートは素直にユリールの指示に従おうとしたが、アクアはここでも悪態をついていた。
ハートは理人の方を見た。合流するタイミングを考えているようだ。
「ハート! その位置で大丈夫だ!」
「え?」
理人はハートとアクアのいる方向に手をかざす。すると、理人の腕が白く発光し、離れた位置にいるハートとアクアのピンクと青が一層輝く。
「うわぁ、凄い……。パワーが溢れる!」
「まー、便利な能力だよね~」
そのままハートとアクアは魔物に攻撃をした。ピンクと青の魔法光が交錯し、魔物を削る。
「トパーズ、ラベンダー! 君達も!」
理人は残りの二人にも力を供給し、黄色と紫の攻撃も加わる。魔物はたまらずといった様子で消滅していった。
「やった!」
「ナイス理人!」
トパーズとラベンダーは高揚感を抑えられないといった様子で理人に駆け寄り、手を取ってはしゃぐ。
ハートは息切れをしながら立ち尽くしていたが、トパーズとラベンダーに手招きされ、ハートも理人を囲む輪に入っていった。
「手応えあったのかな」
ユーラル・ハートの様子を見て、俺はそんなことを呟いた。顔は桜乃の状態と同じだから何となく分かる。あれは気分が良い時の表情だ。
「……」
準備してきた装備品等は一切使う機会がなく、俺はほとんど何もしていない状態だ。チームの実力からして、十分に倒せる相手だという事だったから、想定通りの展開だろう。
しかし、俺は魔物のいた位置を凝視する。小粒のような大きさだが、まだ闇の粒子が規則性を持ってうごめいている。これは、まだ祓い切れていないということだ。
ユーラル・ハートの初チーム戦を兼ねた相手だったようだが、ユリールの思惑より厄介な相手だったようだ。
俺は、理人を囲む輪に加わって鼻が伸びているユリールを眺めた。
「つめが甘いよ、妖精」
俺は極小の出力で、決して魔法少女やその関係者に感知できない程度の大きさで闇の力を指先に集め、邪気の残り香に向けて放った。
僅かな反応が起こり、祓う予定だった闇は完全に消え去った。
「ん?」
ユーラル・アクアが声を発した。怪訝な顔をして魔物のいた位置を凝視する。アクアはそのまま魔物のいた位置に移動し、キョロキョロと周囲を見回した。
「おっと、これは……」
俺は思わず呟いた。アクアと目を合わさないようにして、ただユーラル・ハート達に合流する風を装って輪の中に歩いていった。
ユーラル・アクアは勘が鋭いらしい。学校の体育館裏の邪気に俺が気づいた時も反応していたし、間違いなさそうだ。
今回のチーム戦でも少し身を引いたような戦い方をしていたし、魔法少女の活動に積極的でないのかと考えていたが、俺にとっては一番注意しないといけない人物かもしれない。
そんなことを考えながら、少しだけユーラル・アクアの様子を見ると、彼女は右手を顎に当てて何かを考え込んでいた。




