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04 魔法少女やります

 体育館裏に突如発生した邪気が魔物と化し、魔法少女ユーラル・アクアがその相手をしている。


 魔物の攻撃をユーラル・アクアが避け、青い光でカウンターを当てる。


「ダメだ、効かないなぁ! 理人(りひと)、あたし一人じゃ厳しい! 近くの魔法少女チームを呼んで!」

「アクア! 理人からパワーを貰うんだ! そうすれば君一人でも倒せる!」

「いやいや、そういうのをぶっつけ本番でやらせるのはやめて! 危険だって!」

「練習ならしているだろ!」

「本番での成功事例はないじゃない!」

 ユリールとユーラル・アクアが怒鳴り合う。


 なるほど、これか。ユーラル・アクアの諦めが早いというのは。


 確かに本番での成功事例がないというなら、もっと安全な状況で成功体験を重ねるという手もあるが、時には思い切りも必要な気はする。


「紅一(こういち)、まずはこの人達を」

「ああ、分かってます!」

 人を担げるような大きさではないユリールはともかく、俺と理人さんは昏倒している先生と生徒達を体育館裏から移動させようとした。理人さんはユーラル・アクアが言うことを聞かないことを分かっているようだった。


 しかし、その途中で一人の女子生徒とすれ違った。明らかに使命感に燃え、既にピンク色のオーラが出ている。


「あ、桜乃(さくの)……」

 俺は思わず彼女の名前を呟いた。


「学校で生徒達を襲うなんて、なんてことをするの!」

 桜乃はそう叫ぶとピンクの光に包まれ、魔法少女ユーラル・ハートに変身した。


「はぁぁぁぁ!!」

 ユーラル・ハートが気合を込めると、右腕にピンクのオーラが集まる。その勢いを殺さぬまま、魔物を殴りつけた。


「グオオオ!!」

 魔物はたまらず絶叫を上げる。


「うおー、すんげー威力……!」

 そう呟いたのはユーラル・アクアだ。


 魔物は攻撃を逃れようとしてか、再び分裂した。


「おっと、そうはいかないよ!」

 ユーラル・アクアが手を動かすと、青い光がムチのようになり、分裂した魔物を縛り上げて一箇所に押し込んだ。


「今だ、やっちゃえハート!」

「了解!」

 自己紹介もまだな二人だったが、見事なコンビネーションで、青い光に拘束された魔物をピンクの光が撃ち抜き、魔物は消滅した。


「やったー!」

 ユーラル・ハートは興奮したのか、ユーラル・アクアに抱きついた。


「おわっ! ちょっと落ち着いて!」

 ユーラル・アクアはそんなユーラル・ハートをなだめるように背中をポンポンと叩き、身体を離させた。


「二人とも、よくやってくれた!」

「ナイス!」

 理人さんとユリールが魔法少女達の元へ向かい、労った。


 ユーラル・ハートは決意を固めるような顔をして俺達に向き合った。


「私、魔法少女、やります!」


 自分が役に立つと実感したのだろう。それに、身近な生徒達や先生が傷つけられたのを見て、世界にはびこる闇を放っておけなくなったのだとも思う。


 俺は変身したままのユーラル・ハートの前に立った。


「決めたんだな?」

「うん。私、やりたい。皆を助けたい」

「分かった。なら俺も応援する。前にも言った通り」

「ありがと、紅一」

 自然と二人で握手をかわした。


 学校で起きた出来事の後始末は、魔法少女連盟という組織が引き受けてくれた。基本的に、魔物との戦いは一般人の記憶には残らないらしい。


 俺達は再び理人さんの管理する拠点に集まった。


「改めて、君を歓迎するよ桜乃。引き受けてくれてありがとう」

「はい。色々と教えてください」

 理人さんの言葉に桜乃が答える。


「それから、年齢差があるのは知っているけれど、チーム内で敬語は不要だ。桜乃だけでなく紅一も。僕のことも理人と呼んでくれ」

「え、先輩を呼び捨てか、うーん……」

「いいじゃない、理人が良いって言ってるんだから」

「対応が早い!」

「あたしは最初からタメ口だったけどね。敬語は苦手」

 段々とそんな談笑をする余裕も生まれてきた。


 チーム・ユーラルの残りの魔法少女二人も俺達と同級生だが、ちょうど魔法少女の研修に行っていて不在とのことだった。近い内に会うことになるだろう。


 理人とユリールが桜乃に話を続ける中、俺はふとその輪から離れた。すると、リゼもやってきた。


「桜乃がとんだことに巻き込まれちゃったな」

「パワーバランス的にあんたは守られる側だもんね。複雑?」

「いやまあ、魔法少女のあの戦いっぷりを見れば、俺の出番はないことぐらい分かるよ」

「そう? でもさ、魔法少女のチームって、魔法少女以外には妖精と導き手(ビーコン)ぐらいしかいないのよ、普通は。紅一が加わることでこのチームはどうなるかね」

「そうなのか」

 リゼは何やら俺を気にするようにそんなことを言った。


「あとさ、ちょっと紅一に聞きたいんだけど」

「ん?」

「あの体育館の裏の魔物、もしかして気づいてた?」

「え、何で!?」

「だって、何か一直線に体育館裏に向かったように見えたから」


 見られていたのか……。確かに俺はあの時、邪気を感じ取って体育館裏に向かった。何故そんなことができたのかは、知られてはいけない。特に、魔法少女や関係者には……。


「うーん、もしかしたら何かの寒気みたいなものを感じたのかも? 霊感みたいのが実は強いとか。でもまあ、偶然だと思う」

「そう。ならいいけど」

 リゼはそれ以上の追求はしてこなかった。


 今まで以上に気をつける必要がある。身近に魔法少女がいる生活になってしまったのだから。



    ◇



 何やらリゼが送ってくれると言い出し、どこぞに連絡すると、やたら豪華な車が到着した。


「リゼって金持ちなのかな?」

「さあ……?」

 運転手や乗ってきたスーツ姿の男にあれこれ話しているリゼを、桜乃と俺は少し遠い目で見つめた。


 俺達はそのまま車で送ってもらった。桜乃が魔法少女をやることを決めたことを含めても、濃い日になったと思う。


 桜乃と別れ、家で夕飯を済ますと、俺は地下に向かった。


「……」

 地下はそれなりの広さがある。魔法少女の拠点と同じように、空間を歪める力で広さを加えているのだ。本棚には奈雲(なぐも)一族の長年の研究成果がまとまっているし、中には闇の力で発現する魔法陣もある。


 桜乃が魔法少女を始めるのなら、俺にも新しい目的ができた。


 俺は装備を整えて魔法陣の上に立つ。これは、転移魔法陣だ。人の寄り付かない、邪気と闇に溢れる樹海への転移を可能にする。


 転移先の樹海で闇の力をこねくり回すと、目の前に魔物が出現した。前にユーラル・ハートが倒した魔物より、今日体育館裏で祓った魔物より数段強力な魔物だが、俺にとってはただの訓練相手だ。


 腕に闇の力を込めると、赤黒く発光し始める。ユーラル・ハートの放つ神聖なピンクの魔法とは程遠い、色相は似ていてもドス黒い闇の力だ。美しさでは比較にもならないが、ただ目の前の敵を滅するだけならその目的を確実に遂行する。


 俺はまず目の前の魔物を横薙ぎに攻撃すると、その赤い光は魔物を消し去った。続いて何体かの魔物が襲撃してきたが、それらもあっさりと倒した。


「このぐらいだな」

 時間にしておよそ1分半。そのぐらいにとどめておくのが良い。闇の力を使うと、行使する者の身体と心を闇が侵食してしまう性質があるから多用はできないし、絶対に身体に闇を貯めてはいけない。


 実際、闇の力に頼って闇に堕ちた者は魔物になってしまうケースすらあり、そうなれば魔法少女による討伐対象になってしまう。志を持って闇に傾倒する者が闇に堕ち、魔法少女に滅される悲しい戦いも歴史にはあったから、魔法少女は闇の力を察知したら事前に潰しにかかるのだ。


 俺の一族も、そうして過去に魔法少女に倒された。今に続いているのは祖先が逃げ道を用意したからだが、バレれば潰されるのは間違いない。


 それでも。


 桜乃が本当に危険な状態になれば、俺は助けに入りたい。その時にしくじらないため、俺は日々の訓練を怠らないことを決意するのだった。

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