46 過去から続く因縁
俺は夢を見ていた。奈雲一族が力と共に子孫に残した記憶だ。ネクロズガカの封印を見届けた、龍一という俺の祖先が残した記憶。久々に見た。
「亜紀さん!」
龍一が女性の肩に触れる。
「龍一さん……」
「どうして貴方が生贄なんかに!」
「私だけじゃないです。仲間の魔法少女も、草太さんも一緒です」
草太というのはこの亜紀という女性の魔法少女チームの導き手の男だった。
「僕は貴方に死んでほしくはない! 仲間達と共に逃げてください!」
「そんなこと、できませんよ。ほら、空を見て」
龍一と亜紀が空を見上げる。遙か上空に、黒い塊が浮かんでいた。
「あれは世界を滅ぼす災厄。封印しなければ、龍一さんも、私の家族も死んでしまうのよ」
「なら、倒せば良いじゃないか!」
「ダメなんです。魔法少女には倒せない。それはもう分かっている。封印し続けるしか、ないんですよ」
「すみませんが、その封印とやらの中身、知ってしまったんですよ」
「えっ?」
龍一が拳を握り締め、震えている。
「生贄というのは、魔法少女の強変身を保ったままあの災厄に捕まることなんでしょ! 生贄が力を吸われている間、その間にあいつを次元の遠くに追放すると!」
「龍一さん、それをどこで……」
「魔法少女の文献を見ました! 遠次元への追放は何日も、下手したら何週間も続くそうじゃないか! なら、生贄はその長い時間、ずっと苦しみ続けるってことですよ!?」
龍一が怒鳴るように叫ぶ。息切れをしていた。
「でも、誰かがやらないといけないんですよ」
「そんなの、狂ってる! 草太も草太だ! 止めるべきなんだ!」
「草太さんを悪く言わないで」
亜紀は少し怒ったような顔を見せる。
魔法少女は導き手に想いを寄せやすい。リゼに教えてもらった事だったが、この過去の出来事でも、きっとそういうことだったのだろう。
「僕は、今でも貴方のことを……」
「言わないで! 前にも言ったけれど、私は草太さんのことが!」
「……」
そうして亜紀は行ってしまう。いつも見る夢と同じだ。
◇
亜紀を止められなかった龍一は自責に駆られるだけではない。龍一の夢の中に亜紀が出てくるようになった。
「あ……ぐぅぅ、もうやめてぇ……!! 誰か、助けてぇ……!!」
それは間違いなく亜紀の声だ。龍一にはそう認識できていたし、子孫である俺にも分かる。夢の中でさらに誰かの夢を見るという不思議な体験だが、はっきりと認識できた。
龍一が作り出した夢の1シーンに過ぎなかったのかもしれない。しかし、そのあまりの迫力は、ネクロズガカに捕まっている亜紀が助けを求め、それが龍一にまで届いたのではないかと思わされるものだった。
「おい、もう生贄をやめさせろ!」
龍一は魔法少女の組織に乗り込んで生贄の中止を懇願するようになる。
「もう災厄は我々の手の届かないところにいる。今更中止などできない」
「亜紀さんが苦しんでるんだ! 泣いているんだ! お前ら、それでも人間か!!」
「話は以上だ。去れ」
龍一は暴れたが、魔法少女につまみ出されてしまう。
龍一はその後も何度もその夢を見て、魔法少女の組織に乗り込むことを繰り返した。しかし、やがて亜紀が苦しむ夢を見ることはなくなった。ちょうど、ネクロズガカの封印が完了した時期だった。
長い時間をかけて亜紀が生命を失ったから、夢に出てくることがなくなったのだと、少なくとも龍一はそう思った。
そうして、龍一は闇の研究に没頭するようになる。全てはネクロズガカを倒し、このような悲劇を繰り返させないために。
勿論、うまくはいかなかった。ネクロズガカの封印は何十年も、封印の儀式がうまくいっていれば百年を超えて持つこともあるから、龍一自身が戦うことはできない。だから、龍一は一族の子孫に託した。
実際に戦った祖先もいるが、人が闇の力を使うのは容易なことではない。全力を出し切れずに勝てる相手ではなかったし、ネクロズガカとは無関係に闇に飲まれて魔法少女に倒された祖先だっている。
けれど、俺の代まで繋いでくれた。勿論、俺が特別だったわけではない。俺の時代に問題点を解消する答えがあっただけだ。
龍一が目にした魔法少女の悲劇を二度と繰り返させないために、俺は、俺の代でネクロズガカと戦おうと思う。仲間達と一緒に。
ふと、夢の中の龍一が俺の方を見た。
「すまないな、我が子孫、あるいは力を継いでくれた誰か。力を磨き、いつの代になるか分からないが、いつかあの災厄を、倒してくれ……」
それは未来へのメッセージのようなものだ。決してこちらからの声は届かない。それでも、俺は言葉をかけずにはいられなかった。
「龍一さん、子孫の紅一です。やりますよ。きっと、この時代でケリを付ける。見ていてください」
◇
目を覚ますと、そこはリゼの会社の研究部門の俺用の部屋だった。
龍一さんの夢は久しぶりに見た。力を受け継いだ者は皆見るらしく、父もそうだったとのことだ。
今、この夢を見たことはきっと意味がある。俺はふと、カーテンを開けて空を見た。そこには、黒い塊がドス黒いオーラを帯びながら浮かんでいた。
災厄ネクロズガカ。どうして生まれたか分からない怪物。魔法少女特攻を持っていることから、魔法少女に恨みを抱いた何者かが創り出したのかもしれないが、誰も真実は知らない。
そのネクロズガカがついに昨日、姿を現したのだ。きっと、俺に流れる奈雲一族の力が、改めてこの夢を見させたのだと思う。
「必ず倒す。亜紀さん達の無念に、応えますよ、龍一さん」
俺は空に浮かぶネクロズガカを睨みながら呟いた。




