41 一つの心の整理
俺は、懸命な治療の結果、闇の侵食を奇跡的に免れ、リハビリを経て世の中に戻るという体裁を取ることになった。当然、魔法少女連盟からは闇の力を使うことは禁止され、監視もつくだろう。
懸命な治療とやらの中身は、サイファーギアの存在を隠したままでっち上げられることになるので、内容には一部無理が出ると思う。そこからリゼの会社の研究部門が疑われる恐れはあったが、ネクロズガカを倒すまで存続できればいい。皆、そういう想いだった。
ネクロズガカの封印は解かれたが、出現までにはまだ時間がある。恐らく魔法少女連盟は再封印の準備をするはずだ。対して、俺達は戦う準備をする。
また、俺の家の地下にあった闇の施設は、リゼの会社の研究部門にそのまま移動させられていた。魔法少女連盟が俺の家の捜索に来る前に運び出してくれたそうだ。俺にとってはありがたいことで、本当に感謝してもしきれない。
チーム・ユーラルのメンバーの受験の合格発表も過ぎた頃、桜乃が訪ねてきた。きっと、俺にとっても自分の心に整理をつける時になる。
面会室に案内されて待っていると、桜乃が施設員と共に現れた。施設員はすぐに部屋を出ていき、俺と桜乃が部屋に残された。
「紅一……」
「やあ桜乃。久しぶり」
桜乃の表情が硬い。それはそうだろうと思う。研究部門内の同志はサイファーギアのことを知っているから俺への心配はしないだろうが、他の人間はそうではない。当然、桜乃も。
「もう会えないかと思ってた。元に戻れて良かった」
「それについては、この施設で治療してくれた皆のおかげだよ。感謝しないとなぁ」
嘘は言っていないはずだ。サイファーギアを作り出したのはここの部門なのだから。
「桜乃、ごめん!」
「えっ?」
俺は頭を下げた。頭を下げたまま、さらに言葉を続ける。
「俺はあの時、調子に乗ってたんだ。その結果は見ての通りだよ。お前を闇の力で攻撃した。記憶もちゃんとある。絶対に許されないことだ! だから、ごめん!」
「私は何もされてない。私こそ、紅一に攻撃しちゃった。だから、ごめんなさい……!」
桜乃も頭を下げた。二人して頭を下げ合う。おかしな状況だ。
「あと、桜乃のことだから、自分のせいでネクロズガカの封印が解けたと思っているだろうけど、そんなことはない! 俺の方が悪い!」
「紅一こそ、そんな風に考えてると思った。どっちにしても結社は止められなかった! 魔法少女連盟だってそう言ってるよ!」
桜乃ならこう思う。俺ならああだろうと考える。俺達は自然体でそんなだったよな。いつから、そうではなくなってしまったんだろうな。
「紅一はさ、闇の力を使ってまでどうして私達を助けてくれたの?」
「それな。当然、聞いてくるよな」
「うん」
友達だからと答えても良いはずだ。割に合っていないかもしれないが、それでも、自分一人だけ応援するだけというのは許せなかったと。
しかし、俺は正直に自分の気持ちを明かすことにした。次に進むために必要だと思ったから。
「俺は、桜乃のことが好きだ」
「……え?」
桜乃がキョトンとした顔で俺を見る。目が見開かれたようにも感じる。ホントに、全然気づいていなかったな、こいつは。
「そ、そんな……。一体、いつから?」
「どうだったかな。中2の時にはもうそうだったかも。あ、でも、お前が告られた時に相談してもらった時に打算はなかったからな! 振る方に誘導するとか、そういう考えは断じてしていない!」
本当にそうだったかは分からない。ただ、桜乃が断ることを決めた時にホッとしていたのは事実だ。
「そんな桜乃が魔法少女になって、やっぱり一人で戦わせるってのは無理だったよ。俺にも力があったわけだしさ」
「一人じゃなかった……。紅一が戦わなくたって、リゼも浅黄も紫帆もいたじゃない」
「あー、そうだな。まあ、どっちにしても俺が何もしないのが耐えられなかったって話さ」
驚くほど冷静に話せていると思う。桜乃の気持ちは既に知っていたからかもしれない。
「私、紅一とは本当に自然体で一緒にいられた。それが心地よかった」
「桜乃もそう思ってたんだ。それは、俺もだよ。お前を好きだって気持ちが芽生えてからも、それは変わらなかった」
ここまで共通点があっても、肝心な気持ちのところで違ってしまったんだ。
「ごめん、紅一……。私……、やっぱり理人が好きなんだ……」
「ああ、そうだろうな」
その相談を受けたのは俺だぞ? それに、それから理人に接するのが楽しくて仕方ないというお前の感情は、十分に伝わってたよ。
「ありがとう、桜乃。聞いてくれて。それだけでいいよ。お前はその自分の気持ちを優先すべきだ」
いつかリゼが言っていた。これが『ただの恋愛』なら、振り向かせるために仕掛けたっていいと。だけど、やっぱり俺にとって桜乃はそういう相手ではない。
「紅一。私達、何でも言い合える良い関係だったと思ってる。でも、最近はそうじゃなかったよね」
桜乃も気づいているんだと思う。ここ最近、俺がこの話をする前も、俺達の関係はどこか変わってしまっていたことに。
「紅一の気持ちも知らずに、呑気に紅一に自分の気持ちの相談したりして。私、ダメな奴だ」
「俺こそ、多分、その後、桜乃を避けてた」
「そう、だったんだ……」
「悪かった」
「……」
そうだと思う。桜乃が理人との時間を作ろうとしていただけでなく、俺も桜乃と一緒にいる時間を避けていた。
「ただ普通に一緒にいた時が、何も考えずにいられた小さい頃が、一番楽しかったのかもな」
「楽しかった、ね……。なんとなく、ずっと続くんだと漠然と思ってた」
「俺もだよ」
心地よい関係だったよな。そのまま先に進めたらどんなに良かったか。
「桜乃、ネクロズガカのことはきっと何とかなる」
「え?」
「背負いすぎるなよ。お前はそういうところあるから」
「闇の力で背負いまくってたじゃん、紅一も」
「そうだったな。ダメだな、俺も」
「あはは……」
桜乃の笑い声は、どこか寂しそうだった。
話が終わったことを悟り、俺と桜乃はほぼ同時に席を立つ。
「紅一が無事で、本当に良かった。もう、無理しないで」
「ああ、サンキュ。またな、桜乃」
「またね、紅一」
桜乃の背中を見送り、俺は一度座ると、天井を見ながら息を吐いた。
これで、少しは気持ちに整理がつけられるかな。




