40 スカウト
「リゼ……、お前は……。お前は、一体、何者だ!?」
俺は思わずリゼに問いかけた。何かが妙だと思ったことは何度もある。しかし、このレベルは想定できるはずもない。
「紅一もさ、ネクロズガカの封印で何が行われるか、知ってるんでしょ?」
「え? あ、ああ、知っている」
「前回の封印、あたしの大叔母、つまりおばあちゃんの妹さんが関わってるんだ」
「何だって……」
「そこから始まった、あたし達の悲願。それは、ネクロズガカを倒すこと」
「なっ……!?」
なんてことだ。俺と、同じじゃないか……。
「同じだよね、紅一も? あんたが初めて闇使いとしてあたし達の前に現れた時、ペラペラと喋ってたもんね」
「そんなこともあったな……」
確かにあの時、俺は闇に堕ちかけてリゼにそんな話をしてしまった。リゼはネクロズガカのことを元々知っていたというなら、俺の発言は随分と滑稽だったな。
「紅一というより、奈雲一族としてなんでしょ?」
「ああ。何代も前の祖先の想い人が魔法少女で、ネクロズガカの封印に関わったって聞いてる。それで、その魔法少女が辿った運命に絶望して、ネクロズガカの打倒を誓ったんだ。奈雲一族の場合は闇の力に傾倒したんだよ」
「なるほどね。あたし達は、ネクロズガカの闇を喰らうことを考えて、結果、今の形になった。この杖がその成果。あたし達はサイファーギアって呼んでる」
「サイファーギア……。俺を侵食しようとした闇を吸収してくれたんだよな」
「そう。ネクロズガカを喰らうという当初の目的とは違うものになったけど、闇を喰らってパワーに変える。紅一みたいな存在がいるなら、サイファーギアは噛み合うよ」
俺は闇の力をパワーに変えて戦うが、通常なら闇に侵食される。サイファーギアはその侵食してくる闇を喰らった挙句にパワーに変えて、さらに攻撃したりもできるらしい。確かに、俺との相性は抜群だ。
聞けば、サイファーギアは魔具に近いが、現代のAI技術を搭載していて、リゼとはコミュニケーションベースで自律的に動いているらしい。もはやそれは道具というより、相棒だった。
「ちなみに、サイファーギアは魔法少女が好きじゃなくてね。魔法少女形態だと反応してくれないんだ」
「そ、そうなのか」
サイファーギアは肯定を返すような電子音を発した。
「本題よ、紅一。正直、あんたを巻き込むかどうかは悩んだ。でも、やっぱり戦力が必要。あたしは、再封印という選択肢はないと思ってる。紅一、ネクロズガカを倒すために、あんたをスカウトするわ。どう?」
リゼのその勧誘に、正直、俺は鳥肌が立った。再封印という選択肢はない、か。いいな、その言葉。
これまで、桜乃との関係に悩み、チーム・ユーラルにも迷惑をかけ、ネクロズガカの復活にも一枚噛んでしまうという、何をやってもうまくいっていなかった俺の行動が、ようやく好転するんじゃないかとも思えた。
「乗った! よろしくリゼ!」
「ありがとう!」
俺はリゼと握手を交わす。
「あと、ビックリするかもしれないけど、もう一人スカウト済みの人材がいるから」
「もう一人?」
「入ってきて」
リゼがそう言うと扉が開き、黄色い服に金髪の、左腕が魔物化してキバの生えている男が歩いてきた。
「よお、また会ったな奈雲紅一」
「ダ、ダリヴァー!?」
俺は思わず警戒する。どうしてこいつがここに!? ……って、スカウト済みって言ってたもんな。つまりこいつも同志ってわけだ……。俺は改めてリゼの行動力に驚きを通り越して呆れてしまった。
「どういう経緯でこうなったんだ……」
「オレはネクロズガカと戦いたくて結社アルコにいたんだよ。他の奴らとは違う。ネクロズガカの封印が解かれた以上、オレはもう結社に用はねえ。そんな時にリゼの計画を知ったもんでな」
「というわけ。悪いけどあんまり喧嘩しないでね」
リゼは苦笑していた。俺をこいつのような戦闘狂と一緒にしないでほしい。
「ああ、もしかして、魔法少女連盟の研究施設が結社アルコに襲撃された時にスカウトしたのか」
「そうだ。面白ぇと思ったよ。この嬢ちゃん、ネクロズガカを倒すために、つまりは結社すらも利用してやがるからな」
「そうか、そうなるのか」
ネクロズガカの封印は魔法少女連盟の管轄。戦うつもりなら封印を解かなければならない。もし結社がいなかったら魔法少女とも戦うことにすらなるかもしれない。結社がやるなら成り行きに任せたということだ。
ちなみに、ダリヴァーは俺と全力で勝負することを条件にしたらしい。まったく迷惑な話だ。
3人で話をしていると、部屋には研究部門長やスタッフも入ってきた。全員、同志になるわけだ。
「正直、ここでやっているのは闇の研究だから魔法少女連盟に知られたら逮捕される」
「だから、我々のことは来たるべき時まで秘密で頼むよ」
来たるべき時というのは、当然、ネクロズガカの打倒の時だ。
「勝てても、俺達は全員捕まるってことだよな」
「報われないって思う?」
「いいや、そんなことはないさ。リゼは?」
「あたしも。それより、目標達成の方が大事だから」
「ああ、俺も同じ気持ちだ」
そのタイミングで、母も部屋に入ってきた。俺より先に聞かされていたんだろう。リゼに、俺をよろしくと言ってくれた。
「けど、活動するにも、ダリヴァーはともかく、俺も魔法少女連盟に知られちゃったからな」
「それね。紅一はもう少しバレないでいてほしかったのは、正直なところ」
「悪い……」
「いいよ。予定が狂ったら変更すれば良いだけの話」
「ところでリゼ。俺のこと、いつから気づいてた?」
「やたらユーラル・ハートを助けようとするあたりから薄々勘づいてはいたよ。確信に至ったのは割と最近だけど」
「そっか……」
観察眼の鋭さはそんなところにも出ていたようだった。まあ、もう今更だ。
こうして、俺の新たな目標ができた。
俺の代でネクロズガカの打倒など無理と思い込み、そのために一族が磨いてきた闇の力を魔法少女の手助けに使ってきたわけだが、ここからは本来の目的に戻る。思いがけず出会った、目的を同じくする人達と共に。




