38 解かれた封印
紅一が、赤い闇使いだった。そんなこと考えてもいなかった。
でも、今振り返ると、赤い闇使いは必ずチーム・ユーラルを助けてくれたし、私達の近くに潜んでいるのではなく、身近な誰かと想像することは可能だったのかもしれない。今となっては、もう遅い。
ユーラル・アクアが紅一の攻撃を止めてくれなければ、私は紅一に倒されていたかもしれない。そのぐらい、あの紅一の攻撃は凄かった。アクアは全力を振り絞って攻撃を止め、私の目の前で変身が解けた。もし、変身が解けた状態で攻撃を喰らっていたらどうなっていたか……。
私はパニックだった。リゼの無事を確認すると、倒れて意識のない紅一にもすがろうとしたが、理人やユリールに止められた。明らかに闇に堕ちていたから、もう魔法少女連盟に引き渡して治療にかけるしかないと言われた。
紅一が闇に堕ちたという事実が、私を絶望させた。
何故、言ってくれなかったの? どうして危険をおかして戦いに参加したの? 結果がこれなんて、あんまりだ……。
私達がそこで足踏みしている間に、洞窟の奥に侵入したガーベラにネクロズガカの封印を解かれてしまったらしい。パニックになっていた私は他の魔法少女達と一緒に洞窟から連れ出され、魔法少女連盟の施設に運ばれ、今はチーム・ユーラルの皆と一緒にいる。紅一はどこかへ搬送されてしまった。
「紅一君が赤い闇使いだったなんて……」
「私達、バカだよね。こんなに近くにいて気づかなかったんだから」
浅黄と紫帆が言った。その通りだ。私なんて、魔法少女の活動時間の後にも一緒に帰ったりしていたのに。
「魔法少女連盟はなんて言ってるんだい?」
「厳重隔離だそうだ。闇にどこまで侵食されているか次第で、処分が決まるってさ」
ユリールと理人が言った。
「処分!? 処分って何よ!」
私は思わず声を荒げた。状況次第で、紅一がどうなるって言うの!
「それなんだけど、一つ情報提供。紅一の身柄は、うちのお父さんの会社で預かってる」
リゼが思わぬことを言った。
「そっか、リゼんとこの会社、魔法少女連盟のお得意様だもんね」
「うん。研究部門が引き受けてくれた」
リゼはそう言うと、私の隣に来て肩を抱いてくれた。
「あたしは紅一を信じてる。皆はどう? 桜乃は?」
リゼは妙に自信満々に言い切った。強がりかもしれないけれど、今はそれがありがたい。
「そうだね」
「桜乃、大丈夫よ」
「ああ。彼なら大丈夫だ」
皆が私に言葉をかけてくれた。
「ボク達にとっては紅一のことも大問題だけど、ネクロズガカって怪物の方もね」
「魔法少女連盟の方で対応を協議中とのことだ。いずれお達しが来ると思う」
ユリールと理人が言った。
◇
私は一人で桃華先輩に会いに行った。病室の桃華先輩は相変わらずだ。魔法少女から元に戻れない状態も続いている。ただ、色がなくなっている箇所が徐々に小さくなっていて、改善傾向らしい。そのことは本当に良かった。
ネクロズガカの封印を守れなかったことを、私は桃華先輩に謝罪した。
「桜乃のせいじゃないよ。背負いすぎちゃダメ」
「でも、私と紅一が争っている間にガーベラを行かせてしまった」
「紅一君が赤い闇使いだったなんてね。しかも、ダリヴァーに連れ去られてから戻ってこられるなんて」
「リゼによると、ダリヴァーは紅一が全力を出せないことを知って興味を失ったそうです。どこかへ行ってしまったと」
「よく分かんない奴」
「あ……はは、ホントですね」
私は下を向いてしまう。
桃華先輩の仇も取れず、仲間とトラブルになってあんなことになってしまうなんて。もう何がなんだか分からなかった。
「桜乃、おいで」
「……すみません」
私は桃華先輩の胸に顔を埋めさせてもらった。桃華先輩の上半身は、小さくなってきたとはいえ、まだ色のない部分が螺旋のようになっている。それでも、力強い鼓動が聞こえた。色のない部分に力が入らないのは相変わらずで、看護師が補助をして私を抱き締める形にしてくれた。
「私達、どうなっちゃうんだろうね」
「分かりません……」
桃華先輩も不安なのだと思う。ネクロズガカの脅威に一番近い経験をしているのだから。私ならきっと、二度と同じ目には遭いたくないと考える。
「先輩、ちょっと話聞いてくれますか?」
「いいよ」
「紅一、ずっと私達を守ってくれてたんです。なのに……、私、紅一を攻撃しちゃった……」
「うん……」
「紅一に攻撃されそうになったのも、辛かったけど、私も攻撃しちゃったんだから喰らってた方がおあいこだったんじゃないかって、そんなことも思うんです……」
「そこは、私はリゼ派かな。紅一君のためにも止めてくれて良かったと思うよ」
「そうなんでしょうか。でも、やっぱり、紅一が戻ってこられなかったらどうしようというのが、一番怖い」
桃華先輩の胸の中で、私は涙を流した。




