37 図に乗った代償
皆が無事で良かった。桃華先輩に使ったというネクロズガカの模倣品を、ガーベラは今回は未使用のようだ。
なら、ここからは俺に任せてほしい。やり遂げてみせる。
俺は赤い光刃を両手にまとわせ、ガーベラを攻撃した。
「あなた、ダリヴァーをやったの!?」
「そうか、あんた、俺の正体を知っているんだな。なら、余計なことを喋る前に倒す!」
「あ、ありえない……! 何よ、発見って!?」
「そう、それも早く調査したい! だから早く沈んでくれ!!」
少し力を入れてガーベラを攻撃する。さっきの高揚感が忘れられない。あのダリヴァーを相手に正面から勝ち切ったんだ!
浮かれている自覚はある。この場にあの青いフィールドはないのだから同じように戦ってはいけない。頭ではそう思っていたのに、あの万能感が俺を支配していた。
『気持ち良かったもんな。日本最強の魔法少女が勝てなかった相手を倒したんだぜ』
ああ、そうだな。あの俺なら何でもできるよな。
ユーラル・ハートがピンクの魔法光弾で攻撃したところを、すかさず赤いビームで追撃する。
『ダリヴァーを倒せたのならガーベラもやれる。ランクはガーベラの方が下だからな』
そうだ、いつでも倒せる。実力さえ出してしまえば。
『出してしまえよ』
いやいや、そうはいかないって。
ガーベラの攻撃が理人に向かう。援護に回れる位置に魔法少女がいなかったので、ユーラル・ハートがピンクの残光を残しながら超スピードで移動して理人に抱きつき、その場から退避させた。
『見ろよ、あの女。俺とは違う男と抱き合ってるぜ』
ああ、今でもいらつくな。
『見せつけてやれよ、お前の本当の力を。あの女も心変わりするかもしれない』
そう単純じゃないだろ。いやでも、見せつけるのはありかもしれないな。どんな顔するんだろう。
「あなた、堕ちかけているわね……?」
「そんなことはないさ」
ガーベラの問いかけに俺は笑いながら答える。堕ちているわけないじゃないか。さっきはダリヴァーを倒すところまでやり切ったんだぞ。
『そうだ、堕ちてなんかいない。闇に心を委ねることは堕ちることとは違う』
だよな。結社No.3も頭が悪いよな。
「あはは、いいわ。なら、この場はあなたに任せようかしら」
「赤いの、落ち着いて!」
「堕ちかけてる!! 一度止まって!!」
ユーラル・ラベンダーと別の魔法少女の声が聞こえた。うるさいな、俺に任せておけば良いんだ。
「手助けしてあげる」
ガーベラが赤く太いビームを放ってきた。
『避けるまでもないぜ。弾けるところを皆に見せつけてやれ』
ああ、こんなもの、避けるまでもない!
俺は囁きに答えるように、両手に赤い闇の力を込め、ガーベラの攻撃を弾き飛ばそうとした。
「何してるの!!」
横から何かに突き飛ばされた。確認すると、ユーラル・ハートに……、キックされた……!! 何してくれやがる!
ガーベラの攻撃は俺のいた位置を通過していった。
『あーあ、あの程度、簡単に弾けたのに』
本当だよな。いちいち俺のメンツを潰してくる女だよな。
『理人に夢中で疎遠になったし、もう俺のことなんてこれっぽっちも心にないんだろうぜ』
ああ、マジで、そうみたいだな。
「ちっ、邪魔されたか。でも、そこまで蓄積すればもう後戻りできないでしょう」
ガーベラがよく分からないことを言っている。
「赤い闇使い! 戦闘をやめなさい! やめなければ、あなたを倒す!」
ユーラル・ハート? お前、何言ってんだ?
『ずっと俺はあいつを助けるために戦ってきたのに、すっかり裏切られたな』
俺がどんな想いで正体隠してお前を助けてきたと思ってんだ! それなのに、攻撃してくるなんて!
「仲間割れ、成立のようね! なら私はここで失礼するわ、やることもあるしね!」
ガーベラがこの場を離脱する気配が分かった。他の魔法少女達もそれを追った。
「待ちなさい!」
目の前のユーラル・ハートも追ったので、俺は高速移動をしてその前に立ちはだかった。
「なっ!?」
「人を足蹴にしておいて、謝罪もなしか?」
「そんなこと言ってる場合!?」
「いつから私は君の敵になった!」
「魔法少女連盟があなたの逮捕命令を出していたのも分かるわ! あんた、自分の今の状態、分かってないでしょ!!」
ハートが俺に向かって怒鳴る。
「うああっ!?」
「ぎゃああっ!?」
ガーベラを追っていった魔法少女達の悲鳴が聞こえた。俺に任せておけば良いのに無理するからだ。
「どいてよ! ガーベラが逃げちゃう! 私はあいつを倒さなきゃいけないんだ!」
『闇を受け入れろ、俺。さあ、もう少しだ』
ああ、そうしよう。もっと早くこうすれば良かったな。
「どけ!!」
ユーラル・ハートがピンクの魔法光弾を俺に放ってきた。
「なっ!?」
俺はすんでのところでそれを避ける。
「待ちなさい、ガーベラ!!」
ユーラル・ハートがガーベラを追う。俺は態勢を立て直して再びハートの前に回り込んだ。
「あんた……っ!!」
ハートが怒りの目で俺を見た。
ハートがピンクの光をまとって右手で殴りつけてきた。状況がスローモーションのようになる。
『ついに敵になったぞ、俺の幼馴染』
ホントだな……。
『でも、清々しただろう?』
かもな……。
俺はハートの攻撃をかわすと、右手に赤い闇の光をまとわせて横薙ぎにした。
ハートはそれを避け、俺の顔面にピンクの魔法光弾を撃ち込んできた。
「ぐっ!!」
痛ってえ! ホントに当てやがったな!
「どけって言ってるでしょ!!」
ハートはさらに俺を怒鳴りつける。
頭がクラっとし、足元がふらついた。その瞬間、マスクが砕けて二つに割れ、地面に落ちた。
「えっ……」
ハートの声が聞こえたが、俺は脚を踏ん張って姿勢を戻し、ハートを睨みつけた。
「こ、紅一……?? えっ……、えっ……? な、何をやって……」
ハートがうろたえながら後ずさる。
『バレちまったな。けど、これで良かったんじゃないか』
良かった?
『思い知らせてやれよ。俺を裏切った罪。アルティメットフォームだろうが力負けなんてしないんだから』
なるほどな。何なら、力でねじ伏せてやっても良いかもな。
俺は右手に闇の力を集中させると、右手が赤く発光した。
「ち、ちょっと待っ……! やめてよ……! 紅一!!」
ハートは先ほどまでの威勢はどこへやらといった様子で狼狽する。理人といちゃついてニヤニヤしていた笑顔との落差が爽快で、心地よい。お前なんか……、お前なんか……!!
右手を動かし始めると、攻撃されることを悟ったのか、ハートは両腕で防御姿勢を作って縮こまり、目を瞑った。
そのまま、右腕を振り抜いた! 赤いオーラがハートに向かう。その時、
「ダメだぁぁぁぁぁぁあああ!!」
大声が聞こえると、目の前に青い光が飛んできた。俺の放った赤いオーラを、滑り込んできたユーラル・アクアが受け止める。
アクアからは青い光が発光して俺の攻撃を止めているようだったが、あっという間に力尽きたようで、変身が解除されてリゼの姿に戻った。
……不可解なのは、変身が解除されたのに青い光が続いているように思えたことだ。
錯覚か? リゼから青い光が出ているようにも見える。右手に何か持っている? ユーラル・アクアだった時の残り香とは違うのか?
俺の身体と心を覆い尽くそうとしていた闇が、急速に消失していくのが分かった。あれ、これって、さっきの青いフィールドと同じ現象なんじゃ……?
急に身体に力が入らなくなり、俺は地面に倒れた。俺の攻撃は、青い光に消し去られたようだ。
「リ、リゼ!? 変身が解けてる!! 大丈夫!?」
ユーラル・ハートのその声が聞こえたところで、俺の意識は途絶えた。




