35 暗躍していたのは
「そうかそうか。少し力を入れてしまうと闇に侵食されちまうはずだったもんな! それだったら躊躇するかもな! だが、ならば、今のお前は何だ!?」
「……」
結社No.2のダリヴァーにこの状況を言語化され、俺は戸惑ってしまった。
全力を出したことなんてない。あろうはずがない。全力どころか、ほんの少しの力を込めればたちまち闇に侵食される始末だったのだ。しかし、全力が出せるのなら……? 一族の悲願、ネクロズガカの打倒に手が届くというのか?
その考えに、俺は頭をブンブンと振った。
ダメだ! 根拠のない思い込みは身を滅ぼす! 復活を阻止する方が良いに決まっている!!
「そこで悩むのかよ。もっとガキ相応に英雄願望でも抱けよ。世界を救えるかもしれないんだぜ?」
「黙れ!」
俺は再び両手に込めた赤い光刃でダリヴァーを攻撃した。ダリヴァーも打ち返してくる。
こうやって全力を出せるのは、この場所に溢れる青い謎の光のおかげだった。段々と実感できるようになってきたが、俺が闇の力を発現すると、侵食してくるはずだった闇が青い光に捕まり、吸われていくのだ。だから俺に影響が出ない。
一体この青い光の風は何だ! どうして祖先はこれを発見できなかった!
「うおりゃ!!」
「はあっ!!」
ダリヴァーの黄色く光る重い蹴りを、こちらも赤い闇の力を帯びた脚で蹴り返す。
こうして初めて出す全力のパワーにも、俺は驚く。俺も鍛錬で磨きはかけたはずだが、大部分は受け継がれてきたものだ。ここまでの力だったのか。
英雄願望と言ったダリヴァーの言葉が蘇る。確かに、今なら何でもできそうな気がしてくる。
ユーラル・ハート達はどうしているだろうか。ガーベラと戦っているのか。今の俺が向かえば、簡単に助けることができてしまうのでは……?
◇
ダリヴァーとどのぐらい戦っていたかは分からない。かなり経過したような気がする。ついに俺の息が切れ、ダメージが蓄積してきた頃、ダリヴァーが膝を地面について動きを止めた。
「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!」
「ち……、マジかよ……。オレが勝てないとまでは思わなかったぜ……」
ダリヴァーは力が残っていないらしく、なんと負けを認めてしまった。
「終わり……、だと?」
「ああ、悔しいがお前の勝ちだ。良かったな、これで英雄に近づいたぞ?」
「ふざ……けるな!」
「こっちの台詞だぜ。また超えるべき目標が増えちまったじゃねーか」
「逃がすとでも思うのか!?」
「オレに構い続けて良いのか? 魔法少女達はまだ戦っているんだろ?」
そう言われて俺はハッとし、慌てて通信端末を引っ張り出す。
洞窟外では結社No.1とランク1位2位の魔法少女チームは未だ交戦中。洞窟内はチーム・ユーラルを中心にNo.3ガーベラと交戦中も、情勢が悪いということだった。確かに、ダリヴァーをここで拘束している場合ではなかった。
「そうか、皆!」
俺は闇の力を脚に展開し、ジャンプを繰り返して、落ちてきた崖を上り始めた。
「また会おうぜ、奈雲紅一」
下からはかすかにダリヴァーの声が聞こえた。
◇◇
紅一が行ってしまうのをダリヴァーは見届けた。
「よお、終わったぜ。出てこいよ」
「紅一と1対1で戦いたいだなんて、難しいこと言ってくれちゃって」
「うまくいったんだからいいじゃねえか」
誰かが歩く音が響く。ゆっくりと岩の影から姿を現したのは、青を基調とした服を着て、背中に長い杖を身に付けた、ただの少女だった。普通ではなかったのは、彼女を中心に青いフィールドが形作られていたことだ。
「リゼ、お前もそうやって暗躍して、大変なこったな」
「紅一には今ここで事情を明かしても良かったのに、あんたが余計なことを言うから……」
「いやいや、流石にオレとお前の話が先だろ」
「うー、それもそっか」
現れた少女、リゼは静かにダリヴァーの元に進み、腰をかがめた。そのタイミングで青いフィールドも収まっていった。
「負けたね」
「ああ、まさかあれほどまでとは思わなかった」
「あんた、あたしの友達に手を出したんだからいい気味だわ」
「オレは試合に勝ったぐらいの気持ちでいたんだがな。魔法少女もぬるいねぇ」
ダリヴァーの言葉にリゼはため息をつく。価値観が違いすぎてどうしようもないという表情だ。
「で? 望みは叶えてあげたけど、どうするの?」
「ああ、あれなら申し分ない。お前のくだらん計画に乗ってやるよ。オレもその方が楽しめそうだからな」
「なら交渉成立ってことで」
「おう、よろしく」
ダリヴァーの返答に、リゼが苦笑いを浮かべた。
「じゃ、あたし行くから。皆も心配だし」
「ガーベラが造ったネクロズガカの模倣品は前の一つだけだ。過度な心配は要らねえと思うぞ」
「あの時、キルシェ先輩は既にボロボロだったのに、ガーベラと戦わせてしまったのは……、今でも後悔してる……」
「お前がオレと接触するチャンスだったんだ。目的のための犠牲だと思えよ」
「嫌な言い方、するなぁ……」
リゼはそこまで言うと、背中に背負っていた杖を持った。すると、杖が消失した。さらに、魔法少女形態、ユーラル・アクアに変身し、飛んでいった。
「崖を登り切るくらいまでは、変身しなくても良いんじゃないかねぇ。誰も見てねぇよ」
ダリヴァーがユーラル・アクアを見送りながら言った。




