29 大敗北
今の日本で最強の魔法少女であるグレイス・キルシェと、結社No.3のガーベラが向き合う。ガーベラは赤く光るステッキを取り出した。
「魔法少女なんてやっていると、そうやって歪な正義感に支配されるのよねぇ」
「魔法少女だからなんかじゃないわ。私は私よ」
「強者になれる特権で手に入れた力だというのに、よく言うわ」
ガーベラがステッキを振るうと、赤い閃光がキルシェを襲った。
「くっ!!」
キルシェは身をよじって何とかそれを避ける。ガーベラがそれを追い、赤く光る腕をキルシェに近づけた。キルシェはそれをピンク色の光をまとった腕で受ける。そのまま蹴り上げでガーベラを追い払った。
「ふーん、まだ少しは力が残っているようね」
「はぁっ……! はぁっ……!」
「キツそうね。もう無理だって分かっているでしょうに」
「無理なことなんて、ない!」
「虫唾が走るわ。終わりにしましょう、お嬢さん」
ガーベラはキルシェのいる位置でないところに赤い光弾を放った。
「うわっ!!」
「なっ!?」
赤い光弾はチーム・グレイスの導き手である将を襲った。キルシェは間一髪で将を攻撃から救った。
「何を!」
「チームが総崩れなんだから導き手を狙うのは当然でしょう。私はダリヴァーのような戦闘バカじゃない」
チームが健在であれば、導き手は代わる代わる援護することができるが、今はキルシェしか残っていない。将を狙われたらキルシェが何とかするしかないのだ。
「まずそのアルティメットフォームを終わらせてあげる」
「くそっ、どうすれば!!」
将が叫ぶも、魔法少女ではないから攻撃されたらどうしようもなかった。
ガーベラは赤いビームを将に向かって放つ。キルシェが高速移動で間に立ったが、それも見越していたガーベラの二撃目が発動し将に命中した。
「ぐあっ!!」
「将!?」
将の悲鳴に、キルシェが振り向いたが、将はもう目を瞑って動かなかった。導き手がダウンしたので、キルシェの姿が通常状態の魔法少女に戻ってしまった。
「終わりよ、魔法少女」
「く……そぉぉぉ!!」
キルシェはピンクの光を帯びてガーベラに突進した。
「ヤケクソの特攻。哀れね」
キルシェは攻撃を連打し、ピンクの残光が飛び交うも、ガーベラに全く効いている様子はない。しばらくそのまま攻撃を受けていただけだったガーベラはステッキを懐にしまい、キルシェの両肩を掴んだ。
「あ……」
ついにキルシェの動きが止まった。
(負け……るの?)
キルシェがそう思った瞬間、ガーベラの両手から赤い闇の力がキルシェに流れ込む。
「ぐ……ああっ……!?」
キルシェは絶叫し、地面に倒れ込んだ。
「あ……ぐ……」
キルシェは魔法少女状態こそ解除されなかったものの、苦痛に悶える。ガーベラは腰を下ろしてキルシェを覗き込んだ。
「ランク3位のチームともなると、ネクロズガカのことを聞かされているのではなくて?」
「あんた達が……、復活させようと、している、災厄……」
「そうよ。やっぱり知っていたのね。魔法少女連盟も鬼ね。あなた達上位陣にだけ背負わせるなんて」
「そんな、ものがいるなら……、復活阻止に動くのは、当然……」
「なら、復活したら立ち向かうの?」
「当たり前……よ……」
「無知は罪ね。魔法少女には絶対に勝てない」
「な……に……?」
ガーベラは立ち上がると、懐から黒い粘土のような球体を取り出した。赤い魔力を注ぐと、それがグネグネと蠢き始める。
「これはね、ネクロズガカの生態を模倣した紛い物。力は本物には遙かに及ばない。でもね」
ガーベラは再びしゃがみ込み、キルシェの顔を覗き込んで頬に手を当てた。
「あなたみたいな気取った魔法少女に恐怖を受け付けるには十分よ。ネクロズガカの恐ろしさを知らしめる人柱になりなさい」
ガーベラは立ち上がって、球体を地面に落とした。
(あれは……なに!?)
キルシェは本能的に危険を察知し、距離を取ろうとしたが、ダメージが大きく、うまく動くことができなかった。
球体は蠢きながら、やがて膨れ上がり、至る部分からドス黒い触手が生えてくる。
「色を吸われる地獄を味わえ、魔法少女」
ガーベラがそう言ったタイミングで、触手群はキルシェに向かった。
「うああっ!!」
触手はキルシェの胴体、腕、脚を拘束し、空中に持ち上げてしまった。そして、力を吸い始めた。
「ぎ!? ぁぁああああああっ……!!!」
感じたことのない苦痛に、キルシェは絶叫を上げる。
「苦しい? でもそれは本物ではないからね。本物に捕まったらもっと酷いことになるわよ」
ガーベラが言葉を発するも、力を吸われて苦しむキルシェはそれどころではなかった。
身をよじらせ、腕や脚に力を入れて抵抗するも、触手はびくともしない。キルシェの身体に食い込み、ピンク色の光がキルシェから触手の方に流れていく。触手に近い部分ほど、キルシェの身体や衣装から色が消えていった。
「がぅああああぁぁぁあ!!」
「良いわね。この国で最強の魔法少女がそうして無様に泣き叫ぶ様は、他の魔法少女達の心を折ってくれるでしょう」
「ぐっ!?」
ガーベラのその言葉がキルシェに届くと、叫ぶのをやめ、歯を食いしばって耐えようとした。
「ぐぅぅぅぅうう!!」
「あら、余計なことを言ったかしら? 健気ねぇ。いや、哀れか」
キルシェはせめて耐えることで抵抗しようとした。しかし、色を吸われる苦痛は決して消えない。食いしばる歯からは涎がこぼれ、苦しさから溢れる涙を止めることもできなかった。
その拷問とも言える時間は、ネクロズガカの模倣品が動きを止めるまで続いた。
「動かなくなったか。ちょっとしか動かない偽物で良かったわね、お嬢さん。本物に捕まっていたら死ぬまで吸われ続けるところよ」
ネクロズガカの模倣品は動きを止めると、そのまま硬くなった。キルシェを拘束する触手部分も硬まり、キルシェが宙に浮いたままの状態になる。
「あ……ぅ……」
キルシェはもう何もできない状態だ。
すると、そこへ結社No.2のダリヴァーが合流してきた。
「おいおい、使ったのかよ、それ。倒すのはいいけど、壊すんじゃねぇよ、もったいない」
「あらダリヴァー。終わったの? 随分と時間がかかったようだけれど」
「ああ。なかなか面白い奴だったぜ、ユーラル・アクア。少なくともオレはまた会うことになるだろうな」
「ってことは潰してはいないのね。どうしてそう相手に情けをかけるのかしら」
「より強くなって挑んできたら楽しいじゃねぇか。もっとも、あの嬢ちゃんに関してはもっと楽しいことになりそうだけどな」
「勝手にやってなさいな戦闘狂。私は興味ないわ」
ガーベラとダリヴァーが世間話のような雰囲気で会話をする。するとそこへ、
「ダリヴァー、ガーベラ! 終わったぞ!」
「お、工作員が戻ってきたな」
「じゃあ、これで仕事終了ね。帰りましょうか」
ダリヴァーは倒れていた結社No.4のノレクスを担ぎ、ガーベラとさらに結社の工作員の4人でその場を離脱していった。
その日は、魔法少女の日本支部の大敗北の日となった。




